宇野昌磨に見られたポジティブな変化 FSの最後に4回転を入れた理由とは

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成長につながった「攻めの姿勢」

シニアクラス移行1年目の今季、宇野昌磨の躍進が続く 【坂本清】

 その疑問に対する答えを宇野は持っていた。冷静さを失っていたわけではない。裏づけがしっかりとあったのだ。

 9月に米国のソルトレイクシティで行われたUSインターナショナルクラシックに出場した宇野は、ミスを連発し合計207.41点というスコアで5位に終わった。この大会で学んだことは、「なんとかしてジャンプを下りようと弱気になったときにミスが生じる」ということだった。振り返ってみれば、これまで犯した失敗の多くは“逃げ”の姿勢に入ったときに起きていたのだ。

 これに気づいた宇野は、シーズンの目標として「何があっても攻めていく」ことを掲げたという。その結果、次々と自己ベストを更新していくという成長につながった。今大会での挑戦はその目標に従ったに過ぎない。むしろその姿勢を否定してしまったら、今季の躍進はなかったとさえ考えている。

 もちろん、リスクのあるところに批判はつきものだ。今回は結果的に問題なかったが、もしも五輪や世界選手権で優勝やメダルが懸かっているときに同じような状況を迎えたとしたらどうするのか。宇野はきっぱりとこう答えた。

「そのときの自分になってみないと分からないですけど、そういう大会の方が迷わずに挑戦すると思います。よく思うんですけど、攻め続けて失敗した方が自分は満足できている気がします。むしろ下手にノーミスして、ちょっと危ないジャンプのときよりもすがすがしい気持ちになるんです」

「僕にとってためになる挑戦だった」

伸び盛りの18歳、宇野昌磨は今後どのような成長曲線を描いていくのだろうか 【坂本清】

 宇野を指導している樋口美穂子コーチもこの挑戦を評価する。

「いつも攻めるように言っていたので、それは後悔していないし、成功したかったけど、判断としては悪くなかったと思っています」

 挑戦は人の成長を促す。羽生結弦(ANA)はNHK杯でSPとFS共に世界歴代最高得点を更新したとき、あえて難度を上げたプログラムで臨んだ。その前のスケートカナダでミスをしたこともあり、コーチのブライアン・オーサーは少しレベルを落としたプログラムに変更することを提案したが、羽生は「それができたとしても成長できない」と考え、首を縦に振らなかった。そしてそのプログラムを滑り切るために猛練習を行い、史上初の300点超えという歴史的快挙を達成した。この絶対王者に追いつくために、宇野は今後より多くの挑戦を重ねていく必要がある。

 しかし、それが無謀すぎてもいけない。そこは樋口コーチも「きちんと話し合いながら練習もしていますし、時にはやらかしてしまうかもしれませんが、大丈夫です」と太鼓判を押す。フィギュアスケートはメンタルに影響されやすいスポーツ。だからこそ、こうした攻めの気持ちを持てるようになったことは、宇野にとってポジティブな変化だろう。

「いつもだったら1本目のジャンプで失敗して、そのときには(難易度を上げたジャンプを)やろうと思うんですけど、最後になったらやめておこうとなるんです。でも今回は珍しく最後まで攻めたいという気持ちがありました。この選択を正しいと思う人は少ないと思います。いろいろな言い方をする人もいると思うんですけど、僕の中では間違いではなく、ためになる挑戦だったなと思います」

 大事なことはこうした選手の意思を周りが理解してあげること。そうすればその挑戦は、今後のさらなる飛躍につながっていくはずだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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