自分自身が変わるためにも 宇都宮徹壱の「初めてのジム通い」第1回

宇都宮徹壱

【イラスト:鈴木彩子】

「最初の一歩をなかなか踏み出せないあなたへ」

【Getty Images】

「今年から身体を動かそうということで、初めてフィットネスクラブの会員になりました。何を着ていけばいいんだろう?」

 2014年の松が明けたばかりの1月9日、フェイスブックでこのような書き込みをしたところ、その日のうちにスポーツナビの編集部から「今度、Do系のサイトを立ち上げるので、体験コラムの連載をお願いしたいのですが」とのメールをもらった。お仕事をいただくのは大変ありがたい。が、タレントでも文化人でもない、間もなく48になる平凡な中年男のジム通いに、果たしてどんな需要があるというのか? そうした疑問を打ち合わせの際に担当編集者(女性)にぶつけてみたところ、こんな答えが返ってきた。

「ちょっと前の宇都宮さんのように、体を動かそうという最初の一歩をなかなか踏み出せない人って、けっこういらっしゃると思うんですよ。ですから需要はあると思います」

 なるほど。「最初の一歩をなかなか踏み出せないあなたへ」ということか。
 確かに私自身、その「最初の一歩」をなかなか踏み出せない1人であった。小学校から社会人3年目まで、途中の大学浪人時代を除いて下手くそなりにサッカーを続けていたものの、いつの間にか運動そのものからも遠ざかってしまっていた。その後いろいろあって、今はサッカーの現場をあちこち取材して、写真を撮ったり文章を書いたりする仕事を続けているが、プロ・アマ問わず身近にアスリートがいるわりには、私自身は「体を動かす時間があったら執筆を」と、似非(えせ)ワーカホリックを決め込んだまま、だらしなく齢(よわい)を重ねてしまった。

 そんな私がなぜ、生まれて初めてのジム通いという、これまでまったく思い至らなかった決断をしたのか。その理由と経緯については、またおいおい語っていくことにして、とりあえずは今回のジム通いの目標を3つ、挙げておくことにしたい。

(1)60歳以降も元気で働けるための体力をつけること
(2)適正の体重に戻すこと
(3)自分自身が変わること

(1)と(2)は、それほど多くの説明は必要ないだろう。(3)については、定期的なジム通いで筋力をつけ、徐々に脂肪を落としていけば、自分自身の何かが変わるのではないか、という根拠なき期待でしかない。(1)と(2)に比べると(3)は皆目見当もつかないのが、それだけに楽しみでもある。ゆえに当連載では「何キロカロリー消費した」とか「体重が何キロ落ちた」といった数値的な話だけではなく、私自身の心理的な変化についても、可能な限り言及していくことにしたい。

明確になった目標数値

【Getty Images】

 私のジム通いは1月16日からスタートした。フィットネスクラブは、自宅から最も近いところを選択。フリーランスの特権を生かして、料金が最も安い午後2時から5時半の時間帯にしてもらった。これで月5000円だから、週1ペースとして1回1250円。それほどの負担感はない。受付でロッカーのカギをもらい、週末に新調したトレーニング用のシャツとトランクスに着替えて、さまざまな機器が並ぶトレーニングルームにまなじりを決して向かう。最初に対応してくれたのは、笑顔が実に愛くるしい20代の女性インストラクター。自然と緊張感はほぐれていった。

 まずは最新の計測機器を使っての体成分分析から。筋肉と脂肪に関する数値は以下のように出た(いずれもキログラム)。

・体重=79.3
・骨格筋量=34.5
・体脂肪量=16.6

 うーむ、人生初の大台となる80キロから、ギリギリのところで踏みとどまっているのか。ちなみに私の身長は180センチ。思えばフリーになりたての15年前は、確か60キロ台前半だった。さすがにそこまで戻すのはハードルが高すぎるが、インストラクターのお姉さんによれば「今の年齢を考慮すれば、72キロくらいが適正ですね」ということなので、まずはそこが当面の目標。また体脂肪量についても「とりあえず14キロを目指しましょう」という具体的な目標数値を出してくれた。2.6キロ減らすのに、どれくらいの運動量が必要なのか分からないが、これまた実現可能な目標のように感じられる。

 ちなみに私の基礎代謝量は「1579.6キロカロリー」。この数値を上げることで、脂肪を燃焼しやすくできるという。そのためには、胸、背中、足、腹という4つの筋肉を中心としたトレーニングと有酸素運動で、全身をバランスよく鍛えながら体を絞っていくという大まかなプランが提示された。私がいちいち頷きながらメモをしていると、インストラクターのお姉さんは満面の笑みを浮かべて「ずい分と熱心なんですね」と言ってくれた。まあ熱心なのは間違いないのだが、ここでのやりとりがコラムのネタにされることを彼女は知るよしもない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『日本代表の冒険』(光文社)など著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。Twitter:tete_room

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