プロ輩出率No.1徳島が抱える野球危機 県外に出る有望選手、低下する体力

中島大輔

将来有望な少年が近年は県外へ

子どもたちの体力低下など、徳島野球の復権に向けた危機意識を口にする早稲田大・高橋監督 【スポーツナビ】

 蔦文也監督(故人)が70年代から全国に旋風を巻き起こした池田高には、野球部を支える土壌がいまもある。町の人々が、部員たちを下宿に受け入れているのだ。現在は1、2年生の部員39人のうち、17名が下宿生活を送っている。

 昨年のセンバツに出場したことで、池田高の門をたたいてきた2年生が多くいると岡田監督が言う。
「徳島市内から池田は遠いですが、ここには住む場所がありますから。ただし、数年に1回でも甲子園に出ないと、遠くから来てもらうのは難しくなるでしょうね」

 岡田監督によると、徳島県民は進学から就職まで県内を希望する傾向にあるものの、近年は違った動きも出てきている。小中学校で野球の才能を見せている将来有望な少年が、県外の進学先を求めるケースが見られるのだ。現在、早稲田大学野球部で主将を務める河原右京は徳島の中学から神戸中央シニアに通い、高校では大阪桐蔭高の門をたたいた。同高で08年夏に甲子園優勝を果たした福島由登(現ホンダ)も徳島から活躍の場を求めている。

徳島は「歩かんけん(県)」

 優秀な選手が県外に出て行くばかりでなく、徳島では子どもの体力低下という問題も見られる。10年度に行われた第2回全国体力テストで、徳島県内の子どもたちが全国平均を大きく下回ったのだ。小学校5年生男子は全国最下位で、中学2年生男子は37位だった。県内の教育委員会による「体力アップ100日作戦」などの取り組みにより、昨年度に行われた同調査では小5男子が全国37位、中2男子が28位タイまで盛り返したものの、全国平均では決して高いとは言えない。

 そうした背景について、高橋監督が説明する。
「徳島は方言と引っ掛けて、『歩かんけん(県)』と言われているほど運動不足の県です。昔から、すべて車移動。だから成人の糖尿病も多いです。昨今はいろんな事件があったりするので、ほとんどの親が子どもの送り迎えをしています。それで運動不足になる、ということです。都会の人は電車を使うから、よく歩きますよね」
 こうした事情が重なり合い、徳島の野球では地盤沈下が起きているのだ。

成果を出しつつある県高野連の取り組み

 ただし、指導者たちは手をこまねいているばかりではない。高橋監督が音頭をとり、09年に徳島県高等学校野球技術・体力向上委員会が発足した。毎年11月の最終土曜日に各高校から3名の選手が県内の球場に集まって、ベースランニングや遠投、ロングティーなどの記録会のようなことを実施する。
 沖縄県を参考にして始まったこの取り組みの成果について、岡田監督は「強いチームには、上位に入る子がけっこういます。目安になるし、励みになり、オフの目的にもなっている。この向上委員会を始めてから、徳島からセンバツに出られるようになりました」という。

 さらに、県内の監督研修会を年に数回実施。年に1度四国監督研修会を行い、地域全体のレベルアップを図っている。池田高時代に「野球王国・四国」を体現した岡田監督は、徳島復権のカギについてこう語る。

「私立には特待生制度がありますが、徳島の公立にはまったくありません。中学から硬式をやっている子は、強豪から声がかかれば魅力に感じるのではないでしょうか。それでも徳島のチームが甲子園に行って、上位に行けるようなチームが出てくれば変わってくるかもしれません。現状、3年前の鳴門高のセンバツ・ベスト8が最高です。毎年ベスト8くらいの力があれば、事情も変わってくるかもしれませんね」

「底辺を広げて、野球人口を増やしていくことが必要」

 岡田監督が変化を願うのは、高校野球ばかりではない。少年野球の環境から変えていかないと、明るい未来はないと考えている。

「子どもは野球をやりたいのに、土日に時間をとられることに親が付き合いきれない……という影響が少年野球に出てきています。親に頼らないと少年野球を運営できない状況を変える必要がありますね。少年野球でガンガンやって、燃え尽きて中学で野球をやめたり、高校で半減したり、という状況も変えていく必要があります。指導者やいろいろひっくるめて、将来につながるようにしていかないといけない。底辺を広げて、野球人口を増やしていくことが必要です」

 今夏の甲子園で四国がすべて初戦敗退したのは、野球危機の前兆だ。少なくとも、四国の野球をけん引してきた2人の監督はそう捉えている。

 池田高校野球部、廃部へ――。

 10年後、そうした嫌なニュースを聞かなくてすむよう、早急な改革が求められる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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