【トップアスリートの目標の使い方】ライフスキルトレーニング第1回全体講義振り返りインタビュー:瀧野未来/渕上翔太/宮尾真仁

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【JAAF】

日本陸連が、2020年度から大学生アスリートに向けて実施している「ライフスキルトレーニングプログラム」。これは、自身の思考や状態を把握して、常に最善の選択を行っていく方法を学び、「自分の最高を引き出す技術」が身につくようトレーニングしていくプログラムで、この能力を使いこなせるようになることによって、より高い競技力の獲得やさらなる向上を実現できるようにするとともに、競技以外のさまざまな場面でも幅広く活躍できる人材になることを目指しています。

5期目となった今年度は、対象を大学生全体(1~4年生)に広げて募集を実施。1年生3名、2年生4名、3年生2名、4年生1名という学年構成で10選手が選出されました( https://www.jaaf.or.jp/news/article/21235/ )。
今後、3月までの4カ月間に、集合研修も含めて予定されている全4回の全体講義に加えて、グループや個別で複数回のコーチングを受けていくことになっていて、2024年12月8日には1回目の全体講義が、12月23~25日には、3つに分かれてのグループコーチングが行われています。

本サイトでは、これまで全体講義の模様をレポートしてきましたが、今回は、日を改めて受講生の数名にインタビューを行い、「生の声」をお届けする形で、ライフスキルトレーニングプログラムで得た学びや受講生たちの変化をご紹介します。

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12月8日に行われた第1回全体講義では、「トップアスリートの目標の使い方」というテーマのもと、
・ライフスキルとは何か、
・勝ち続ける(結果を出し続ける)組織や選手は、どんなサイクルを持っているか、
・「将来なりたい最高の自分」を実現させるために演じる「役割性格」とは何か、
・目標設定の仕方や目標を使いきるための考え方(ダブルゴール、縦型/横型比較、CSバランス)、
について、布施努特別講師が一つ一つ紐解き、受講者個々が自身について話したり、ディスカッションを行ったりするなかで理解を深めました。「全体講義振り返りインタビュー」第1弾となる今回は、瀧野未来選手(立命館大学1年、女子400mハードル)、渕上翔太選手(早稲田大学1年、男子400mハードル)、宮尾真仁選手(東洋大学2年、男子三段跳)の3選手に、講義を受けての感想や自身の変化を伺いました。

第1回全体講義を受講した感想

――1回目の全体講義から少し経ちましたが、今日はちょっと時間を巻き戻して、振り返っていただきます。まずは、実際に講義を受けてみての感想から聞いていきましょう。まずは、3人のうちで最年長となる宮尾選手から行きますか。

宮尾:はい。「目標を考える」という話のところで、自分が「でかい目標」の一つだけしか考えていなかったことに気づきました。大きな目標と小さな目標、そして小さな目標のなかでも最高目標と最低目標と、2つの目標を設定することによって、段階的にクリアしていけるようになるんですね。そうすることで、大会でも練習でも「一つ、これをクリアできた」というものがあると、自信になるなと思いました。
あとは、受講生のみんなの意見がそれぞれに違っていて、自分が思ってること以外のことも深く考えているんだなということがわかって、それがすごく面白かったです。

――「目標設定」のところで、特別講師の布施さんが「ダブルゴール」という言葉で説明してくださった部分ですね。そういう発想自体がそもそもなかったのですか? それとも、なんとなく近いことはできていた?

宮尾:「ダブルゴール」というのは全く考えていなかったですね。目標を考えるときに、一つの大きな目標は立てていましたが、小さな目標を考えることは頭になかったです。

――講義を受けたあとに、小さな目標や最高目標・最低目標というのを考えてみましたか? 

宮尾:はい、考えました。どういうのがあるかいくつか考えて、やってみています。

【フォート・キシモト】

――続いて、瀧野さんに聞いてみましょう。どんな感想を持ちましたか?

瀧野:「新鮮なことばかりで楽しいな」というのが最初の印象でした。講義の最初のほうで、受講生全員が、「自分がどんな選手で、どういうところが強みか、なぜ受講することにしたか、何を得たいか」ということを話していったのですが、そこで同年代のトップの人たちの話を聞いて、「ああ、こんな強い選手でも、そういうことを悩みに思っているんだな」とか、そういうのを知ることができたのも自分には良かったです。

――1回目の全体講義で、興味深く感じたのはどこでしたか?

瀧野:自分が一番面白かったのは、「役割性格」のところでした。「なりたい自分」になっていくことを実現するために、自分が決めた役割を演じきるというものですが、講義を聞いたり最後に出た課題に取り組んだりするなかで、「自分の役割って、なんなんだろうか」と改めて考えましたし、「自分のことについて、もっとよく知ろう」と思えました。まだ思考の途中で、“これ”と言えるところまで考えはまとまっていないのですが、もし、この講義を受けていなかったら、そもそもこんなことを考えていたのかなと思って…。なので、そういう機会をもらえたこと自体が、すごく大きかったなと感じています。

――受講者の皆さんが、それぞれ自分のことを話したときに、瀧野選手は、「大きな大会などで力を出しきって結果を残せるほうだが、レース前にすごく緊張するなど、そこに持っていくまでの自分を、うまくコントロールできていない」ということを課題に挙げていました。そのときに、布施さんが「役割性格の使い方がわかるといいかもね」とコメントしていましたよね? 役割性格という言葉は、そこで初めて聞いたのでしょうか?

瀧野:言葉自体は知っていましたが、陸連のホームページで記事を読んだ程度の知識でした。

――役割性格について、具体的に説明してもらったりアドバイスをいただいたりしたなかで、気がついたことや理解が深まったことはありましたか?

瀧野:自分の考え方が、抽象的だったことに気づきました。私は、なりたい将来の自分を、「どんなときでも軸をしっかり持っている人」「アスリートとしても人としても応援してもらえるような人」にして、そのために必要な役割性格に「いつも笑顔でいる」とか「周りを明るくする」とかというのを挙げていたのですが、そういう言葉に頼るのではなく、もっと細かく、深く考えることがポイントだと指摘されて…。

――布施さんは、「ビッグワード」と言っていましたね。「ビッグワードは思考を停止させてしまう。もっと細かく言語化していこう」というアドバイスでした。実際に「なぜ、笑顔がいいの?」「明るくするってどういうこと?」と、突き詰めていくように深掘りする質問が続きましたよね。あのとき、どう感じていたのですか? 

瀧野:自分って、こんなにビッグワードに頼っていたんだなと痛感しましたね。ぼんやりしたものはあるけれど、いざ言語化しろと言われたら出てこないものなのだなというのを感じて、それと同時に、言語化って大事なんだなと思いました。

【アフロスポーツ】

――渕上選手は、講義を受けてみて、どんな印象を持ちましたか? ご自身の「強み」を聞かれたときに、「分析力」を挙げていましたが、講義のなかで、分析したことや気がついたことはありましたか?

渕上:講義を受ける前は、話を聞いて学んでいくことが主なのかなと考えていたのですが、実際に受けてみると、結構その都度ディスカッションしていくようなことが多くて、「とても落とし込みやすいな」という感想を持ちました。あと、気がついたこととしては、グループワークのときに、自分は同じ大学の先輩である髙須さん(髙須楓翔、早稲田大学2年、男子200m)と組んでディスカッションをしたのですが、受講者のなかではよく知っているはずの高須さんとの間でも、けっこう考え方が違っていて、「この2人で、これだけ違いがあるのなら、ほかの選手にはもっといろいろな考え方があるのだろうな」と感じて、これからが楽しみになりました。きっと自分はまだ全然見えていないのだろうな、見えているつもりになっていたんだなということに気づくことができました。

――渕上選手は、今シーズン、記録面で急成長(50秒47→48秒78)を見せました。ライフスキルトレーニング受講理由の一つとして、「競技力は上がったものの、考え方がそこについていけていないのではないかという思いがあった」ということでしたが、実際に受講してみて、期待していることはありますか?

渕上:まず、考え方自体は、今年、大学に入って、大きく変わることができているのですが、それゆえに、このプログラムを受ければ、もっと変われることがあるんじゃないかと思っているんです。例えば、目標設定の仕方一つとっても、自分はまだまだ考えることができていないんだなと気づくなど、まだ全体講義は1回しか受けていませんが、すでに実感したことが多くありました。

【JAAF】

他の受講生の話で心に残ったり、自分と違うなと感じたりしたことについて

――次の質問は、3人のなかで、あると思ったら手を挙げていただきましょう。1回目の全体講義を受けているなかで、ほかの受講生の話で心に残ったり、自分と違うなと感じたりしたことはありましたか? はい、渕上選手、どうぞ。

渕上:誰かというよりは、宮尾さんや瀧野さんとか、あとは白土さん(白土莉紅、日本大学2年、女子走幅跳)とかもそうでしたが、「明るい」ということを挙げている人が多くいたことです。そこは、一番、自分が持ち合わせていないものだなと思って、足りていないピースなのかなということをすごく感じました。

――渕上選手は、明るくない? わけではないですよね?(笑)

渕上:そうですね、まあ、暗いわけではないですけれど(笑)、周りの人々を巻き込んで何かしていくというのは苦手というか、けっこう自分一人で考えて、物事を進めていくことが多いので…。

――そこは、布施さんが仰っていた「表と裏」という部分かもしれませんね。渕上選手が強みとして挙げていた「分析力に長けて、自分で考えて物事を進めていける」点は、逆の面からみると、周囲と一緒にやっていくことを得意としないということなのかもしれません。あるいは慣れていないだけかもしれませんし…。でも、そのことを認識できてよかったですね。

渕上:そうですね。ほかの人とは、一番差があるな、と気づくことができました。

――では、もう一つ別の質問を。布施さんの説明を聞いて、「これって専門用語は知らなかったけれど、今までも、それっぽいことをやっていたな」と思った事柄があった人はいますか? 今回は、「役割性格」「ダブルゴール」「SCバランス」「縦型比較」といった言葉が出てきましたが…。瀧野選手、ありましたか?

瀧野:自分は、目標を立てることに対してなのですが、「ダブルゴール」的なことはやっていたなと思いました。大きな目標があって、その大きな目標に対して、「何をしていく? じゃあ、こうしていこう」みたいなものは、ざっくりとやっていたなと思いました。ここまで細かくはできていませんでしたが。

――それは最終的な目標から逆算して考えていくという感じですか? 大学に入ってから? それとも高校生のころからやっていたのですか?

瀧野:高校生のときからですね。高校の先生がそういう考え方をされていて、ずっと「逆算して考えなさい」という指導を受けていたんです。それが、いい意味で習慣になっていて、大学でも引き続きやっています。

――では、そこが、自己紹介のときに受講理由として話していた「経験で学んできた感覚はあるが、知識としては理解できていない。自分の経験に知識が加われば、もっとよくなると思って応募した」という部分だったのですね。

瀧野:はい、「自分がやっていることは、こういうことだったんだ」「こういう言葉があるんだ」と、今回の講義で理解することができました。自分の場合は、大目標、中目標、小目標という設定で、それぞれでの最高目標・最低目標というところまではつくっていなかったわけですが、そこまで細かくすれば、もっとわかりやすくなるんだなということがわかりました。

先輩受講生からのアドバイスについて

――皆さんの大学では、すでに受講経験のある先輩がいらっしゃいますよね。ライフスキルトレーニングプログラムについて、何か話を聞いていたとか、応募するときに相談したとかいうエピソードはありますか?

宮尾:自分はジョセフさん(中島佑気ジョセフ、第2期生、現富士通)に相談しました。「ライフスキルトレーニングって、どんなことが学べるんですか?」と聞いたときに、「今まで聞いたことのない言葉がいっぱい出てきたり、自分の思っている以上のことを教えてもらえたりするから、自分の考え方が増えるよ」と話してくださいました。
――受講はまだ始まったばかりではありますが、「その通りだな」という印象ですか?

宮尾:そうですね。自分が今まで考えていなかったことがいろいろと出てきて、「なるほど」と納得することがありましたし、聞いたことのないワードがいっぱい出てきて、それぞれに深い意味があると知ることができました。

瀧野:自分は、同期で長距離をやっている釉未ちゃん(山本釉未、立命館大学1年、女子5000m)も今回、一緒に受講しているのですが、実は、最初は、お互いに応募していることを知らなかったんです。それで釉未ちゃんも応募していると知ってからは、柳井さん(柳井綾音、第4期生、立命館大学)に話をいろいろ聞きました。「専門用語がいろいろ出てくるから、すごく知識が増えるよ」というのと、「布施さんから、いろいろ深く聞かれるよ」と言われました。

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――先ほど、少し出てきた「深掘り質問」(笑)ですね!

瀧野:はい(笑)。柳井さんからは、「考えたことがなかったようなところまで深く聞かれるから、答えるのがすごく難しいけれど、でも、それが楽しいよ」と聞いていたんです。

――では、聞かれることはわかっていたわけですね。柳井選手も昨年、確かに、すごく深く聞かれていましたが、一方で、それに負けないくらい(笑)、どんどん自分から手を挙げて質問していましたよ。

瀧野:柳井さんとは、ブロックも練習時間も違うので、同じ大学でも関わりはこれまで物理的に少なかったけれど、そうやって自分で行動を起こしていくことは知っていました。改めてすごいなと思います。

――では、今回、受講に際して相談したことは、柳井選手とのつながりを深める機会になったかもしれませんね。パリオリンピックにも出場した柳井選手の強みを、いろいろと勉強できそうですね。

瀧野:はい、そう思います。

渕上:自分は、ちょうど入学する前…、東京に出てきたばかりの3月くらいのときに、金本さん(金本昌樹、第4期生、早稲田大学)から、「ライフスキルはいいよ」という言葉を何回も聞いていたんです。そのときは内容とか全く知らなかったのですが、「本当にいいよ」とずっと言われていたので、それで興味を持ったのが最初で、そこから自分で調べて、今回、申し込んだという経緯です。

――ちょうど金本選手が最後の全体講義を終えようかというタイミングのころですね。では、渕上選手は、そんな早い段階から、面白そうだなと思っていたわけですね。1年生は、今年から受講対象になったばかり。ラッキーでしたね。

渕上:はい。それを知ったときは、チャンスだなと思いました。

第1回全体講義の内容で、競技に活かせそうだと思ったポイントについて

――まだ全体講義1回と、グループワーク1回しか受けていない状態ではありますが、講義を受けてみて、競技面で「課題にしていることのここに生かせそうだな」「こういうことをやってみよう」と思ったことを、最後に聞かせていただきましょう。

瀧野:「自分のことをまず知ること」をやっていこうと思います。ここまでの講義とグループコーチングで、「自分を知ることによって、自分の強み弱みもわかって、その結果、行動が変わっていく」と言われたことが、すごく印象に残っていて、「じゃあ、自分の強み、弱みってなんだろう」と考えたときに、抽象的な言葉ばかりというのに気づくことができました。もっと具体的に「何が必要で、どうするのがいいのか」を深く考えて、言語化していく必要があると学べたことは、競技においても、そのあとの人生においても役立ちそうだなと思っています。

渕上:僕は、400mという距離のなかでの種目(400mハードル)をやっているので、日常の練習においても、過酷さやきつさがあるものだと思っていたのですが、講義を受けたことで「考え方の転換」というところが生きてきそうだなと思っています。それは競技だけでなく、社会人となって仕事でしんどいときにも使えることで、何かをしようとするときに、考え方自体を違う視点から捉えてみるとか、ちょっと変えてみるとかで違ってくるのかな、と。そういう「考え方ベース」というところは大切だなと思いました。

宮尾:自分は、三段跳という競技の特性を考えると、全部で6本跳んでいくときのコントロールに役立てられそうだなと思っています。例えば、1本目がファウルとか駄目な記録となったときに、今までだったら「ああ、あかんわ」とネガティブな思いに囚われてしまいがちだったのですが、講義を受けたことで、そのときの状況に応じて、設定している目標や役割性格をうまく使うことで、自分の考え方を変えていけばいいんだということに気づきました。競技時間が長いですが、そのなかで、自分の考え方をコントロールできるようにしていきたいなと思います。

――全体講義は、まだ始まったばかり。きっと回数を重ねるごとに思考の解像度が上がってくると思います。まずは、今回の講義で学んだことを、さっそく日常で実践して自分のものにしてください。皆さんに、どんな変化が起きるかを楽しみにしています。
(2024年12月24日収録)

文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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