【チャンピオンズカップ】レモンポップ「衰え」克服し国内GI無敗で引退、坂井瑠星騎手「引退した後も忘れない」

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レモンポップ(右・白帽)がJRA下半期のダート王決定戦・チャンピオンズカップを優勝、国内GI級レース6戦無敗で引退の花道を飾った 【Photo by Shuhei Okada】

 JRA下半期のダート王決定戦・第25回GIチャンピオンズカップが12月1日、中京競馬場1800mダートで行われ、坂井瑠星騎手騎乗の1番人気レモンポップ(牡6=美浦・田中博厩舎、父レモンドロップキッド)が優勝。好スタートの逃げから後続の追撃を振り切り、国内GI級レース6連勝で引退レースの花道を飾った。良馬場の勝ちタイムは1分50秒1。

 川田将雅騎手が騎乗した2番人気ウィルソンテソーロ(牡5=美浦・小手川厩舎)が追い込んでハナ差の2着、さらに1馬身半差の3着にはライアン・ムーア騎手騎乗の9番人気ドゥラエレーデ(牡4=栗東・池添厩舎)が入り、1984年のグレード制導入後の平地GIでは史上初めてとなる1~3着までが昨年と同じという珍しい結果となった。

田中博調教師の葛藤「昨年がピーク、この状態を維持できるのか」

気力の部分で「衰え」を感じていたという田中博調教師(左から3人目)、それでも最後の頑張りを見せたレモンポップの走りに「感動しました」 【Photo by Shuhei Okada】

 最高の形で現役生活にピリオドを打ったレモンポップを迎える枠場では、田中博康調教師の目に光るものがあった。

「感謝の思いしかありません。特に今年は順調に行けていないという実感がありまして、弱音を吐いた時期もありました。馬に対して申し訳ないなという思いと、よく頑張ってくれたという喜びで着順が出る前から感動していました」

 昨年2月のフェブラリーステークス、同10月マイルチャンピオンシップ南部杯、同12月チャンピオンズカップと3連勝し、新ダート王者へと君臨したレモンポップ。今年も2月のサウジカップこそ結果は出なかったが、6月さきたま杯、10月マイルチャンピオンシップ南部杯を続けて制し、これで国内GI級は5連勝と変わらぬ強さを見せていた。だが、田中博調教師はこの1年、常に不安を抱いていたのだという。

「去年のチャンピオンズカップが最高の状態で、これがピークかなと思っていました。今年もそれを維持できるのかと厩舎としても考えていましたし、馬の良い時期というのは長くは続かないものですから」

 その懸念は、現実のものとして出てしまう。フィジカル面こそ変わりはなかったが、気力の部分で見え始めた衰え。調教の際にこれまでにはなかったネガティブな仕草を見せるようになっていた。そのため「このまま無事に引退して種牡馬へ」という話し合いを昨年のチャンピオンズカップ以降、オーナーサイドと繰り返していたとトレーナーは明かした。

ここ2走なかった最後の加速「これで差されたら仕方ない」

直線で突き放した加速は「ここ2戦なかったひと脚」、ウィルソンテソーロの猛追をハナ差振り切った 【Photo by Shuhei Okada】

 そうした中で見せた有終ラン。それはレモンポップの王者としてのプライド、底力を存分に見せつけるものだった。1枠2番から好スタートを決めると、迷わず「逃げ」の一手。主戦の坂井瑠星騎手が言う。

「レース前は自分が行くパターンと、ミトノオーが行くパターン、他の馬が行くパターンなどいくつかのプランを用意していましたが、一番良いパターンで行けましたね。最後のレースなので悔いがないようにこの馬の力を信じていきました。来るなら来いという気持ちで」

 ミトノオーが外から被せに来たが、これを敢然とはねのけて単騎逃げの形をつくると、鞍上では「去年と同じような雰囲気だな」と感じたという。そして1馬身ほどのリードを保ったまま迎えた最後の直線。レモンポップはここからもう一段階ギアを上げて加速し、後続との差を2馬身に広げて押し切り態勢に入った。

「去年よりも追い出した時の反応が良かったので『これならしのげる』と思いました。また、ここ2戦にはなかった最後のひと脚が今回はあったので、これで差されたら仕方ない。最後は馬の力だと思います」

 レモンポップ自身、まるでこれがラストレースと分かっているかのような、そんな正真正銘の最後のひと踏ん張りでハナ差の勝利をつかみ取った。

レモンポップが最後まで教え続けてくれた

レモンポップとともに国内GIを6連勝した坂井瑠星騎手は「その背中にいれて誇りに思います」と最高の相棒を称えた 【Photo by Shuhei Okada】

 これで国内GI級レースは6戦して無敗のまま引退。その中身もJRA・ダートGIを同一年に完全制覇、チャンピオンズカップ連覇などハイレベル。そしてデビューからキャリアを通算しても国内では16戦13勝・2着3回のパーフェクト連対と、とてつもない成績を残した。

「国内GIを6戦6勝、こんな馬はなかなかいないと思いますし歴史的なダートホース。その背中にいれたということを本当に誇りに思います。この2年弱、僕の中心にいた馬。引退した後も忘れることのない1頭になりました」と坂井騎手。

 そしてジョッキーと同様、いや、それ以上にレモンポップを大きな存在として受け止めているのが田中博調教師だ。ジョッキーから調教師に転身し、今年で開業7年目の38歳。現在、レーベンスティール、ローシャムパーク、ミッキーファイトら重賞ホースをはじめ、2歳馬からも来春のクラシックを意識できる好素材がズラリと揃う気鋭の厩舎として注目を集めているが、初のJRA重賞、GI制覇はともにこのレモンポップがもたらしてくれたものだった。いわば日の出の勢いを見せている今の田中博厩舎の礎となったのがレモンポップであると言っていい。

「レモンポップにはたくさんのことを教えられてきました。本当、先生ですね。初めての重賞、GIタイトルもそうですし、色々なことを最後まで教え続けてくれました。去年チャンピオンズカップでもそう思ったのですが、今回はそれをさらに上回る教え、学びがあったと思います。やはり、諦めてはいけないと」

4、5年後には『レモン』と名のついたお尻の立派な子たちが……

早くて4年後、レモンポップの産駒たちがデビューする日が楽しみだ 【Photo by Shuhei Okada】

 そんな先生に向けて、生徒である田中博調教師が贈る言葉は「本当にお疲れさま。ありがとう」。今後、レモンポップは北海道日高町のダーレージャパンスタリオンコンプレックスで種牡馬入り。レース後に実施された引退式ではダーレー・ジャパン株式会社の福田洋行取締役が「4年、5年後には馬名に『レモン』とついたお尻の立派な可愛い産駒たちがたくさん競馬場で、重賞で、GIで賑わせてくれると思います」と、種牡馬としての活躍にも大きな期待を寄せるコメントを残した。

 これからJRA、地方、そして海外とますます活性化を迎えるだろうダート戦線の中で、レモンポップは父としてもまばゆい輝きを放ってみせるか。レモンポップが果たせなかった海外GI制覇も含めて、父を超える産駒の登場が今から楽しみでならない。(取材・文:森永淳洋)
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