Jリーグ・モンテディオ山形が「60歳以上のコミュニティ」を開設。高齢者の可能性を広げる取り組みとは

チーム・協会

【写真提供:モンテディオ山形】

さまざまな問題をはらむ高齢化の進行は、日本中で課題となっている。高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)34.8%で全国5位(2022年10月時点)の山形県も例外ではない。そこで、その課題に取り組もうとプロジェクトを立ち上げたのが山形県をホームタウンとするJリーグ所属のプロサッカークラブ・モンテディオ山形だ。“声”に注目した課題の解決とは一体どういうものなのか? 運営部サブマネージャーの荒井薫氏にお話を伺った。

高齢者とサッカー。“声出し”が共通ポイントに

最初は戸惑いがちな声を出すという行為も、慣れていけば自然に取り組むことができるようになる 【写真提供:モンテディオ山形】

きっかけは、スポーツの価値が社会貢献に繋がるような新たな財、サービスの創出を促進するためにスポーツ庁が構築したプラットフォームSOIP(Sports Open Innovation Platform)だった。ここでマッチングした全国のスポーツチームと一般企業で作り出された事業には補助金が支給されるという。

「その説明会に出席したモンテディオ山形の代表・相田が、高齢化の課題に取り組もうと考えました。高齢化というと、みなさんネガティブに捉えがちだけれども、そうではなくて積極的に高齢者に向き合うこと、今まであまり接点のなかった高齢のお客様にも今後はどんどん試合を見に来ていただくようにすることが大事なのではないかと相田は考えたんです」(荒井氏、以下同)

そんなモンテディオ山形とマッチングしたのが、女性向けの話し方サロンを運営する埼玉にある企業・ボイスクリエーションシュクル。地域が抱える高齢化率の加速をはじめとする高齢者にまつわる社会課題をテーマに、両者がディスカッションを重ねていく中で、出てきたのが“声”を使うということだった。声の出し方を学ぶ、つまりボイストレーニングをすることは、歌手や司会者など声を職業とする人だけが行うものではない。効果的な声の出し方を学ぶことは、誰でも健康増進を期待できるのだという。

「ボイストレーニングによって顎の可動域を広げて滑舌をよくすると、噛んだり、飲み込んだり、消化したりする力を高め、認知症の予防にもつながるそうです。サッカースタジアムでは、お客様はみんな大きな声を出して応援しますから、モンテディオ山形としても取り組みやすいテーマでした」

コロナ禍で失われていた会話・外出の機会が復活

外出や会話の機会が増えることも、このプログラム実施のメリットになる 【写真提供:モンテディオ山形】

このようにして発足した“O-60 モンテディオやまびこ”とは、60歳以上の人々の作るコミュニティだ。集まった60歳以上の人々は、ボイスクリエーションシュクルから派遣されたトレーナーの指導の下、数回のボイストレーニングを受ける。その後、実際にモンテディオ山形の試合が行われるスタジアムに赴いて、訪れる観客に声がけをしたり、自身でも応援をしたりする。

「スタートは、2024年の3月16日の開幕戦と3月30日の清水エスパルス戦の2試合に向けて、募集をしました。定員は20名だったんですがすぐに埋まり、まずは成功といったところですね。とはいえ、最初ですから、集まってくださったのは、ほぼモンテディオ山形のファンの方というか、興味を持っていただいている方々だったので、今後はうちのクラブを知らない方、“サッカーの試合なんて見たこともない”という方にもどんどん参加していただくことが目標です」

“O-60 モンテディオやまびこ”はスタート当初、“声を出すとは、いったいどういうことをするのだろう?”と戸惑う参加者も少なくなかったようだ。しかし、一カ所に集まって、普段あまりすることのない大声を出すという行為は、人と人とを結びつけ、自然に“コミュニティ”ができあがる。

「みなさんがよくおっしゃるのは、コロナ禍のため、外出したり人と会話したりする機会が減っていたんだけれども、これに参加することによって外出や会話の機会が増えたということ。確かに、参加する方々の表情が日に日に明るくなっていくのが目に見えて分かりました。“O-60 モンテディオやまびこ”は、“声を起点に健康を求めていきましょう!”と言ってはいますが、どちらかというと、高齢の方のコミュニティを作ること、外に出る機会を創出し健康になってもらうことが主眼になっているように思います」

“O-60 モンテディオやまびこ”を高齢化の課題解決のモデルケースに

今後は、インストラクター養成プログラムを実施して、“自前”の講師を派遣できるようにしていく予定 【写真提供:モンテディオ山形】

“O-60 モンテディオやまびこ”は、クラブチームの主催としてスタートしたが、第二のフェーズとして、山形県内の自治体と共同での開催も始まっている。県中央部の人口約5000人の西川町、そして同じく中央部の朝日町(人口約6000人)で、声磨き教室が開催されているのだ。

「この2つの町では自治事業として開催されています。ボイスクリエーションシュクルからボイストレーニングの講師が伺って、それぞれ15~20名ぐらい参加していただいています。そして、2回ほどのトレーニングの後、モンテディオ山形の試合が開催されるスタジアムにみなさんで行って活動をしていただく予定です」

この自治体での開催の際には、2023年に現役を引退したモンテディオ山形の元選手・岡崎建哉氏も現地に赴いて指導を行う。岡崎氏は2024年1月にモンテディオ山形のクラブコミュニケーターに就任して、山形県内のホームタウン活動に関わり、地域とクラブをつなぐ役割を担っている。

「岡崎には研修を受けてもらい、ボイストレーニングの講師として教室に行ったり、講習を受ける方々が使うテキストに掲載される画像に登場してもらったりしています。我々フロントスタッフが赴くより、“選手の誰々が行って皆さんと一緒にやります”と言った方が、地域住民の方々にモンテディオ山形を知ってもらうきっかけになりますし、メディアにも取り上げてもらえます」

“O-60 モンテディオやまびこ”を開催するにあたって、今までは毎回ボイスクリエーションシュクルから講師を派遣してもらっていたが、今後は、岡崎氏のように“自前”の講師で開催できるよう、インストラクター養成プログラムも実施していく予定だという。

「自治体との共催は、事例がないと難しいとか予算を取るのが困難だなど、容易ではないため現在2つの地区だけですが、今後はもっと広げていきたいと考えています。そのためにも講師養成は必須ですね。3月にSOIPの成果の発表会があったんですが、周囲からは良い評価を受けることができました。高齢化が課題になっているのは山形県だけではありません。この“O-60 モンテディオやまびこ”は、どの地域でも展開できるものですから、みなさんの見本になるように今後も頑張って取り組んでいきたいですね」

声を出すことが健康増進に役立つことは想像に難くなかったが、人と人とのつながりの強化、そして結果的にコミュニティを生み出すということには驚かされた。スポーツ観戦には応援、つまり声を出すことが欠かせない。だから最後に荒井氏が述べたように、どんなスポーツの場でもできることになるのだろう。モンテディオ山形が23歳以下の学生を集めて取り組んでいる“U-23マーケティング部”では若者を、そしてこの“O-60 モンテディオやまびこ”では高齢者を対象に、幅広い年齢層を取り込んで地域を活性化するモンテディオ山形の活動がもっと広がっていくことを期待したい。

text by Reiko Sadaie(Parasapo Lab)
写真提供:モンテディオ山形

※本記事はパラサポWEBに2025年2月に掲載されたものです。
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