「あったかいスタジアム」づくりは、知恵と工夫の総力戦【スタジアムMC & チーム運営対談企画・前編】

チーム・協会

写真左から森田淳司さん、白石みゆさん、チームマスコットのスッピー 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

クボタスピアーズ船橋・東京ベイでは、今シーズンからホストゲームの運営テーマを「MAKE YOUR “ORANGE”~あったかいスタジアム~」に設定。来場者のみなさんが温かな気持ちで観戦できるよう、会場演出にこだわり、工夫を凝らしながら毎試合運営しています。今回は、スタジアムの雰囲気づくりの要であるスタジアムMCの森田淳司さん・白石みゆさん、そしてスピアーズの運営の柱を担う吉田宗二郎さん・田村玲一さんに、ホストゲーム運営の裏側について聞きました(取材日:2025年2月22日)。

ゴールポストを立てるのに1時間! えどりくならではの準備とは?

――まずMCのお二人にお伺いします。試合当日、会場入りするまでのルーティンはありますか?

森田:スピアーズえどりくフィールド(えどりく)で行われるときは、西葛西駅に着いたらスイッチを切り替えて、“戦闘モード”に入ります。徐々にテンションを上げていくために欠かせないのが音楽。初めて話すのでちょっと恥ずかしいのですが、クラシックを聴いています。中でも好きなのはブラームス。曲調に強弱があり、ドラマチックで気持ちがアガるんです。

――意外です! そういえば、先日の取材でオペティ・ヘル選手も朝はクラシックを聴くとお話ししていましたよ。

白石:私はスピアーズの試合に必ず“本物のオレンジ”でできたイヤリングとスッピーグッズを身に着けて向かいます。また、のどが開くまでに3時間かかると言われているので、それを見越して朝起きるようにしています。

白石さんがこのオレンジのイヤリングを着け始めたのは2018年。色がだいぶ変わってきたそうです 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

――森田さんはスタジアムに毎回持参するものはありますか?

森田:スピアーズに限らず、スポーツの現場に必ず持っていくセットがあります。中身は、500mlのペットボトルの水3本、ゼリードリンク2本、ミント味のタブレット、はちみつ入りのどあめです。

白石:MCに水はマストですよね。それにしても3本はすごいです(笑)。

――続いて運営のお二人に、試合開始前どんな準備をしているか伺いたいと思います。

田村:えどりくなど、会場がもともとラグビー場ではない場合、現地入り後まずゴールポストを立てます。作業自体はシンプルですが、これが地味に大変で……。ポールを運び出し、まっすぐ4本立てるまでに1時間ほどかかるんです。頭の中で「ゴーストバスターズ」のBGMを流しながら、せっせとワイヤーを巻いていますよ(笑)。ポールを立てる運営スタッフを「ポールスタンダッパーズ」と名付けて、その役割を運営スタッフの一員として担っています!
吉田:私はまずリーグワンと開催地協会の競技役員のみなさんとの「主管進行確認ミーティング」に参加します。その後、フロア進行スタッフ、テクニカル(音響・映像・特殊効果演出)、各出演者(チア団体・スッピー・試合ごとのゲスト)、試合中継局やMC森田さん・白石さんとの事前ミーティング、演出すり合わせを行います。

2月22日に行われた「学志舎 CANDY STARキッズチア」のパフォーマンス 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

――ほかに、えどりくならではの作業はありますか?

田村:トライゾーンのラインをテープで貼る作業ですね。いかにまっすぐ貼れるかにこだわって、地道な作業も楽しくやっています。運営スタッフの仕事はすべて“縁の下の力持ち”。まさに“どぜうの精神”(注:元選手の田村さんは、泥臭いプレーヤーのみが入れる「どぜう会」所属)でチームを支えています(笑)。

えどりくの後片付けをする田村玲一さん(写真提供:今野達朗コーチ) 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

吉田:えどりくではホーン(前後半終了を知らせる効果音)の音量が選手にストレスなく、過不足なく聞こえるか気になるので、ピッチの四隅すべてを回り、実際に鳴らしてチェックしています。

MC2人体制で生まれるコントラストに注目

――「あったかいスタジアム」をつくるために心がけていることはありますか?

森田:スピアーズのホストゲームでは、相手チームへのリスペクトやノーサイドの精神が一番大事なことだと思っているので、そこは意識していますね。「いつでもウェルカム、一緒にラグビー楽しもうぜ!」という感じで、全員が応援しやすい空気をつくるようにしています。あとは、どんな試合展開であれ、両チームの選手がトライを決めたときなど、すばらしいプレーに対しては敵味方関係なく全力でたたえます。

白石:私はビジターチームのアナウンスを担当しているので、特に相手チームを立てられるよう心がけています。また、観戦したすべての人が、快適に過ごせて楽しかったと思える雰囲気を目指したい。試合後やSNSでラグビーファンの方々と交流しながら、おもてなしのヒントを探っています。
森田:今日のブルーレヴズ戦では、チャンスのときの「ゴー! ゴー! スピアーズ!!」や、スクラムのときの「押せ! 押せ! クボタ!!」の掛け声に重なって、「ゴー! ゴー! レヴズ!!」「押せ! 押せ! レヴズ!!」と放送席まで聞こえてきました。純粋に「めっちゃいいな、これこそ“あったかいスタジアム”だ」と思いましたよ。
――森田さんが先導している掛け声のバリエーション、定着してきたように感じます。

吉田:私はスピアーズのビジターゲームもしょっちゅう観戦しますが、「ゴー! ゴー! スピアーズ!!」の声援が増えていて、毎回感動しています。

森田:オレンジアーミーのみなさんは熱量が高いので、定着がものすごく早い! ホストゲームでも僕の発声に続いて声を出すというより、オレンジアーミー自らが声を出して声援が広がっていく流れになると理想的ですね。

森田さんののびやかな声がえどりくに響き渡っていました 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

吉田:そういえば、昨シーズン応援スタイルについて森田さんたちと会話した際、“ファンを育てる”というキーワードが出ましたよね。

森田:僕が関わりのあるB.LEAGUE(Bリーグ)のチームの話になるのですが、当初お客さんからなかなか声が出なかった。なので、最初は積極的に誘導の声を出しつつ、お客さんが乗ってきたらあえて声を出さず“見守る”ことを選択したといいます。これを繰り返すことで、自発的に応援するスタイルが確立したそうです。これからのオレンジアーミーの伸びしろに期待しています。
――スピアーズのMC2人体制は、いつから続いているのですか?

吉田:4シーズン目に入りました。白石さんが影の役割であるビジター側を担当して支えてくれていることで、森田さんのMCがぐっと引き立つんですよね。このコントラストがすごくいいなと思っていて。

森田:白石さんのビジターチームの選手紹介のおかげで、いい流れでスピアーズの選手紹介に入っていけるので、僕も本当に助かっています。

白石:ビジター側担当にもかかわらず、たまにオレンジアーミーを隠し切れない瞬間があり……。これは私のちょっとした悩みですね(苦笑)。
取材・文:せきねみき(ライター・コラムニスト)

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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