阪神入り呉昇桓は類まれな剛球使い 韓国No.1クローザーは「虎の守護仏」に

室井昌也

「呉昇桓ほどの信用できる抑えがいるか?」

阪神入りが決まった呉昇桓を徹底分析、いったいどのような投手なのか 【ストライク・ゾーン】

「僕が完全なFA(フリーエージェント権)を取ってプレーできるのは3年後(2015年)のシーズン。その日が早く来ればいいのに。早く日本に行きたいです」
 2012年2月。韓国を代表するクローザー・呉昇桓(オ・スンファン)は、サムスンの春季キャンプ地、沖縄・ONNA赤間ボール・パークでそう吐露した。
 阪神球団は22日、獲得を目指していた呉昇桓と契約合意したと発表。呉昇桓の願いは叶った。呉昇桓は海外進出が可能なFA取得まで1年を残すも、サムスン球団は本人の意思を尊重。阪神との交渉の末、呉昇桓は晴れて日本へと旅立つこととなった。

 呉昇桓の日本志向。それはプロ入り以来の出会いがもたらした自然な感情だった。呉昇桓は05年にプロ入りすると、中日で抑え投手として活躍した宣銅烈監督の下、1年目のシーズン途中からクローザーを任された。08年には旅行を共にするなど親交が深い、兄貴分の林昌勇が東京ヤクルト入り。10年から3年間は投手コーチを務めた落合英二(元中日)と強固な信頼関係を結んだ。

 呉昇桓の韓国での実績は輝かしいものだ。セーブ王を5回獲得し、5度の優勝にも貢献。プロ8年目の12年には、それまでの韓国歴代セーブ記録227を塗り替え、9年間で挙げたセーブは277を数える。通算防御率は1.69。韓国では向かうところ敵なしだ。
「呉昇桓ほどの信用できる抑えがいるか? ウチのチームは8回までにリードを奪えば、絶対勝ちなんだから」。サムスンを3連覇に導いた柳仲逸監督はこう話す。この言葉は決して大げさではない。呉昇桓のブロウンセーブ(セーブがつく場面で登板し、同点または逆転された時に記録される)は今季2つ。この5年間でもわずか8だ。

直球の回転数は球児以上

 では呉昇桓とはどんな投手か。日本を代表する歴代のクローザーと言えば、佐々木主浩のフォーク、高津臣吾のシンカー、岩瀬仁紀のスライダーのようなウイニングショットがあるが、呉昇桓の決め球、それはストレートだ。呉昇桓は身長178センチ、体重92キロ。決して大柄な方ではないが、胸囲110センチの厚い胸板を持ち、握力は成人男性の平均50キロを大きく上回る83キロを誇る(10年秋時点)。その握力と独特の握りから生み出す直球が呉昇桓の真骨頂だ。

 写真でもわかるように、呉昇桓はボールを握る際、手のひらに球を密着させていない。人差し指、中指、親指で球をつかみ、リリースの瞬間、親指を支点に強い握力を使って、ボールを押し出している。そうして弾き出された球はバックスピンが効き、打者へと向かっていく。呉昇桓の直球の回転数は12年の調査によると1秒間に約47回転。韓国リーグ平均の約41回転や、かつて日本メディアが報じた藤川球児(カブス)の45回転よりも多い。回転数が多いということは、初速と終速の差が小さい、伸びのあるストレートになるということだ。

 その呉昇桓の球の伸びをピッチング以外で実感することがあった。ある試合前、呉昇桓が3塁の守備位置につきノックを受けた。ゴロをつかんだ呉昇桓は軽く1塁へ送球。するとそのボールは全く弧を描くことなく、1塁手のミットの中にズシンと一直線に収まった。それはこれまでに見たことがない、まさに糸を引くような球筋だった。それを見た落合コーチ(当時)は、「あんな球を投げるピッチャーは他にいません」と感嘆の言葉を口にした。

門倉氏「日本でも活躍すると思う」

 また呉昇桓は、左足の踏み出し方も独特だ。前に踏み出した足が完全に着地する前に、かかとでワンステップするのだ。サムスンの門倉健投手インストラクターはこれについて、「日本のバッターは初対戦の時、タイミングが取りづらいかもしれませんね」と話す。

 類まれな剛球使いの呉昇桓。では呉昇桓はストレート一本で、日本で勝負していけるのだろうか。その疑問に門倉氏は、「いいツーシームも持っていますよ」と話す。呉昇桓の持ち球はスライダーとカーブ。フォークの握りでもボールを投げているが、「ストンと落ちるのではなく、チェンジアップのような軌道」(門倉氏)ということで、カウントを稼ぐ球として、比率は少ないが変化球も交えている。門倉氏は11年に現役としてサムスンに在籍した際、自身が先発して呉昇桓が締めるゲームが4度あった。「呉昇桓につなげば“勝ったな”と思っていました」と門倉氏。その信頼は2年を経て、指導者となった今でも変わらず、門倉氏は「日本でも活躍すると思う」と話す。

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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