“萩野効果”が促す競泳・黄金世代の成長=世界水泳に見たリオ五輪への頼もしい道筋

折山淑美

萩野が2つの銀メダルを獲得

世界水泳で2つの銀メダルを獲得した萩野(右)と金メダルに輝いた瀬戸。同学年の2人が目覚ましい活躍を見せた 【写真は共同】

 最後には周囲を驚かせる、瀬戸大也(JSS毛呂山)の男子400メートルメドレーの優勝で終わった世界水泳(バルセロナ、競泳は現地時間7月28日〜8月4日)。2016年リオデジャネイロ五輪の主力になると期待されるゴールデンエージ(黄金世代)の選手たちは、それぞれに収穫を得る戦いをした。

 その先陣を切ったのは、大会前から期待されていた萩野公介(東洋大)だった。個人とリレーを含めて7種目への挑戦。大会初日の400メートル自由形では余裕を持って決勝へ進出すると、3分44秒82の日本記録であっさりと銀メダルを獲得したのだ。しかも350メートルは2位と0秒94差の4位通過ながら、最後には粘りを発揮し、3位に0秒03だけ競り勝つ勝負強さを見せた。本人は「銀メダルはうれしいが、レース内容とタイムには納得できない部分もある」と冷静だが、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチは「もっと速い展開を意識していて4分43秒台を目標にしたが、その予測が外れても最後にあれだけ力を残していて競り勝ったというのは、今後に向けては大きい」と評価した。

 その勢いは翌日からの200メートル自由形でも見せた。「泳ぎの確認をしながら泳いだ」という準決勝は1分46秒87の3位通過で、メダル獲得のチャンスもうかがわせた。そして30日の決勝では、ラストの50メートルで勝負するという作戦通りにレースを進めたが、残り5メートルで失速して追い上げはならず、1分45秒94の5位に止まった。それでも萩野は、「隣のレーンはダニラ・イゾトフ選手(ロシア=09年世界水泳で同種目3位)だったが、ターン後の蹴りの力は向こうの方が上なので焦ってしまったが、200メートル自由形でも戦えると分かった」と、400メートルに続いて初挑戦の自由形に手応えを得たのだ。

 背泳ぎは勝負したいという思いが強かったのか、7月30日の100メートルでは前半で力んでしまって7位。8月2日の200メートルも“背泳ぎ”の背泳ぎと“個人メドレー”の背泳ぎの違いをうまくすり合わせることができず5位に止まった。

 だが1日にあった200メートル個人メドレーでは、1分54秒98で優勝したライアン・ロクテ(米国)には対抗できなかったが、銀メダル争いをする相手と定めたチアゴ・ペレイラ(ブラジル)を想定通りに最後の自由形で捕らえてゴール直前で差し切り、0秒01差できわどい勝負をものにして2個目の銀メダルを獲得。最終日にある400メートル個人メドレーでの金メダル獲得へ向けて、着々と準備を積み重ねていた。

萩野と競り合った瀬戸が大金星

 そんな萩野の活躍に刺激をされたのは瀬戸だった。200メートル個人メドレーでは準決勝で1分58秒03の自己ベストを出したが、決勝は、前半を準決勝より速いラップで突っ込む勝負をかけるも後半に崩れて、1分58秒45とタイムを落として7位に沈んだ。

 だがその悔しい結果は彼の心の中に火をつけた。「決勝でタイムを落とす失態は二度としたくない」「萩野とともにダブル表彰台を狙いたい」と強く決意。翌日午前は萩野の代役で800メートルフリーリレーに出場したが、しっかりと調整に専念。最終日午前の400メートル個人メドレー予選は、4分12秒96で泳いで全体2位で決勝へ進出。「予定していたタイムにドンピシャできているので、感覚的にはすごく良い。200メートルを2分ちょうどくらいで通過できると思ったので、そのあとの平泳ぎと自由形は少し流したが、それでも目標の12秒台が出たし余力もあったから、午後の決勝では自己ベストを更新できそう」と、納得のいく仕上がりに笑顔を見せた。

 決勝は、予選4位通過で6レーンになった萩野と隣り合う5レーン。指導する梅原孝之コーチは、「弱点だった背泳ぎは改良の成果が出て良くなっていて、得意な平泳ぎも良い感覚になっている。得意な種目でもある最初のバタフライを若干抑え、前半は予選と同じくらいのタイムで通過すればいい」と指示をした。平泳ぎから勝負をかけて、4分8秒8を目標にしよう、と。

 決勝は優勝候補の萩野が積極的にに突っ込み、最初のバタフライは56秒35でトップ通過すると、かつてはバタフライで萩野をリードするのが普通だった瀬戸は、その状況にも焦ることなく56秒62で3位通過。背泳ぎで2番手にあげて200メートルは2分00秒10と作戦通りの泳ぎをする。そして、平泳ぎで萩野との2秒19差を逆転して逆に0秒10差をつけた。

 3位以下に1秒以上の差をつけて二人が自由形に入ると萩野がすかさず差し替えしてリードするが、瀬戸も負けじと食らいつく。350メートルをターンした時点では4レーンのチェイス・カリシュ(米国)が激しく追い上げてきたが、1秒近い差でふたりのワンツーフィニッシュは堅いかと思えた。だが残り25メートルを過ぎて萩野がまさかの失速。瀬戸はそのまま泳ぎ切り、目標をわずかに上回る4分8秒69で金メダルを獲得し、萩野は4分10秒77で5位に沈むという結果になったのだ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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