「母体のレベルを上げることが僕の仕事」 強化育成担当に聞く 卓球・村上恭和監督

構成:スポーツナビ

村上女子監督が、宿敵・中国を意識した強化方針について語った 【スポーツナビ】

 2020年東京五輪で、金メダルが期待される卓球。スポーツナビでは、日本卓球界が描く6年間の青写真を2回にわたって紹介する。前半では、倉嶋洋介男子監督が男子の現強化システムの成果・課題を聞いたが(12日掲載「『組織が良くなって成績も良くなった』 強化育成担当に聞く 卓球・倉嶋洋介監督」)、後半となる本記事では、村上恭和女子監督に、最大のライバル・中国を意識した強化方針を語ってもらった。

選手強化の原点は母体にある

――東京五輪での活躍を期待している選手を教えてください。

 卓球は10代から30代までできるスポーツなので、今、ワールドランキング日本人トップの石川佳純(全農)や福原愛(ANA)は、(東京五輪までの)6年間は十分、力を維持できると思います。下は14歳の平野美宇(JOCエリートアカデミー)の世代までが、東京五輪に出場し、メダルを獲得できる年代かなと考えています。

――2008年の監督就任時、女子は所属先のコーチがナショナルチーム(NT)でも各選手の担当コーチを務める「母体コーチ制」を導入しました。男子のように代表と母体を分けて強化する方法もあったと思いますが、なぜ母体コーチ制を選んだのですか?

 僕は今でも日本生命の監督ですから、母体というのが原点なんです。各母体とも、まずは日本で勝つために、また世界を倒すために計画をしています。その力が弱かったらNTも弱いわけです。ですから、まずは母体のレベルを上げていくことが僕の仕事だと思っています。そこがしっかりできていれば、誰が監督になろうと日本は成長し続けることができます。

――母体コーチ制のマイナス面はありますか?

 デメリットもありますよ。いつも代表選手が一緒に練習をしているわけではないので、チームワークづくりは難しくなってきます。そこは少し心配ですが、今は何とか耐えてますね。また、例えば「体力や筋力を上げたい」といった取り組みが(全体に)浸透するのに時間がかかります。母体コーチに「いや、うちはいらない」と思われたら、同じ方向を向かせるのは大変です。

――その場合はどのように解決を図るのですか?

 常に情報交換をしながら(取り組みに関する)映像を作ったり、同じキャッチフレーズを作るようにしています。母体のほとんどが中国人コーチで、個性が強いんです。ですから、こういった工夫をして「われわれは、こうやって中国に追いつこうとしているんだ」と、理解してもらわないといけません。

小学生からコンディション管理を指導

――東京五輪の強化方針として「国際競争力のさらなる向上」を打ち出していますが、背景を教えてください。

 最終的に東京五輪でメダルを取るためには、中国選手に勝つ必要があります。そのために、どうやって中国に勝つかを日々、何年も目で見て体で覚えていかないといけません。日本人選手が(中国人選手に)勝つ姿を(若手に)見させて、「私もああしたらいいんだ」というのを、どんどん自分の中でイメージさせる。そのためには、国際大会に出るしかないんです。

――倉嶋監督は、男子は国際大会への自費参加制度によって、若手が意欲的になるなどの効果があったと話していました。村上監督の感触はいかがですか?

 日本は1大会で十数人は(自費参加制度で)参加していますね。8月のチェコオープン(オロモウツ)には男女合せて40人くらい選手が行きました。スタッフも合せたら全部で60人くらいの大選手団です。ロンドン五輪で(女子団体が)銀メダルを取ったことで、みんなが「私たちも代表になったらメダルが取れるね」と、目標が身近になりました。その影響はすごく大きいです。

――「体力強化」も強化上の重点要素とのことですが、具体的に教えてください。

 以前は、日本人は体力面を重要視することが多かったのですが、今はテクニックがあればいいという風潮があります。特に、小学生から日本一を争う大会があるので、(技術があれば)体力がなくても1位になれてしまいます。ところが、世界のトップに近づくと「(体が)小さい」「脚の力が弱い」と、そのとき初めて気付くことになります。ですから、今は小学生から「もっとたくさん食べようよ」「もっと寝よう」と伝えています。一人一人、合宿で指導していますし、全国のコーチ会議でも頻繁に話しています。

――中国やシンガポールの選手と、体力面での違いはあるのでしょうか?

 おそらく、スタートから違うのでしょうね。例えば、シンガポールの選手は、全員が中国出身で、脚の長さや走りを見て「君、足が速いね。卓球しなよ」とか、足の大きさを見て「お前、大きくなりそうだな」といったふうにして競技を始めて、育てていく。その時点から競争力があるんですよ。日本の場合は、すでに卓球をしている選手から選んでいくので、そこから違いますね。

――今春、平野選手と伊藤美誠選手(スターツSC)のペアが、ダブルスで2大会連続優勝を果たしました。メダル獲得のために、ダブルスやミックスダブルスの強化を検討したこともありますか?

 そういうときもありましたね。ただ、世界のルールがころころ変わっていて、そうなると強化の方法も変わってきます。ただ、日本の場合、(ダブルスの)強化をしたほうがいいとは思います。五輪団体にダブルスがある以上は、そこでは1点を取りたいですね。だから、日本はダブルスを重要視していて、小学生の試合でもダブルスがあるんです。

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