遠藤保仁と小笠原満男の経験の厚み Jリーグの最前線を走り続けられる理由

戸塚啓

「何歳がピークか科学的に証明されていない」(遠藤)

年齢を言い訳にしない。練習と試合の落差がないところに、遠藤のすごみはある 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 年齢を言い訳にすることもない。むしろ、強みにしている。

「何歳がピークとか科学的に証明されているなら、『そうなんですね』って納得するしかない。でも、そういう具体的なものはないわけで。周りからの見られかたとして、34歳とか35歳になった選手は『あのプレーに身体がついていけないのか』って思われるでしょう。だったら、若い選手よりいいパフォーマンスを見せればいい。もちろん、そのために必要な練習はちゃんとやりますし」(遠藤)

 練習と試合の落差がないところに、遠藤のすごみはある。マイペースな印象すら与える練習で、彼はチームと自身を冷静に見つめている。試合までの時間にやるべきこと、やってはいけないことが整理されているから、ピッチ上で冷静さを保つことができているのだ。

 ピッチに立つまでの時間には、小笠原も重みを感じている。練習でひたすらに自分を高めつつ、チーム全体への目配せを忘れないのだ。

「年齢がある程度上で、経験のある選手が練習から一生懸命に取り組んでいれば、若手は『もっとやらなきゃいけない』と感じてくれるはず。『頑張ろうぜ』っていう言葉よりも、まず自分が誰よりも一生懸命にやる。周りに注文をしておきながら、自分がやらないのはおかしいじゃないですか。言葉で語らなくても、お手本を示せる選手になりたい」

相手ペースの局面でこそ際立つ存在感

鹿島の背番号40はサッカーを複眼的にとらえ、未来を読み取る 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 1979年4月生まれの小笠原は36歳で、1980年1月生まれの遠藤は35歳だ。若手や中堅と呼ばれていた当時と比較すれば、プレースタイルは変わっている。

 だからといって、衰えたわけではない。ガンバ大阪の背番号7は、鹿島アントラーズの背番号40は、サッカーを複眼的にとらえている。ピッチ上で現在進行形に起こっている現象から、彼らは未来を読み取るのだ。

 オン・ザ・ボールの局面で輝くのは、ふたりにとって最低限の仕事である。むしろ存在感が際立つのは、試合の主導権がどちらにも傾いていない時間帯や、相手にリズムを握られている局面でのプレーだ。

 若いチームメートが精神的に重圧を感じる局面で、遠藤は、小笠原は、決して表情を変えない。中長距離のパスを駆使してタテに速く攻め、相手守備陣に背後を意識させるのか。ボールを握りながらタテではなくピッチの幅を意識し、相手のスキをうかがうのか。劣勢と見なされる時間帯をどうやってくぐり抜けるのかを、彼らは経験として理解している。

 ここでボールを奪い返せば、相手を追い詰められる。ここでボールを失ったら、流れをつかみとれない。試合を振り返るハイライトシーンには抽出されにくいものの、その後のゲーム展開に間違いなく影響を及ぼすワンプレーに、彼らはことごとく参加してくる。さりげなく、それでいて、激しく。

 チャンスやピンチの予兆が「匂い」と表現されることがあるが、現実のピッチに香りが立ち込めることはない。だが、彼らは好機と危機の兆しを嗅ぎ分けるのだ。これまでつかんだ勝利だけでなく敗戦の記憶にも照らし合わせて、未来を察知するのである。

 宇佐美貴史のドリブルシュートは、観衆の視線を一気に惹きつける。柴崎岳の俯瞰的スルーパスは、陶酔感さえ誘う。Jリーグを代表する強豪クラブのG大阪と鹿島は、それぞれに勝利を引き寄せるだけの強みを持っている。

 だが、10月31日(土)・埼玉スタジアム2002で行われる2015Jリーグヤマザキナビスコカップ決勝では、遠藤と小笠原の競演こそが最大の注目ではないだろうか。

 彼らが培ってきた経験の厚みを。
 そこから生み出されるゲームのビジョンを。
 何よりも、勝利への揺るぎなき思いを、記憶に焼き付けたいのである。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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