清宮、上々の甲子園デビューも不満顔 試合後に見せた「スラッガーの本能」

楊順行

30年の甲子園取材で記憶にないフィーバー

清宮のバットから快音が飛び出したのは第4打席。早実の勝利を決定づけるライト前タイムリーヒットで、甲子園を大いに沸かせた 【写真は共同】

「やっていて、気持ちよかった。青空が広がっていて、スタンドも『アルプス』って呼ばれるぐらいそびえ立っていて」

 大物である。スポーツ紙の1面に連日登場した怪物1年生・清宮幸太郎(早稲田実業高)だ。なにしろ、話題性満載。ラグビー界の名将、ヤマハ発動機ジュビロ・清宮克幸監督の長男で、中学時代は東京北砂リトルで世界選手権を制覇し、おそるべき飛距離は「日本のベーブ・ルース」と言われたほどだ。ついでに弟・福太郎君もこの夏、同リトルで日本を制覇。兄に続く世界一を狙う。

 さらに「(高校野球)100年で(早実OBの)王貞治さんが始球式をする大会に、出ないわけにはいきませんから」という宣言どおり、西東京を制して同校5年ぶりの甲子園にやってきた。今大会随一の注目度、と言っていいだろう。30年間甲子園の取材を続けているが、地方大会からこれだけ騒がれる高校1年生は、ちょっと記憶にない。

 高校進学直後から頭角を現し、西東京大会では20打数10安打10打点と優勝に貢献。噂の怪物の甲子園登場は3日目第1試合である。土曜日ということも味方して、清宮をひと目見ようと、試合開始のおよそ1時間前には中央特別自由席が売り切れ、午前8時の開始にもかかわらず、4万7000人の大入り満員。それでもチケット売り場には、長蛇の列ができていた。

満員の観衆が沸いた初安打

 白状する。恥ずかしながら、規定の試合前取材に間に合っていない。というのも、早朝6時すぎから阪神電車・梅田駅は想定以上の大ラッシュ。甲子園に向かおうとする人波はじりじりとしか動かず、なんとか乗った電車もすし詰め状態。結局、着いたときには取材時間が過ぎていたのだ。清宮見たさのエネルギー、それだけ熱い。

 8時1分にプレーボールがかかった今治西高(愛媛)との対戦は、清宮にいきなりチャンスが回ってきた。1回裏1死二塁。ここは、3球目のストレートを打ち上げて一塁フライに倒れている。ただ、高〜く上がる飛球の軌道は尋常じゃなく、スラッガーに特有のものだ。2打席目は1死走者なしで死球。3打席目は2死二、三塁からセンターフライ。本人、「緊張はなかった」と言うが、快音はなかなか聞かれない。満員のスタンドには、歓声とため息が交錯する。ただ、ネクストバッターとして清宮の打席を見た4番で、プロ注目の捕手である加藤雅樹主将は言う。

「1、2打席目の清宮は多少緊張しているようでしたが、ベンチではいつも通り元気。3打席目からは、緊張もほぐれたようなので打ってくれるかな、と」
 
 そして実際7回、1死二塁で迎えた第4打席だ。初球、杉内洸貴のストレートをとらえると、地をはうような打球が一・二塁間を割り、ライト前へ。清宮の甲子園初安打は、初回の3点から得点が入らなかった早実のダメ押しの4点目となった。満員の観客が最も沸いたこの一打がモノを言い、早実が6対0の快勝である。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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