元オリックス・モヤは大活躍。台鋼ホークスの1年目は?
日本の野球文化の優れた部分をチームに取り入れていきたいと語る洪一中監督、「お手本役」としての元NPBの王柏融、呉念庭の二人の働きにも満足感を示した 【©台鋼雄鷹球団】
台鋼ホークスの劉東洋GMは、日本留学経験をもち、台湾プロ野球を運営するCPBLの職員時代には、日本球界の各方面とのパイプを築いた台湾球界きっての「日本通」だ。GM就任直後から、日本スタイルを取り入れたチームづくりをすることを明言していた。
そして、劉GMが三顧の礼で迎えた洪一中監督も、現役時代に複数の日本人指導者の元でプレーし、日本野球、日本の野球文化の精神を高く評価する指導者だ。
前回の記事で紹介した通り、台鋼には日本人選手のほか、台湾人、外国人を問わず、元NPBを中心に日本球界出身者の多さが際立っているが、コーチ陣にも元日本球界関係者が多い。現在、一軍の投手統括コーチを横田久則氏、一軍のトレーニングディレクターコーチを里隆文氏、二軍の投手アシスタントコーチを福永春吾氏が務めているほか、一軍打撃コーチはかつて読売ジャイアンツでもプレーしたルイス・デロスサントス氏が務める。侍ジャパンの井端弘和監督、吉見一起投手コーチも、客員コーチをつとめた。
洪一中監督
洪一中監督(以下、洪):ここまでの戦いぶりについては、許容できる範囲内だと思っています。我々はトレードを含め、さまざまな方法で、経験ある中堅の選手たちを補強してきました。なぜなら、彼らを獲得することで、経験の浅い新人や若手選手を二軍で鍛える時間をつくることができると考えたからです。技術的にも未熟で、かつストレス耐性も足りない若手をいきなり一軍で起用するべきではないですからね。実際、一軍参入までに我々が与えられた時間は短く、あっという間でした。後期シーズンに入り、一部の若手選手が頑張っているので、こうした方法は間違えではなかった、と思っています。
――今、若手に関するお話しが出ましたが、台鋼の選手について基礎知識のない日本の読者の皆さんに向け、現時点で洪監督が特に満足されている若手選手を、何人か挙げていただいてもよろしいでしょうか。
洪:野手ですと、王博玄や曽子祐。投手では陳柏清、伍祐城、そして黄群ですね。彼らは、目に見えて成長が感じられます。前期シーズン、特に若手投手陣は皆、ピンチを迎えるとこわごわ投げていましたが、今は随分落ち着いてきて、彼らの成長、変化を感じています。
――スティーブン・モヤ選手が大活躍を見せています。監督は、活躍のキーポイントは何だと思われますか。
洪:第一に、彼自身がすばらしい打者であることはもちろんですが、彼は台湾の前に、NPBでのプレー経験があります。アジアの野球を経験していること、そして、ご存知の通り、日本の投手のレベルは台湾よりも高いですから、台湾の投手にアジャストしやすいという点はあると思います。そして、もう一点、モヤ自身も日台のレベルの差を肌で感じているからこそ、より自信をもってプレーできているという部分もあるかもしれません。
――日本のファンが関心をもっている台鋼ホークスの選手といいますと、やはり、王柏融選手と呉念庭選手の2人だと思います。彼らの貢献についてどのようにお考えですか。(※インタビューは呉念庭選手の負傷離脱前に実施)。
洪:まず、私達のチームは、他球団に比べて、より積極的に日本野球の文化を取り入れています。日本人指導者、日本人選手のほか、NPBでプレーをした王柏融と呉念庭、NPB経験者ではモヤもその一人ですよね。私が、王柏融と呉念庭の二人に求めていることは、彼らが台湾に戻ってきて、どれだけすばらしい成績を残してくれるか、ということではないんです。それよりも、日本野球の緻密さや、練習に対する真摯な姿勢といったものを、台鋼というチームに伝えてほしいと思っています。そういった部分で、ここまでの彼らの「働き」には満足していますね。二人は少しでも調子を落とすと、すぐに特打をして調整しています。そうした姿を若い選手たちは見ています。いわば、彼らは若手選手たちの「お手本役」なんです。
我々、台鋼ホークスは新しいチームなので、選手たちが自発的に、熱心に練習に取り組む、そんなムードを「文化」として植え付けたいんです。誤解しないでいただきたいのは「日本スタイルはすばらしくて、アメリカンスタイルは悪い」と言う事ではないんです。アメリカは個人練習、日本はチーム練習に時間を割くことが多いと言われ、台湾でも指導者によって見方は異なります。ただ、私個人としては、アメリカとは文化も選手の体格も大きく異なるなか、台湾の選手にとっては、同じアジアの日本式がよりふさわしい、と考えています。
若い投手の育成にやりがいを感じている、と語る横田久則一軍投手統括コーチ 【©台鋼雄鷹球団】
GM就任以来、投手コーチに日本人指導者を招聘したいと考えていた劉東洋GMは、埼玉西武で二軍監督、一軍投手コーチ、ファーム・育成グループディレクターを務めるなど、選手育成において豊かな経験をもち、また、台湾野球のレベルや課題を知り、台湾人選手とのコミュニケーション方法や指導法も心得ている得難い人材と高く評価、白羽の矢を立てた。横田コーチは育成だけでなく、外国人投手の獲得にも関わっている。
横田久則一軍投手統括コーチ
横田久則一軍投手統括コーチ(以下、横田):うーん、まあ正直言ってしまうと、厳しい状況ではありますね。台湾は往々にしてそうなんですけれど、外国人に頼ることが多いなか、なるべく台湾人のピッチャーを育てながら勝っていくということを目指しているんですけれども……。育った選手もいれば、なかなか、そうはなっていない選手もいる、というところです。
――左腕の陳柏清はどうですか。
横田:そうですね。ちょっと良くはなってきてはいますけど、彼なんかは、もっと伸びてきてほしいですよね。あと、伍祐城については、後ろに配置換えしながらチーム全体のバランスをとっているところです。黄群ですか? 彼には期待していますし、順調に成長してくれていると思います。新しいチームなので、選手を育成しながら、試合にも勝っていかなければならないという難しさはありますね。
――コーチ就任直後にお話をうかがった際、若手選手の育成においては、怪我に気をつけながら、育てていくという方針を挙げていらっしゃいましたが、非常に大変なことだと思います。その上で、日頃、若い選手には、どのようなアドバイスをされていますか。
横田:確かに難しいですが、怪我が一番、選手の成長を妨げると思っていますのでね。幸いにも結果として、けが人は一人だけで済んでいますが……。僕からのアドバイスとしては、「何が足りなくて、何をしなければいけないのか」ということを、本人達にわかるように明確に伝える、そういった部分は気をつけていますね。要するに、台湾プロ野球の一軍で戦っていく上で、一体どのレベルまでいけばいいのか、何が必要なのか、その事を明確に伝えています。
――エクスパンションで参入し、去年は二軍公式戦を戦っていたチームが、今年は一軍公式戦を戦うという、台湾プロ野球の歴史においても稀なケースなわけですが、いかがでしょうか。
横田:そうですね。だからこそ、指導者としてのやりがいは、すごく感じていますよね。
――主力に目を向けますと、統一から移籍してきた左腕の江承諺がローテーションの軸を守っています。また、故障前は小野寺賢人も安定した投球内容をみせていました。世界的に投手の球速が飛躍的に伸びている現代、二人とも球速で勝負するタイプではありませんが、勝てる「ピッチング」とは何でしょうか。
横田:彼ら二人に共通するのはコントロールですよね。というか、コントロールというのは大前提で、正確に言うとストライクを取るという意味のコントロールではないんです。そうです、コマンドです。彼ら二人はコマンドを持っていますよね。そこができるからこそ、あの数字が出ているなっていう。コマンドの部分が及ばない選手が多いので、そして、残念ながら二軍だと、まだコントロールさえままならないレベルの選手もたくさんいます。そのへんのところを、「一体、今、自分はどこにいるのか、何を求めないといけないのか」と理解させないといけません。江承諺と小野寺はコマンドの部分がしっかりある投手。だから、スピードはなくても「ピッチング」ができる。その事を証明をしてくれている、最たる例の二人だと思っています。
――彼らは、若手投手たちに刺激を与えていますか。
横田:うーん、なぜ、あれで抑えられるのかということを、まだ若い彼らは理解していないですかね……。それを口でいうよりも、身をもって体験してもらわないといけないのでね。今の時代ですから、皆、速い球を求めるのは当然わかるんですけれど、もちろん、遅いよりは速いほうがいい。でも、コマンド部分がないことには通用しないよ、ってことなんですよね。
――吉田一将投手獲得の決め手について。横田コーチは、どのような期待をされていますか。
横田:今年に関しては、抑えとして起用していたレイミン・グドゥアンの安定感がなくて、後ろが厳しいなってところがあったので獲得しました。正直言うと、上位を狙うことを考えるなら、外国人は先発で使いたいという考えはあるのですが……。今、チームが成長過程の段階で、勝てるゲームを落としてしまうと中継ぎ陣も崩れてしまうので、そういった意味で吉田にはクローザーをやってもらいたい、そう期待しています。
――台鋼ホークスは、日本球界出身の指導者、選手も多く、親しみを感じる日本のファンは多いと思います。日本のファンへのメッセージをお願いします。
横田:新しいチームである台鋼ホークスが出来て、6球団というキリのいい偶数になったところで、まずは台湾のプロ野球が盛り上がってくれて、それに波及して、日本にいろんな意味で届いていくっていうのは私の夢でもあります。そして、日台の交流の中で、日本人コーチ、日本人選手の活躍によって、さらには、韓国も含めてアジアの交流を図って、アジア野球のさらなる発展につなげていきたいですよね。
――台鋼ホークスのピッチャーが、プレミア12やWBC予選の台湾代表に選ばれることを期待しています。
横田:はい、そうなってくれると嬉しいですけどね。僕は20数年前に台湾でプレーさせてもらい、いろいろ経験させてもらったんで、そういった意味では、恩返しをしながら、日本と台湾のいいものを融合させていきたいな、と思っています。
文:駒田 英
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ