高校駅伝アベックV世羅、強さの秘密 好循環を生む“目標”の存在
アベック優勝を果たし、記念写真に納まる世羅の岩本真弥監督(左端)と選手たち 【写真は共同】
連覇達成の原動力は「悔しさ」
その世羅高が「神の領域」と称賛された04年仙台育英高(宮城)の2時間1分32秒を更新した。2位・九州学院高(熊本)に1分48秒差をつける圧勝。メンバーは「神を超えたら、何て言えばいいんだろう」と大記録に興奮した。
しかし岩本真弥監督が「勝った翌年のチームづくりは難しい」と話す通り、連覇への道のりは平坦ではなかった。ケニア人留学生のポール・カマイシ(3年)は2連覇を狙ったインターハイ5000メートルの決勝レース中に右足を疲労骨折。主将の新迫志希(同)は2年時に5000メートル14分00秒45の好記録をマークしたが、今季はインターハイ5000メートル途中棄権など長いスランプにもがいた。前回4区1位の中島大就(同)には一昨年の全国7区で栄冠をめぐる4人のトラック勝負で“最下位”になった記憶がある。
井上弘之(同)は前回6区で区間賞に輝いたのに今夏のインターハイ1500メートルは予選落ち。今季成長株の植村拓未(同)は前回控え要員。前回の優勝テープを切った吉田圭太(2年)は今年のインターハイ出場種目で希望した5000メートルの1校3人枠に入れなかった。それぞれが悔しさを抱える王者。「2時間0分台、それ以上」という記録への挑戦もチームを引き締めた。
留学生×日本人の相乗効果
岩本監督は元中学教諭。目標を持つことの大切さ、与えられるより自ら考えてチャレンジすることの意味を伝え、スランプで悩んでいても積極的に介入せず「待つだけです」と言う。子どもたちの将来性を伸ばす指導がチームづくりの骨格にある。
今季は“日本人エース”が3人育った。新迫、中島、吉田だ。その1人、中島が1区。ハイペースに持ち込み、終盤まで区間賞を争った。トップと8秒差の区間3位は合格点。2区・井上が区間賞の走りで首位に立つと、3区・カマイシ、5区・山口和也(3年)、6区・植村も区間賞でたすきを加速させ、仙台育英高の記録ペースを上回った。
そして7区、精神的なスランプからエースの座に帰ってきた新迫は、記録という見えない敵と競り合った末、ついに「神の領域」を突破。世羅高は記録との勝負にも勝った。
記録を狙うあまり気負いや空回りによって失速するケースもよくあるが、「全員が想定通りに走りました」と岩本監督。1区・中島は「カマイシがケガでつらいとき、カマイシがいなかったら俺たちはどうなんだ? と考えるようになり、日本人だけでも勝てるチームをつくろうとやってきました。それにカマイシが加わって、新記録を狙いました」と胸を張った。
王者の目線は早くも次のステージへ
2時間3分6秒の九州学院高。前回53位に沈んだ倉敷高(岡山)も2時間3分8秒で3位と健闘した。世羅高の対抗馬に挙げられた学法石川高(福島)は1区で世羅高から32秒遅れ。3区・遠藤日向(2年)が7人抜きと気を吐いたが、前回と同じ7位にとどまった。