早くも挫折モード? 宇都宮徹壱の「初めてのジム通い」第2回

宇都宮徹壱

【イラスト:鈴木彩子】

還暦を過ぎても現場で働けるように

【Getty Images】

 木曜日の昼下がり。PCに向かってタイピングしていた指の動きを止め、時計を見る。そろそろ時間だ。書きかけの原稿を保存してPCをシャットダウンしてから、いそいそと身支度を始める。今日は週に一度のジム通いの日。ちょうど執筆が乗ってきたタイミングであったが、ここでズルズルと書いていたら昔の自分に後戻りである。そう、私は今年から「変わる」のだ。室内シューズ、トレーニング用のシャツ、パンツ、ソックス、そしてタオルをリュックに詰め込むと、自転車に飛び乗っていつものジムに向かった。

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 あらためて、今年からジム通いを決断した理由について説明したい。この3月で、私はまたひとつ年齢を重ねて48歳になった。私は1966年、ワールドカップ(W杯)イヤーの生まれだ。そして、この業界はいつも4年周期で回っている。そんなわけで「4年後」という言葉にはいつも敏感に反応し、次のW杯で自分が何歳になっているのか、あれこれ想像しては愕然(がくぜん)とすることを常としている。

 今年のブラジル大会は48歳。4年後、2018年のロシア大会は52歳。さらに4年後、22年のカタール大会は56歳。それからさらに4年後、26年の(まだ開催地は未定だが)大会ではなんと60歳! ひゃっはー、還暦だよ、還暦! 赤いチャンチャンコだよ、まいったなあ……(嘆息)。12年なんて歳月は、2002年の日韓大会が「ついこの間の出来事」であったことを思えば、それほど遠い未来ではない。
 サッカーの取材現場では(あえて名前は出さないが)還暦を過ぎてもなおアグレッシブな仕事をされている大先輩が大勢いらっしゃる。では、自分が12年後も同じフィールドにいたとして、偉大な先達たちのように背筋をしゃんとして現場仕事を続けているのだろうか。正直、あまり自信がない。こんなに自堕落な酒飲みが、還暦を過ぎても普通に仕事を続けていたら、日ごろから節制している人たちに申し訳が立たない。

 ならば、これまでの生活習慣を改めるきっかけとして、とりあえずはジム通いを始めることにしよう。そして還暦を迎えた時にも、重たい機材を抱えながら機敏に動ける程度の筋力は維持しておこう。唐突にも思える初めてのジム通いには、実はそうした思いがあったのである。

筋力はついたらしい。しかし体重が……

【Getty Images】

 いつものように14時をちょっと過ぎたころにジムに到着。入館手続きを終えてドレッシングルームに向かう。まず目に入ってくるのは、素っ裸の老人たち。彼らはトレーニングの他に、シャワーとサウナのフルコースがセットになっているようで、ドレッシングルームはいつも銭湯のような光景が広がっている。

【Getty Images】

 何ともまったりとした空気が充満する中、そそくさと着替えてトレーニングルームに向かう。ただし初回の時と違い、インストラクターが笑顔で出迎えてくれるわけではない。設定されたメニューを、ひとり黙々とこなすのみ。スタートから2カ月後と3カ月後には、定期的なカウンセリングが受けられることになっているが、それまでは誰とも言葉をかわすことなく孤独なトレーニングが続く。

 10分間のエアロバイクとストレッチ。それからチェストプレス、ローイング、レッグプレス、クランチ。そして仕上げのクロストレーナー。やっていることは変わらないが、それぞれわずかずつ負荷を増やしている。最初は12キロでヒイヒイ言っていたチェストプレスは、21.5キロまでいけるようになった。ローイング(14.5キロ→33キロ)とレッグプレス(43キロ→88キロ)も同様。しかも10回×2セットだったのを、今では3セットこなせるようになった。またクロストレーナーも、当初の20分から倍の40分まで伸ばし、300キロカロリーを消費できるようになった。週1回、2カ月弱のトレーニングで、それなりに筋力はついてきたように感じる。
 しかし一方で、不満というか不安もある。それは体重がなかなか減らないことだ。初回のトレーニングで測定したときは79.3キロ。それから多少の増減はあったものの、この2カ月間は体重も体型もほとんど変わっていない。同じくスポーツナビDoで連載している、同業者の安藤隆人さんがハードなトレーニングによってシェイプアップしつつあるのとは大違いだ。

 達成感がないままトレーニングを続けるのは難しいし、具体的な改善が見えてこないと疑心暗鬼にもなりかねない。いや別に、今さら逆三角形の体型になろうなどと大それたことは考えていない。ただ、適正とされる72キロくらいには体重を落ち着かせたいのだ。ひょっとして、今のトレーニングを続けていては、それさえも難しいのだろうか?

「自分自身が変わるために」今年から始めたジム通い。だが、早くも挫折モードの危機に直面してしまった。果たして当連載は、ハッピーエンディングを迎えることなく、あえなく終了となるのだろうか? とりあえず、来週に設定してもらったカウンセリングの結果を受けてから、何かしらの決断をしようと思う。

<とりあえず、つづく>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『日本代表の冒険』(光文社)など著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。Twitter:tete_room

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