混沌とする柔道・最重量級代表争い 期待される「絶対的エース」の誕生

小野哲史

100キロ超級で勝てなかった日本

29日に開催された全日本柔道は、22歳の原沢久喜が、決勝で昨年の世界選手権銀メダリストの七戸龍を破り、初優勝した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 最重量級の絶対的エース不在――。それは、日本男子柔道界が近年抱えながら、なかなか克服できずにきた課題である。

 100キロ超級に限って言えば、2004年アテネ、08年北京と2大会続けて日本勢が獲得した五輪での金メダルは、前回の12年ロンドン大会で途切れ、世界選手権に至っては03年大阪大会を最後に、実に11年間も金メダルから遠ざかっている。昨年のチェリャビンスク大会(ロシア)では七戸龍(九州電力)が準優勝と意地を見せたが、この階級で日本勢が表彰台に上ったのも05年のカイロ大会(エジプト)以来、9年ぶりのことだった。

 4月29日、東京・日本武道館で行われた全日本選手権は、8月のアスタナ(カザフスタン)世界選手権100キロ超級の代表最終選考会も兼ねており、優勝の行方とともに、誰が代表の座をつかむかという点にも注目が集まった。

原沢と七戸が決勝へ

 前回王者の王子谷剛志(旭化成)、ロンドン五輪代表で前回準優勝の上川大樹(京葉ガス)、4月26日時点の国際ランキングでは100キロ超級で日本勢トップにいる七戸、今月の全日本選抜体重別選手権を制した西潟健太(旭化成)、前々回は初出場で決勝まで進出した原沢久喜(日本中央競馬会)と、優勝候補には多士済々の顔ぶれが並んだが、いずれもまだ「絶対的エース」にはなり得ていない。

 3回戦までは番狂わせもなく、有力選手は順当に勝ち上がった。4回戦も原沢、王子谷、西潟が危なげなく勝利し、ベスト4最後のイスを懸けて、上川と七戸が対戦。試合では、七戸が開始わずか12秒で鮮やかな大内刈りを決めて、一本で準決勝に進出した。上川は「何もできなかった」と肩を落とし、優勝争いから早々に脱落した。

 準決勝の第1試合は、ともに社会人1年目で、高校時代から何度も対戦している王子谷対原沢。これまでの勝敗では王子谷に分があったものの、原沢は「何度も研究して、何度も負けた相手。今までやってきたことをようやく出せました」と指導3つの僅差ながら、長年のライバルに対して終始攻め続け、前回大会、そして、選抜体重別での雪辱を果たした。

 王子谷は「4回戦で自分は6分間戦ったのに対して、彼は3分ぐらいで決めていた展開も影響していたかもしれません。気持ちの部分で弱かった」と完敗を素直に認めた。

 続く準決勝の第2試合は、西潟対七戸。過去の対戦成績は5戦5勝と西潟が七戸を圧倒していたが、大会前、「自分の攻撃的柔道を貫きたい」と意気込んでいた七戸は、小外刈り一本で難敵を下し、決勝進出。西潟は「来るなら組み際だろうと警戒していましたが、そこで対応しきれなかった」と悔しさをにじませた。

リードを守った原沢が初優勝

 決勝戦は、ともに勝てば初優勝という原沢対七戸の顔合わせとなった。前半は激しい組手争いが繰り広げられたが、「距離を取られると、相手には強力な技がある。距離を詰めて、自分から先に先に(攻めよう)という作戦でした」と話す原沢が、残る2分を切ったところで勝負に出た。前半に2つの指導を受けていた七戸の決死の大内刈りを、うまく小外刈りで返して有効ポイント。そのリードを最後まで冷静に守り抜いた。

「最近は国内のタイトルを全然取れなくて、周りからも『原沢の優勝はないだろう』と言われていましたが、そこで勝ててほっとしているのと、うれしい気持ちがあります。今日は綺麗な柔道ではなかったかなと思いますが、気持ちや執念だけで戦ったような感じです。でも、自分から先に先に攻め、自分の組み手にすることもできていたので、良かったと思っています」

 3度目の出場で全日本王者のタイトルをつかんだ22歳のホープは、そう言って胸を張った。最重量級のエース争いは、これまで七戸と王子谷が他を一歩リードしていたが、今後はそこに原沢が加わっていくことになるだろう。

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著者プロフィール

1974年神奈川県生まれ。東海大学文学部卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーのスポーツライターに。陸上競技の専門誌に寄稿するほか、バレーボール、柔道、サッカーなど幅広い競技を題材に取材活動を続けている

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