V10王者・内山、圧勝から一夜明けて――=圧巻KO劇と今後の展望語る

スポーツナビ

試合のカギは相手との距離感

傷ひとつないきれいな顔で一夜明け会見に姿を現したWBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志 【スポーツナビ】

 圧巻KO劇を演出した主役の顔は一夜明けて傷ひとつないきれいな顔だった。ジョムトーン・チューワッタナに2R1分15秒、右ストレートでTKO勝ちを収めて10度目の防衛に成功したプロボクシングWBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志が7日、都内ワタナベジムで一夜明け会見に出席し、前日の試合を振り返るとともに今後の展望を語った。

 まずは昨夜の勝利を振り返ってみたい。フィニッシュブローとなった豪快な右ストレートに目がいきがちだが、そこまでの過程は練習通りのKO劇だった。サウスポーでアウトボクサーのジョムトーンは、スキを見つけるとぐいぐい前に出て一気にペースを握るタイプ。2013年の大みそかに内山からダウンを奪った金子大樹をヒット&アウェーで完封(判定3−0の勝利)している。内山陣営は相手パンチの射程圏を外すために強い右ストレートを当てて警戒させて、相手の距離を潰すことが試合のカギと見ていた。

練習通りのワンツーでフィニッシュ

ジョムトーン対策として、ワンツーの練習ばかりしていたという内山。見事練習通りのワンツーで試合を決めた 【花田裕次郎】

 1Rのゴングが鳴った直後の感想は「構えた瞬間やるなと思った。ただ、イメージより距離が近くて、相手の顔が届く位置にあった」(内山)。それは一転して内山も相手のパンチをもらう距離でもある。「油断すればもらうなという緊張感はあってすごい集中していた」という内山はいつもよりフェイントを多くかけて相手の出足を防ぐとともに、注意を上下に散らす。そして1R中盤、左ジャブからの右ストレートがジョムトーンの右頬に炸裂。左ジャブでジョムトーンが左に下がったのが見えて、そこに合わせて右ストレートを振り抜いたという。これは左ジャブから相手が下がることをイメージして右ストレートを相手の胸あたりに打ち抜く練習を繰り返してきた、まさにイメージ通りの一撃。ジョムトーンに右眼窩底骨折させる大ダメージを負わせた。

 そして「1Rに右ジャブをもらってスピードとタイミングが分かった」という内山は2R、ジャブの差し合いから自分のパンチの射程圏内に入ってワンツー。1Rのリプレーを見るかのような、「骨に当たる感触があった」一発に、ジョムトーンは大の字にダウン。レフェリーも10カウントを数えることを止めて試合を終了させた。久々に打ち抜けたという右ストレートに、「今のウチヤマはすごいと思わない」と戦前語っていたジョムトーンもさすがに「パンチが思ったより重かった」と認めるしかなかった。ちなみに打った本人も家に帰って試合の映像を見て「練習どおりのパンチだった。自分でも思いましたもん。これは絶対痛いわって」と豪快に笑っていた。

ぎっくり腰とプレッシャー

「ムエタイの選手に世界チャンピオンが負けていられないというプレッシャーがあった」という内山。圧巻の2回TKO勝利で10度目の防衛に成功した 【花田裕次郎】

 一夜明けて今回の試合に2つの不安があったことも吐露した。ひとつは3月28日に筋トレとスパーリングで追い込みすぎてぎっくり腰となり、2週間体を動かせなかったこと。「疲れを取るいい機会だと思って」と開き直ることによって、その悩みを解消した。もうひとつはボクシングでは9戦ながらもムエタイでは200戦を誇り、その業界では“天才”の異名を取るジョムトーン戦を前に、「ムエタイの選手なので、どうしてもボクサーが、それも世界チャンピオンが負けたり、苦戦したりしたら世間的には情けないというイメージが強くなる。絶対に落とせないというプレッシャーが強かった」とボクシング界を背負う重圧がのしかかっていたことを明かした。カードを組んだワタナベジム・渡辺均会長ですらも「世界では無名の実力者との対戦は冒険だった。昨日までは不安だ」と悩んでいたという。

「ラスベガスで名を馳せたい」

ワタナベジムの弟分で、KOで初防衛を果たしたWBA世界ライトフライ級王者・田口良一と一緒に記念撮影 【スポーツナビ】

 終わってみればわずか255秒で、“KOダイナマイト”の異名通りの強さを見せつけた内山。今後はどうなるのか!? まずは長年悩まされていた右拳の状態は、一夜明けても「まったく問題ない」と報道陣の前でグーパーを繰り返した。どうやら次戦は早い段階で決まりそうだ。

 対戦相手としては、「4団体統一でもいいし、WBAには正規や暫定王者がいるのでそれを潰してもいい。海外の強豪とやるのも面白い」と希望を明かした。そして「ちょうど今回もいい勝ち方ができたので、内山はやっぱり強いなというイメージが残っているうちに、ラスベガスでみんなが盛り上がるような強い選手とやって名を馳せたい気持ちはある」とボクシングの本場アメリカ・ラスベガス進出への夢を口にした。

 具体的には、1階級下ながらスーパーフェザー級転向もあるWBA世界フェザー級王者で25戦無敗(25勝・21KO)のニコラス・ウォータースや、アテネ五輪金メダリストで元WBA3階級(フェザー、スーパーフェザー、ライト)王者ユリオルキス・ガンボアの名前を挙げた。前日にゲスト解説で会場を訪れていたWBC世界スーパーフェザー級王者・三浦隆司との再戦については、「三浦戦はファンの中でも見たい人ともういいわっていう人がいるけど、ガンボア戦はみんなも見たいと思う」と特別なこだわりはないことを明言。ただ、「試合が決まって盛り上がれば面白い。僕が一番強い自信があるけど、三浦選手も自信があるはず。試合は楽しみ」と前向きなコメントも残した。

 圧巻のKO劇で日本ボクシングファンの度肝を抜いた内山。日本人2位となる10度目の防衛は35歳5カ月という国内最高齢防衛も記録した。希代のボクサーが今後ボクシングファンにどんな夢を見せてくれるのか。楽しみは尽きない。
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