明暗を分けた新戦力のフィット感 ゼロックス杯2016 広島対G大阪
昨年と陣容が変わっていないように見える広島だが……
今シーズン最初のタイトルを手にした広島。選手たちの表情にも強い自信が感じられる 【宇都宮徹壱】
「前半の入りは良かったと思いますが、そこで決め切ることができませんでした。G大阪もわれわれも、組織としてしっかり戦えるチームなので我慢しながらの戦いでしたが、選手たちが焦れずに戦ったことが、後半の得点と勝利につながったと思います」
一方、G大阪の長谷川監督は敗因のひとつとして「前線からのディフェンスができていないこと」を挙げていた。これは鳴り物入りの新戦力、アデミウソンがあまりフィットしていなかったことに起因している。
「アデ(アデミウソン)とパト(パトリック)が青山のことを気にし過ぎていた。パトもアデの分をしっかりカバーしようとしていたんですが、逆にそこ(ボランチ)を気にし過ぎるあまり、センターバックにプレッシャーをかけられなかった」
それでも、前線での守備が計算できる倉田秋をあえてベンチスタートとし(後半15分にアデミウソンと交代)、新戦力を積極的に起用したのは「こうして試合で使わないと(課題が)明確にはならない」(長谷川監督)からだ。勝負にはこだわりつつも、これからの長いシーズンを戦う上での判断としては、決して間違ってはいない。もっとも同じ新戦力でも、ウタカがこれほどまでに広島のサッカーに順応していたのには、正直驚かされた。その点について森保監督は、満足そうな表情を浮かべながらこう語る。
「これまでもキャンプと練習試合でプレーしてもらい、チームにどう融合させるかやってきました。彼はあまり守備をやったことなかったと思いますが、組織として戦うための規律を守ろうとしていました。ストレスがたまるようなこともあったでしょうけれど、良いトライをしてきたことが、あのゴールにつながったと思います」
この日の広島のメンバーは、一見すると昨年とさほど陣容が変わっていないように見える。しかし、昨年のリーグ戦では3試合しか出場していなかった茶島やDFのバックアッパーだった佐々木翔が、それぞれクラブW杯やCSでの貴重な経験を経て、この試合で自信溢れるプレーを見せていたのは実に印象的であった。新加入のウタカのみならず、これまで出番が少なかった選手もまた、広島のスタイルを完全に血肉として躍動している。あらためて、広島の底力を見る思いがした今回のゼロックスであった。
誤審を認めた飯田主審
試合後、飯田主審と話し込むG大阪の丹羽。その後、飯田主審は誤審を認めて謝罪した 【宇都宮徹壱】
第一の注目点は、試合の流れを決めた後半10分のPKの判定について、飯田主審が試合後に誤審であることを認め、G大阪の選手たちに謝罪したことである。試合後、当事者である丹羽と飯田主審が、何事か話している様子を見ていて会話の内容が気になっていた。実際には飯田主審は誤審を認め、丹羽もそれを受け入れたようである。「今後、こういうことが起こらないようどうするかを、日本のサッカー界全体で捉えていけばいいし、僕がそのきっかけになればいい」と丹羽はミックスゾーンで語っている。
これまで、誤審を含む微妙な判定があった場合、裁く側は自らの無謬性(むびゅうせい)に固執し、裁かれる側は(監督も含めて)相手への不信感を募らせることが多々あった。その意味で、今回のケースは極めて珍しい。もちろん誤審はないに越したことはないが、起こってしまったあとにレフェリーと選手の間で円滑なコミュニケーションが行われたことについては、来るべきシーズンに向けた明るい材料といえよう。これに付言するならば、テレビのスポーツ番組で問題のシーンがカットされていたのは何とも残念だった。レフェリングの問題については、当事者のみならずメディアの側も自己規制せず、きちんと直視する必要があるのではないか。
もうひとつの注目点は、今シーズンが前倒しで開催されたことである。ゼロックスが2月20日、J1の開幕戦は27日である。2月開幕というのは、24年のJリーグの中で最速。もちろんこれはCSとクラブW杯の影響によるものだが、結果としてかなりちぐはぐな日程となってしまった感は否めない。ポストシーズンには絡まず、天皇杯も早々に敗退したクラブは11月でオフに入ることになる。逆にオフが短かった広島とG大阪、そして浦和にしてみれば、いきなり23日、24日に行われるACL(AFCチャンピオンズリーグ)とリーグ開幕戦というテンションの高い連戦に臨まなければならない。
Jリーグが知恵を絞って導き出した16年のカレンダーは、しかしながらプレーヤーズファーストでもカスタマー(=ファン)ファーストであるようにも感じられない。CSというフォーマットの浸透や新規ファンの開拓も含めて、今季の日程がリーグに及ぼす影響についても注視していくことにしたい。