アジアで輝きを見せた“東京五輪世代” 競泳・渡部ら、世界挑戦への収穫と課題

折山淑美

初めてのアジア大会で金メダル獲得

女子200メートル平泳ぎで金メダルを獲得した渡部香生子。東京を待たず、2年後のリオ五輪でも主軸となるだろう 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 韓国・仁川で行われていたアジア大会も4日に閉幕を迎えた。

 前半に行われた競泳。活況が続いた男子に比べて“対世界”という面では物足りなさがあった女子だが、その中で最も可能性の大きさを見せていたのは高校3年の渡部香生子(JSS立石)だ。2012年のロンドン五輪にも出場している彼女は、6年後の東京五輪を待つまでもなく、2年後のリオデジャネイロ五輪でもチームの主軸選手としての活躍を期待されるまでになっている。

 8月のパンパシフィック選手権(オーストラリア・ゴールドコースト)にも出場して100メートル平泳ぎは僅差の2位ながら、200メートル平泳ぎでは初優勝を果たして200メートル個人メドレーでも4位になっていた。アジア大会ではその3種目のみならず、50メートル平泳ぎと400メートルフリーリレー、メドレーリレーにも出場するハードスケジュールをこなした。

 だがパンパシと同じように、今回も最初の100メートルでは中国の史セイ琳に0秒13及ばず2位に。前半の泳ぎが急ぎ過ぎている様子も見えた。だが翌日の200メートルでは泳ぎも修正し、決勝では前半の100メートルを自身初の1分8秒台のラップで入る積極的な泳ぎをし、ラスト50メートルで追い上げてきた金藤理絵(Jaked)を0秒10だけ抑える2分21秒82で初優勝を果たした。
「100メートルはまだいい記録を出したいい時の泳ぎの感覚をつかまえきれていなくて、安定感がないですね。特に前半で相手に行かれると自分のレースができなくなってしまうというところがある。200メートルで2分20秒突破を狙うためには100メートルのスピードをもう少し意識しなくてはいけないと思うが、彼女の場合は今の筋力を考えればある程度テンポをあげて、それをキープしていかなくてはいけない。あまり大きな泳ぎをすると逆に体に負担がかかってしまうので、これから筋力アップをしながら改善していくところです」と昨年の5月から渡部を指導している竹村吉昭コーチは言う。

金メダル獲得だけでなく、多くのレースをこなした体力にも成長が見られた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 だが体力面や精神面でも今年になって成長しているのは確かだという。昨年は海外遠征から帰ってくると体調を崩していたが、今年はそんなことも無くなった。また2月のオーストラリア遠征のニューサウスウェールズオープンで11レースに出場する経験をさせたことで、ダメな種目があっても気持ちの落ち込みを支えられるようになったとも言う。そんな精神面での成長が今大会の200メートル優勝にも出ていた。

 さらに体力面の成長も、6日間で8レースを泳いで迎えた競泳最終日、9月26日の200メートル個人メドレー決勝で、2分10秒58の日本記録を樹立しての銀メダル獲得という成果につながった。
「初めてのアジア大会で金メダルを取れたことは、世界で戦うためのいい経験になった。個人メドレーでも背泳ぎをもっと改善して、世界で戦えるようにしたい」と多種目での世界挑戦も意識する渡部は、このアジア大会でも多くの収穫を得た。

チームを勢いづかせた陸上の松本と青山

陸上女子400メートルの青山(左)と松本。リレーでの銀メダル獲得は2人の勢いがあったからこそ 【写真:ロイター/アフロ】

 そんな渡部と同じように、6月に行われた陸上の日本選手権女子400メートルで1位、2位になり、今回は育成枠でのアジア大会代表になった高校3年の松本奈菜子(浜松市高)と青山聖佳(松江商高)にとっても、このアジア大会は貴重な経験になった。

 特に青山の400メートル予選では、自己ベストを0秒41更新する52秒99を出して決勝に進出。翌日の決勝では53秒20とタイムを落として5位だったが、これも大会前の自己記録を上回るもの。
「エネルギーを前半で消費してしまった感じで、ラスト50メートルは歩きたくなるくらいにきつかった。でもアジア大会という舞台で決勝へ進め、そこでも臆することなく前半から攻められたのは良かった」と成果を口にする。

 一方の松本も自己ベストを0秒02更新する53秒65を出したが、組にも恵まれず全体の8番目の記録ながら決勝進出を逃す結果になった。「今まで日本代表の試合はテレビで見るだけだったが、日の丸を付けて走ってみると、高校生だというのや年齢は関係ないものだと実感した。聖佳の走りを見て刺激され、自分もと思って最後まで強い気持を持って走れたけど、シニアで戦うためには得意の後半に頼るだけではなく、前半でも置いて行かれないレースをすることが必要だと思った」と課題を明確に感じ取った。

 このふたりは2日に行われた4×400メートルリレーにも1走と2走で出場。普通の400メートルと同じくスターティングブロックからスタートした青山は、自己記録を上回る52秒8と、優勝したインドの1走も上回る1位のラップタイムを出した。

 そして2走の松本もインドと中国に次ぐ3位の52秒4のラップタイムでつないだ。その勢いを3走の市川華菜(ミズノ)と4走の千葉麻美(東邦銀行)が引き継ぎ、日本記録にあと0秒63まで肉薄する3分30秒80を出して2位。この種目では1986年大会以来7大会ぶりのメダル獲得に貢献したのだ。
 青山は「一番で渡すという目標は達成できたが、金メダルと日本記録を狙っていたので少し悔しさが残る結果になった」と話す。松本も金メダルを逃した悔しさを口にしながらも、「今まで体験できなかった緊張感やプレッシャーを感じられたことは、これからの自分の財産になる」とコメントした。まさに彼女たち2人の勢いが、日本チームを銀メダルまで届かせたともいえる走りだった。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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