阪神入り呉昇桓は類まれな剛球使い 韓国No.1クローザーは「虎の守護仏」に

室井昌也

通算投球回数510回1/3で、625奪三振

「分かっていても打てない」という直球が魅力、日本でもその奪三振力を見せ付けるか 【Getty Images】

 それでは打者から見た呉昇桓はどうか。韓国を代表するスラッガー・洪性フン(斗山)は、今年の韓国シリーズを前にこう話した。「呉昇桓の球はストレートが来るとわかっていても打てない」。洪性フンの言葉通り、呉昇桓と対する打者はストレートに絞って対峙するもバットは空を切る。通算投球回数510回1/3に対し、奪った三振は625個。高い奪三振能力も呉昇桓の魅力だ。また打者を詰まらせてフライを打たせるタイプで、今季はゴロアウト(GO)40に対し、フライアウト(FO)が56。セーブのタイトルを獲得した11、12年を見ると、その比率はFOがGOの倍近い数になっている。そのため、ランナーを背負った場面でゴロを打たせてピンチをしのぐというよりも、回の頭からマウンドに上がるというのが、最も存在感を発揮する持ち場だ。

 韓国では選手層の薄さからクローザーの起用法が一定ではないことも多いが、落合コーチ在籍当時の呉昇桓は9回の1イニング限定で起用され、11年には54試合に登板、1勝47セーブ、防御率0.63の好成績を残した。その当時について呉昇桓は「無理なく使ってくれたのでありがたかった」と話している。

 また性格もクローザー向きだ。呉昇桓は韓国で「石仏」という愛称で呼ばれ、無表情で通っている。どんなピンチでも感情が表に出ず、三振を奪ったとしても叫んだり、ガッツポーズを見せることはない。心の揺れがないのが呉昇桓らしさだ。ちなみに「無表情」であっても「不愛想」ではないので、チームで浮く存在になることはないだろう。

「日本でも成功する」李大浩も太鼓判

 いいこと尽くめの呉昇桓だが、不安材料はないのか。呉昇桓は来年32歳。門倉氏は「真っ直ぐがこれ以上速くなることはないと思う」と話す。しかし門倉氏は「でも」と付け加え、「普段から新しい変化球を覚えようとしています。ツーシームをこれまでより多く使ったり、韓国では見せることがなかった縦の変化球を使ってくるかもしれませんね」と呉昇桓の研究熱心な姿勢を明かした。

「呉昇桓? 日本でも成功すると思いますよ」。同い年の李大浩(前オリックス)はそう話す。呉昇桓と李大浩の韓国での対戦は07〜11年の5年間で15打数6安打2本塁打、打率4割だ。そのうちのホームラン1本は、外角高めの直球をライトポール際に押し込むという、李大浩だからこそ打てたという当たりだった。このことから呉昇桓を評価するなら、「李大浩ほどの打者であれば打てることもあるが、そうでなければ打ち崩すのは難しい投手」、というところだろうか。

「呉昇桓、SAVE US」。韓国では呉昇桓がマウンドに上がると、この言葉が荘厳なテーマ曲と共に繰り返された。呉昇桓は虎の守護神、いや守護仏としてチームを救っていく。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント