データで勝利を呼び込む湘南ベルマーレ J1残留で曹監督が得た手ごたえ

データを活用しながら勝利を重ねる湘南

データを積極的に活用する監督として知られている曹監督 【スポーツナビ】

「僕は、週に1回はデータを見ますよ。データスタジアムさんに迷惑をかけているのは、たぶん、うちがナンバーワンだと思います。いつも、いろんなことを聞くので」

 J1セカンドステージ第14節で、FC東京に2−1で勝利し、J1残留を決めた湘南ベルマーレ。その指揮官である曹貴裁(チョウ・キジェ)は、データを積極的に活用する監督として知られている。

 現代サッカーにおいて、すでにデータは切り離せない存在になった。それだけに注意したいのは、その活用法である。

“データは嘘をつく”という言い回しを、耳にしたことがあるだろうか。もちろん、意志を持たないデータが嘘をつくはずもないが、この擬人的な表現は、人間がデータの扱い方を間違えると、とんでもなく的外れな結論に行き着く恐れがある、という警告でもある。

 サッカー監督は、どのようにデータと付き合うべきなのか。その点について、曹監督の考えを聞きたい。このインタビューでは、Jリーグ公認データを提供しているデータスタジアム社協力のもと湘南の分析データを用いて、同監督にさまざまな疑問をぶつけてみた。

走行距離とスプリント数について

走行距離とスプリント数はいずれもJ1トップ。走る湘南スタイルの看板とも言えるデータである 【写真:アフロスポーツ】

 2015年J1セカンドステージ第13節までにおいて、湘南は1試合平均115.841キロの走行距離を記録した。スプリント数は、1試合平均171.3回。どちらもJ1トップだ。走る湘南スタイルの看板とも言えるデータだが、曹監督はどう捉えているのか。

「どっちかといえば、走行距離よりも、スプリントの回数を気にしています。特に今年苦しんだのは、相手がボールを持ったときのスプリントが増えたこと。J1では、相手がボールを持ったときにどうしても動かされるから、それに対してプレスバックするスプリントが増える。攻撃でのスプリントは、まだまだ足りないと思っています」

攻撃のデータについて

 シュート数を見ると、湘南は14年のJ2で1試合平均15.9本を打ったが、15年J1では10.3本と3分の2に減少した。対戦相手のレベルが上がったのだから当然とも言えるが、ここで着目したいのはその内訳である。シュートの枠内率が低下、被ブロック率が増加、ペナルティーエリア外のシュート比率が増加、というデータが出ている。

【スポーツナビ】

 ここから推測されるのは、J1に昇格した湘南が、崩し切れずに打っているシュートの割合が増えたということ。

「これは僕もね、ずっと見ていた数字です。今年はペナルティーエリアの脇とか、ゴールまで30メートルのラインは越えるんですけれど、エリアの中に入る回数は、J2の頃より1試合で7〜8回少なくなっている。ということは、得点率も下がると僕は思っている。

 ただ、なんて言うのかな。このことは、覚悟していた。いきなり攻撃の質が上がって、J1でさらにシュートが増えるとはそもそも思っていない。特にJ1は、多少崩させてもボックスの中で守れればいい、という守備をするチームが非常に多いし。

 でも、これをJ2で出した数字に近づける努力を日々していかないと、チームは右肩上がりにならない。このデータは、その指標になっていた。今日1センチ進んだな、明日1センチ進んだなという感じで、積み上げて、近づいている実感はあります」

「データを使って練習を本当にしっかりやらせる」

 曹監督がデータを重視する最大の理由は、ここにある。チームの指標となるデータがあれば、それを提示することで、一歩一歩、トレーニングの成果が出ていることを選手自身に実感させることができる。

「データは使うんだけれど、どんなに統計を見ても、試合のパフォーマンスにつながるとは限らない。理詰めで勝てるほど、サッカーは単純ではないので。だけど、データを使って練習を本当にしっかりやらせる、選手に納得してやらせることは、絶対にパフォーマンスが変わってきます。

 コンディションとか、練習の作り方とか、試合の采配とか、データは全部に関わってきます。逆にデータを使えないと、これからのチームは伸びない。口でイメージだけを言う、そんな時代ではないと思います。今の選手たちは本を読まないし、目に見えるものしか信じないから。考えるとか、ちょっと想像するという習慣が、明らかに僕らの年代より少なくなっている。逆に言えば、目に見えるデータは、彼ら世代にはバッチリ入りますよ。それを文学的に言っても入らないし、『お前らで解決しろ』って話しても、たぶん解決しないです。そういう教育を受けていないので」

 物があふれる物質主義の現代だからこそ、目に見えるデータを提示する意義は大きい。選手にやる気、手応え、充実感を与え、めざす目標を明らかにすることができる。これはサッカーチームに限った話ではないだろう。

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