らしくない戦い方が続くバルセロナ アウェー戦で見せた専守防衛の姿勢

勝利が勝利を呼ぶ好循環

メッシの負傷離脱や新戦力の補強禁止といったアクシデントの中でも好パフォーマンスを維持してきたバルセロナ 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 今から1年と少し前。レアル・ソシエダ戦(0−1)後のロッカールームで生じたルイス・エンリケ監督とリオネル・メッシの衝突事件による危機を境に、狂っていたバルセロナの歯車は少しずつ、かみ合いはじめた。

 その後チームは勝利を重ねる中で落ち着きと自信を取り戻し、ついにはこの1年間で獲得可能な6つのタイトルのうち、5つを手にするに至った。今やメッシが練習を無断で休んだことや、ジェラール・ピケが試合中にベンチで携帯電話をいじっていたことなど、誰の記憶にも残っていない。

 溢れる笑顔が周囲の批判を圧倒的に覆い尽くし、誰も選手と監督の確執など話題にしなくなった現在、バルセロナのユニホームの胸には2015年のクラブワールドカップ(W杯)優勝を示すエンブレムが誇らしげに輝いている。

 勝利が勝利を呼ぶ好循環は15−16シーズンに入っても途切れることなく、メッシが負傷で離脱を強いられても、FIFA(国際サッカー連盟)から課された制裁により新戦力の補強が禁じられても、ルイス・エンリケは緊急時に複数のポジションで活躍したセルジ・ロベルトを筆頭としたカンテラーノ(下部組織出身者)たちを総動員することで、好パフォーマンスを維持してきた。

“緩い”試合となったマラガ戦

ルイス・エンリケはマラガ戦での会見において前半を「ここまで“緩い”試合はなかなかできない」と表現した 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 しかし、年明け以降のバルセロナは何かがおかしい。

 引き続き結果は出し続けている。だが、いずれも苦戦を強いられたエスパニョールとのスペイン国王杯5回戦のセカンドレグ(2−0)、アスレティック・ビルバオとの同準々決勝ファーストレグ(2−1)、そしてリーガ・エスパニョーラ第21節のマラガ戦(2−1)などでは、チームの戦い方に顕著な変化が見られた。

 いずれも敵地で戦ったこの3試合において、ルイス・エンリケ率いるチームは近年常にそうしてきたようにボールポゼッションとハイプレスを通して能動的にゲームをコントロールするのではなく、リードを守りきるために守備ラインを大きく下げる専守防衛の姿勢が目についたのだ。

 別にそれは受け入れ難い戦略ではないし、ルールを逸脱しているわけでもない。ただ近年のバルセロナはそのような戦い方とは対照的なスタイルを貫いてきただけに、ひときわ注意を引く現象だったのである。

 それらの変化が今季の最終的な成績に悪影響を与えるかどうかは、現時点では何とも言えない。現状バルセロナは国王杯では準決勝へ勝ち進み、リーガでは1試合未消化の状態で首位に立つなど、至って順調に結果を出しているからだ。

 しかし、バルセロナのフットボールは試合の勝ち負けが全てではない。そしてここ数試合で見られている結果主義的なプレー傾向は、近年のバルセロナには長らく見られなかったものだ。その点はルイス・エンリケも認めており、マラガ戦後の会見では前半の試合内容を「ここまで“緩い”試合はなかなかできない」と表現していた。

 これらの試合を見た印象としては、厳しいプレッシャーを受ける中でのビルドアップや、守備時のポジショニングやマークの付き方について、最終ラインから中盤にかけて何人かの選手に迷いが生じているように感じられた。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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