フジカキの銀はラッキーではない! 世界に見せた日本バドミントンの実力

折山淑美

チャンスをものにして、銀メダルを獲得したフジカキペア 【Getty Images】

 全選手が2回戦までに敗退という2004年アテネ五輪での惨敗以来、五輪、世界選手権王者で、かつてはダブルスの神様と言われた韓国の朴柱奉氏をヘッドコーチに招へいして強化を始めた日本バドミントン。ロンドン五輪はその努力の跡を歴史に残す、素晴らしい成果を残した大会となった。

笑顔を絶やさず、強敵から白星

 追い風が吹いたのは、女子ダブルス1次リーグだった。1次リーグは4組に分かれており、各組2位までが決勝トーナメントへ進めるシステム。その最終戦でA組の世界ランキング1位の王暁理/干洋組(中国)と8位の鄭景銀/金ハナ組(韓国)、C組では3位の河貞恩/金ミン貞組(韓国)と12位のメイリアナ・ジャウハリ/グレイシア・ポリー組(インドネシア)が、次からの組み合わせを有利にするため、互いに敗戦に持ち込もうとしたのだ。今大会、予選にあたる1次リーグを行うことになり、予想されたことでもあったが、それがあまりに露骨だったために国際バドミントン連盟はその4チームを“無気力試合”をしたとして失格にした。そのため、優勝候補筆頭とメダル候補のペアが一気に消えてしまった。

 そのチャンスを生かしたのが日本の“フジカキ”こと藤井瑞希/垣岩令佳組(ともにルネサス)だった。世界ランキング5位で第4シードだった二人は、1次リーグB組最終戦で台湾ペアに敗れて2勝1敗になった。だが得失点差で1点だけインドを上回り、2位で準々決勝へ進んだ。
 準々決勝の相手のカミラ・リターユヒル/クリスティナ・ペデルセン組(デンマーク)は世界ランキング6位で、1次リーグでは同2位の田卿/趙ユン蕾組(中国)を破っている強敵だった。
「台湾戦で負けた時、二人で『もう終わりかな』と話していたんです。でも、もう一回できるチャンスをもらったんだし、相手(デンマーク)は中国に勝って調子も良さそうだから、勝ち負けはともかく楽しもうという気持ちでやったんです。それが大きかったですね」

 藤井がこう言うように、二人は笑顔を絶やさず戦った。第1ゲームはシーソーゲームで先にゲームポイントを握ってから追いつかれたが、22−20で取った。その勢いで第2ゲームは、8−8から垣岩、藤井の順で連続ポイントを取って21−10で勝負を決めたのだ。

大接戦の末、銀メダル獲得

 だが二人は、その次の準決勝がきつかったと口をそろえて言う。対戦相手は、無気力試合による失格で繰り上がってきたカナダのアレックス・ブルース/ミシェル・リ組。大陸枠で出場した世界ランキング27位のペアで、フジカキにとっては勝って当然という戦いだったからだ。

「日本のバドミントンはこれまで五輪でメダルを獲ったこともないのに、勝って当然だと思われる状況になって、自分たち自身もどこかで『獲らなきゃいけない』と思ってしまったんです。だから久しぶりのきつい試合でしたね。試合中にも垣岩に、『ヤバい、どうしよう。逃げたい、逃げたい』って言ったんです」と、藤井。
 それに対して垣岩は、「私も緊張していたけど、いつもは緊張しない先輩が先に『逃げたい』とか、『もういやだ』と言ってくるから、いろいろと話しかけて笑顔でできるようにしようとしたんです」と苦笑する。

 第1ゲームは21−12でアッサリと取ったが、第2ゲームは9−9から4連続ポイントを奪われて焦りが出てきた。藤井がすぐに5連続ポイントで逆襲したが、互いに連続ポイントを取り合う展開になり、19−21で競り負けたのだ。だが開き直れたファイナルゲームは21−13で取って決勝へ進出。銀メダル以上を確定させた。

 中国の田/趙組との決勝では、第1ゲームがガチガチになって笑みさえ浮かべられなくなった垣岩のミスが目立ち、10−21とアッサリ取られた。だが笑顔を取り戻した第2ゲームは、中盤からリズムに乗り連続得点でリードする場面もあった。結局は23−25で敗れたが大接戦を演じ、満員の観客を興奮させる戦いはできた。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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