ロッテ本前 大怪我からの復活へ。励まされ続けた一年間

千葉ロッテマリーンズ
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千葉ロッテマリーンズ本前郁也投手 【千葉ロッテマリーンズ提供】

 2月20日 糸満で行われたイーグルスとの練習試合でのことだった。その瞬間、バキッという音がスタンドまではっきりと聞こえた。マウンドの本前郁也投手は苦悶の表情を浮かべながらマウンド上で、うずくまった。

 「ボクも投げてバキッという音が聞こえた。でも、なにが起きたか一瞬、分からなかった。無茶苦茶、痛くて一瞬は脱臼かなと思ったけど、もう腕がない感覚だった。本当にもう腕がなくなったという感じ。恐る恐る見たら左腕がベタッとぶら下がってブラブラしていた。これはヤバいぞと。腕を抱えるようにその場にうずくまりました」と本前は当時を振り返る。

 プロ5年目でプロ通算4勝。本前はこの練習試合で三回から2番手で登板し、4回に連打を浴びて無死一、二塁のピンチを作って打席に鈴木大地内野手を迎えていた。なんとかローテ入りをするべくアピールに燃えていた左腕は、おもいっきり腕を振った。その初球が大暴投となり、肩を負傷した。左肩付近を押さえたまま、ベンチ裏に下がり、トレーナー室に向かった。スタンドはざわついた。脱臼ではなく骨折をしている可能性が高いという判断から救急車で病院に緊急搬送された。

 患部を動かせないため緊急措置としてユニホームを切られ、脱がされた。ビリビリに破れたユニホームが事の重大さを物語っているように思えた。「出来るだけ患部を動かないでいてください」。救急隊員から指示された。移動中、どんどん痛くなった。それでも指示通り、必死に患部が動かないように抑え込み、病院にたどり着いた。

 検査を受けた結果は左上腕骨骨幹部骨折。上腕骨(二の腕)にひねるような外力がかかることで起こるとされ、螺旋状の骨折線が入り、骨がねじれるように折れた状態だった。帰京し、その2日後には都内の病院で左上腕骨骨幹部のスクリュー固定術を行った。3時間ほどかかる大手術。抜糸から2~3ヵ月後、骨癒合が確認されるまで投球が出来ないという大怪我だった。

 一カ月くらいは私生活にも影響があった。運転はもちろんできない。歯も利き腕では磨けない。シャワーを浴びるのにも一苦労だった。食事も利き腕ではない右手で必死に行った。苦労したのは書類を書く際。名前、住所を利き腕と反対の右手で書くのはなかなか時間がかかった。「器用になりましたよ」と心配する周囲に、あえて笑って応えてみせた。

 「左腕に関しては皮膚の皮の感覚すらない感じ」。当時を本前はそう振り返る。ただ、しっかりと冷静に前を向いた。北翔大学4年時には社会人チームとの練習試合で打球が頭を直撃し頭蓋骨骨折。そのまま救急車で病院の集中治療室に運ばれたことがあった。その経験が本前を強くさせていた。

 「今回のことはもちろん大変なことではあったのですが、あれに比べると怖さはなかった。プロ入る前に頭に打球が当たって集中治療室に運ばれた。意識もほとんどなくて、それ以上のことはないと思っている。一時は記憶力も落ちて、しゃべることができなかったくらい。あそこから復帰して病室でプロ志望届を書いてこうやってプロの世界に入れて、今がある。それに比べると怖くはない。思い切り腕を振って投げる事に関してもボクには怖いという感覚はない」と力強い言葉で前を向く。

 沢山の人に励まされた。ファンからもSNSに沢山のダイレクトメールが届いた。同様の骨折の経験のあるお笑い芸人「NONSTYLE」石田明さんからも励ましの言葉をもらい、お笑いライブにも招待をしてもらった。ドラゴンズの岡田俊哉投手も下半身だが同様の骨折の経験者。エールをくれた。ありがたかった。

 現在は左腕も順調に回復。すでに短い距離ではあるが投げ始めている。来年2月のキャンプには遠投を再開し、期間中の投球練習再開を視野に入れている。「とても順調なので、もうちょっと早くいけるかもしれないです。あとは病院の先生がOKしてくれたらと」と本前の表情は明るい。それは左腕に確かな感触があるからでもある。「投げていないからですけど、左肩の可動域が人生で一番いい状態。これは凄い球が投げられるかもしれないと思えている」と笑う。

 まだ一軍のマウンドに戻るのは先の話となる。しかし、確かに確実に明るい未来が見えている。色々な人が励ましてくれた。応援をしてくれた。だから前を向けた。大手術からの日々は孤独ではなかった。お笑いライブに招待をしてくれた「NONSTYLE」石田明さんはいつかZOZOマリンスタジアムに招待したいと考えている。どんな時も応援してくれるファンにはマウンドで躍動する姿を見せたいと思っている。感謝の気持ちを込めて、おもいきり腕を振る姿を見せる。

文 千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原紀章
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