阪神入り呉昇桓は類まれな剛球使い 韓国No.1クローザーは「虎の守護仏」に
「呉昇桓ほどの信用できる抑えがいるか?」
阪神入りが決まった呉昇桓を徹底分析、いったいどのような投手なのか 【ストライク・ゾーン】
2012年2月。韓国を代表するクローザー・呉昇桓(オ・スンファン)は、サムスンの春季キャンプ地、沖縄・ONNA赤間ボール・パークでそう吐露した。
阪神球団は22日、獲得を目指していた呉昇桓と契約合意したと発表。呉昇桓の願いは叶った。呉昇桓は海外進出が可能なFA取得まで1年を残すも、サムスン球団は本人の意思を尊重。阪神との交渉の末、呉昇桓は晴れて日本へと旅立つこととなった。
呉昇桓の日本志向。それはプロ入り以来の出会いがもたらした自然な感情だった。呉昇桓は05年にプロ入りすると、中日で抑え投手として活躍した宣銅烈監督の下、1年目のシーズン途中からクローザーを任された。08年には旅行を共にするなど親交が深い、兄貴分の林昌勇が東京ヤクルト入り。10年から3年間は投手コーチを務めた落合英二(元中日)と強固な信頼関係を結んだ。
呉昇桓の韓国での実績は輝かしいものだ。セーブ王を5回獲得し、5度の優勝にも貢献。プロ8年目の12年には、それまでの韓国歴代セーブ記録227を塗り替え、9年間で挙げたセーブは277を数える。通算防御率は1.69。韓国では向かうところ敵なしだ。
「呉昇桓ほどの信用できる抑えがいるか? ウチのチームは8回までにリードを奪えば、絶対勝ちなんだから」。サムスンを3連覇に導いた柳仲逸監督はこう話す。この言葉は決して大げさではない。呉昇桓のブロウンセーブ(セーブがつく場面で登板し、同点または逆転された時に記録される)は今季2つ。この5年間でもわずか8だ。
直球の回転数は球児以上
写真でもわかるように、呉昇桓はボールを握る際、手のひらに球を密着させていない。人差し指、中指、親指で球をつかみ、リリースの瞬間、親指を支点に強い握力を使って、ボールを押し出している。そうして弾き出された球はバックスピンが効き、打者へと向かっていく。呉昇桓の直球の回転数は12年の調査によると1秒間に約47回転。韓国リーグ平均の約41回転や、かつて日本メディアが報じた藤川球児(カブス)の45回転よりも多い。回転数が多いということは、初速と終速の差が小さい、伸びのあるストレートになるということだ。
その呉昇桓の球の伸びをピッチング以外で実感することがあった。ある試合前、呉昇桓が3塁の守備位置につきノックを受けた。ゴロをつかんだ呉昇桓は軽く1塁へ送球。するとそのボールは全く弧を描くことなく、1塁手のミットの中にズシンと一直線に収まった。それはこれまでに見たことがない、まさに糸を引くような球筋だった。それを見た落合コーチ(当時)は、「あんな球を投げるピッチャーは他にいません」と感嘆の言葉を口にした。
門倉氏「日本でも活躍すると思う」
類まれな剛球使いの呉昇桓。では呉昇桓はストレート一本で、日本で勝負していけるのだろうか。その疑問に門倉氏は、「いいツーシームも持っていますよ」と話す。呉昇桓の持ち球はスライダーとカーブ。フォークの握りでもボールを投げているが、「ストンと落ちるのではなく、チェンジアップのような軌道」(門倉氏)ということで、カウントを稼ぐ球として、比率は少ないが変化球も交えている。門倉氏は11年に現役としてサムスンに在籍した際、自身が先発して呉昇桓が締めるゲームが4度あった。「呉昇桓につなげば“勝ったな”と思っていました」と門倉氏。その信頼は2年を経て、指導者となった今でも変わらず、門倉氏は「日本でも活躍すると思う」と話す。