“独占契約”選手たちの強化事情 UFCで戦う五味隆典が国内大会に出場

長谷川亮

国内柔術第一人者・細川に判定負け

国内のプロ柔術大会に出場したUFCファイターの五味 【長谷川亮】

「日本の選手と交流できてありがたいことですよ。とにかく日本ではこういうのに積極的に出た方がいいし、勝ち負けじゃなく出る度胸」と話すのは現在UFCで戦う五味隆典だ。

 10月11日に東京・北沢タウンホールで開催されたプロ柔術大会「Ground Impact 2015」のメインイベントに出場した五味は、道衣を着ない10分1ラウンドのグラップリングルール(75キロ契約)で、須藤元気のプロデュースで話題を呼んだ「一騎討」無差別級トーナメント(14年)王者で、今年のブラジリアン柔術全日本選手権でも無差別級を制している、国内柔術界の第一人者というべき細川顕と対戦した。

 高いレスリング力を持つ五味に、細川は早くから引き込みを仕掛けグラウンドで展開。五味をガードの中に入れ、オモプラッタや三角絞めを狙っていくが、五味も素早く察知し、技が深く入りそうになると強靭なフィジカルを発揮して振りほどく。

 細川の仕掛けに防御を強いられる五味は、消極点の累積により2ポイントを献上し、さらに細川は五味の足を手で取り転倒させる草刈りを成功させ、上下を入れ替えるスイープで2ポイントを追加。攻勢の細川はそこからバックについてのスリーパーを狙うも、これは五味が何とか前方へ振り落とす。鉄壁のガードを見せる細川に対し側転してのパスガードなども試みた五味だが、細川はこれも許さず試合終了。ポイント4−0で細川が勝利し、五味は細川を腰投げで投げて見せるなどおどけたが、敗戦の悔しさをにじませた。

UFCとの“独占契約”に抵触しない大会

柔術の国内第一人者である細川(右)に挑んだが敗戦。自身の枠で戦っていないものの、勝負師として悔しさを見せた 【長谷川亮】

「自分が一番避けてるところなので、あえてそれがお客さんの前でさらけ出ても、思い切って飛び込んでいったんですけどね。やっぱり足の力がスゴいです。10分間ああやって足が利き続けて、あれは下から組みに来てるんですよね」と五味は試合を振り返る。「難しいね、やっぱり出る以上勝ちたいし」と続け、トップ柔術家である細川の土俵で挑んだ一戦ではあったが、出るだけで満足しない勝負師としての姿勢を感じさせた。

 五味が現在戦うUFCは選手と独占契約を結んでUFC以外の試合に出場するのを禁じている。しかし、打撃のない組み技の試合は事情が異なるのか、9月のUFC日本大会でメインを飾ったジョシュ・バーネットがやはり米国のプロ柔術大会「メタモリス」で活躍した例もある。ジョシュはこの大会で“護身の達人”とも言われ、ディフェンスに長けたヒーロン・グレイシーにアンクルロックを極めて勝利しており、プロレスラーあるいはキャッチレスラーとしてのブランドを高めている。

 緊張感ある舞台で強豪を相手に戦うことは、たとえMMAとルールが違っても、ファイターにとってスキルや試合勘を磨くのに有効な手段であろう。

 来たる10月25日に開催されるZST主催「第1回全日本グラップリング選手権2015」にもUFCで連敗を喫し苦闘を強いられている佐々木憂流迦が出場。憂流迦はこれまでのバンタム級(61.2kg)からフライ級(56.7kg)に変わっての参戦で、今回が階級転向での第1戦となる。減量を経てパフォーマンスがどのように影響を受けるか、それを実際に確認するまたとない機会であり、ファンとしても五味や憂流迦のように活躍の場が海外へ移ってしまった選手の試合が日本で見られるのは歓迎であろう。

「東のRIZIN、西のUFC」となれるか?

 また、五味は年末に開催が発表された「RIZIN」についても「どんどん盛り上げてもらって、日本も盛り上がるといいですよね。いい選手もいっぱい育っていますし。プロモーションの問題で公開する場がなくならないよう、今年の大晦日を機に、これからの10年はなればいいんじゃないですかね」と語り、前述の独占契約から出場は適わないものの、今後の展開にエールを送った。

 その後17日に行われた「DEEP 73 IMPACT」(東京・後楽園ホール)では榊原信行RIZIN実行委員長が視察に訪れ、防衛を果たしたDEEPフライ級王者・元谷友貴の年末出場を確約。榊原実行委員長は元谷を「日本が世界に誇れる選手」と評し、UFCがそうであるようにRIZINも広くファイターの実力と存在を世界に知らしめる大会となることが期待される。

 世界各地のMMAプロモーションと協力体制を敷くRIZINが、今後“東の雄”として西のUFCと並ぶ存在となっていけるのか。MMAの世界2極化が進むか注目となる。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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