【ママさんバレーボール】白いボールを追いかけて④福島編 第36回全国ママさんバレーボールいそじ大会 トス1本に込めるセッターたちの思い

チーム・協会

優勝したマックス(滋賀)の大黒柱が田代さん 【プロフォートサニー】

55歳以上の24チームが参加

 標高500メートル超の空気が美味しい。磐梯山のふもとに湖を抱く高原に、息をするようにバレーボールをする女性たちが集まった。
 55歳以上だからもう若くはないが、老け込む歳でもない。そんな境目で白いボールを操るセッターが渋く光って見えた。いぶし銀と言ってはありきたりだが、トスの1本1本に人生経験が宿るようにも映る。何十万回とトスを上げ続けてきた彼女たちは、どんな思いで白いボールを仲間に託しているのだろう。
 50代のママさんバレーボーラーが覇を競う「いそじ大会」も36回目。年々元気になる選手たちに即して出場資格を55歳以上に改めた大会は、北は岩手から南は熊本まで24チームが参加して9月18日から3日間、福島県猪苗代町で開かれた。
 リーグ戦は3チームずつ8組に分かれて2試合を行い、1位チームがトーナメント戦に進出。そこから1回戦、準決勝と進んで最終日に決勝戦があった。センターコートに立ったのは兵庫県の神戸あじさいと滋賀県のマックスだ。

大会中に成長したという滋賀のマックスはレシーブ力が光った 【プロフォートサニー】

娘は女子バレー日本代表に成長

 神戸あじさいは1回戦で三重に第1セットを先行されながら、第2セットの選手交代で流れをつかんで逆転で準決勝進出。その流れのまま滋賀2を圧倒して決勝に進んだ。平均年齢は参加チーム中4番目に若い、勢いのあるチーム。姫野久子監督は「リードすると緩くなってしまうところがあるので、サーブカットがカギ」と話した。一方のマックスはグループ初戦で愛知に競り勝ち、トーナメントでも強打の熊本と粘りの岡山を接戦で下して勝ち上がった。清水信代監督が「がまんしてしのげた」と話した通り、白熱のラリーを全員のがんばりで制しての進出だ。
 先にペースを握ったのは、チャレンジャー精神で臨みたいと選手たちが話していたマックス。第1セットの序盤でリズムをつかみ、常に先行してゲームを進める。巧みなトスさばきでゲームメークをしていたのが、田代智美さん(61)だ。
 八幡商高時代は地元の高校総体で活躍。ママさんバレー参加は第2子までの子育てに区切りのついた28歳からで、末っ子の佳奈美さんを生後6カ月で体育館に連れていきながら練習した。白いボールをおもちゃ道具に育った佳奈美さんは長じて東レアローズなどで活躍、リオ五輪の女子バレー日本代表にもなった。
 とはいえ、ママさんに転向した最初のころは若気の何とかで、敵も味方も6人制に比べて「なんて人が多いの」と、いま一つ身が入らない。人数が多いからこそ、そこを打ち破ることの楽しさに目覚めたのは、体力が落ち始めた30代後半からという。「人数が多いほど、それを打ち破るために自分の技が活きることに気づきました」

ミスをしても笑顔で粘り

 キャプテンマークをつけてネット前に立ってコートに目を配り、長短のトスでリズムを生み出す。好みはバックトスだが、ゲームを作るだけでなく選手全員が均等にプレーに参加できるようにも気を使う。「あまり長引くとみんな、ばてるので」と、ペースを握るや畳みかけるように速攻を繰り出した。
 決勝も立ち上がりに相手のブロックを見て速攻中心の組み立てが有効と即断。中央に引きつけてオープンを狙う戦略を貫いた。第2セットは相手の粘りにあって落としたが、自分たちのミスと割り切り、声掛けをして立て直す。「練習試合では一度崩れるとそのままずるずるいっていたのが、『ミスはしかたないから笑顔でやろう』と言い合って、粘れるようになった。大会中にチームが成長しました」
 田代さん自身が試合中に足指が吊るアクシデントもあったが、第3セットは勝負どころで連続ブロックにサービスポイントと全員の力で突き放した。最後はこの日、最も冴えた速攻を決めてゲームセット。「まさかの決勝で、まさかの全国優勝です」と笑顔で大会を終えた。

サーブも強力だった神戸あじさいのセッター林さん 【プロフォートサニー】

驚異的な追い上げで名勝負に

 惜敗した神戸あじさいのセッター林美紀さん(59)にとっても、毎試合、第1セットの序盤が勝負だ。全国大会は相手の情報がないので、どのアタッカーが相手との相性がいいかを、最初の5点くらいの攻防で把握しなければならない。「セッターの役目は、みんなに気持ちよくプレーしてもらうこと。できるだけ均等にという意識はありますが、勝負どころでは『今日はここがいけそう』という感覚でトスを上げることも多いですね」
 試合開始直後、中塚由記子さんのセミが決まり先制すると狙いどころを絞った。第1セットは落としたが、第2セットは中盤に追い上げて競り合いに持ち込む。一度は流れをぐっと引き寄せたのが、セッターの意地だった。3本連続で中塚さんに上げて14-15と1点差に迫り、その勢いのまま連続サーブポイントで逆転した。
 第3セットは立ち上がりにレシーブが乱れ、一時は6点差でマッチポイントを握られたが、5ポイント連続で1点差まで追い上げる驚異的な粘り。最後は速攻に屈したが、いそじ大会史上に残る名勝負を演出した。
「自分たちのミスで流れを手離してしまい、相手のレシーブがよくて突き放せませんでした。第2セットで流れが来たと思ったのですが…」
 粘り強さが、この50代の大会の特徴と言われる。あきらめない精神的な足腰こそベテランの味であり、若者のように簡単に心が折れない。この日の第3セットはまさにあきらめない気持ちのぶつかり合い。これだからこそ、シニア競技はおもしろい。

追い上げ実らず準優勝の神戸あじさい 【プロフォートサニー】

クールに強気にトスを上げ続けた浦谷さん 【プロフォートサニー】

クイックの難しさ

 マックスとの滋賀県同士の決勝を目前にしながら準決勝で神戸あじさいに敗れた滋賀2の竜王クラブにも、クールで熱いセッターがいた。
 背番号12の浦谷由紀さん(56)は、地区内で普段はライバルの攻撃陣を操る楽しさを覚えながら、1セットも失わずにトーナメント進出。得意技は左右のインを使う速い攻め。勝負どころではオープンを使って得点を重ねた。
「プレッシャーはあるけど、楽しみたい。難しいのはクイックの出しどころ。決まれば流れをつかめるけど、外すと相手に流れを渡してしまうので、勝ち急ぐ自分を戒めています。時には『ツー』もやりたくなるのですが」
 自身は全国ママさんバレーボール大会、いそじ大会と全国舞台の経験があるが、地区の9チームから集まった選手の中には初舞台を踏む未経験者も多い。頻繁にはない経験をいい思い出にしてあげたいとコート全体に目を配った。
 準決勝の神戸あじさい戦では序盤にサーブで崩されてペースを手渡した。不安定なレシーブを受けての懸命なトスさばきが続く。わずか5点で失った第1セットに続いて第2セットもペースを握りきれないまま0-2で苦杯。「勝たないと楽しくない」のが信条だが、それでも試合後には茫然とするチームメートに声をかけて労った。
 強打が自慢のアタッカーもさすがにジャンプ力が落ちてくる年代だ。全員バレーの力が問われる50代以上は、セッターの存在感が強まる。個々のタイミングを測りながら、気持ちよく決めてもらう。気配を消しながら、チームに目配りする。でもほんとうは強気。
 そんな気遣いの人が、全国にあるチームの数だけいる。
取材・文/伊東武彦

◇第36回全国ママさんバレーボールいそじ大会 準決勝、決勝結果

決勝 滋賀1(マックス)2(21-15、16-21、21-19)1兵庫(神戸あじさい)
準決勝 滋賀1(マックス)2(21-18、21-18)0岡山(ももおかやま)
準決勝 兵庫(神戸あじさい)2(21-5、21-16)0滋賀2(竜王クラブ)
※その他の結果は下記のリンクより
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著者プロフィール

バレーボールを通して会員の心身の健全な発展と、その輪の広がりを願いあわせて、社会的価値のあるものとして生涯スポーツに導くことを目的としてガイドラインの設定と各種大会の運営を行っています。

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