【スキー】「ノルディック複合の環境が日本一の場所で、できるだけ多く選手を集め、できるだけ長く練習を」――河野孝典競技本部長に聞く「なかっぱら寮」の実現まで
当時の日本代表チームのヘッドコーチとして、寮の構想から実現までを担った河野孝典競技本部長に話を聞きました。
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寮の構想から実現までの道のり
「ノルディック複合の環境が日本で一番いいところで、できるだけ長くいい練習をすれば選手が強くなる。できるだけ多くの選手を白馬に集めて、指導者のもとで日常的な活動をしてみたらどうか」
この思いを白馬村の役場やスキークラブ、全日本スキー連盟の会議などでプレゼンし、地元の不動産会社を紹介してもらったことが始まりだったといいます。
「最初はそんなに大々的にやるつもりはなく、アパート2部屋くらいを考えていた。そんなに多くの選手が来ると思っていなかった」
物件を見繕っていた時期に、コロナ禍による宿泊施設を使った強化活動に制限が加わったことが重なり、より広い物件を探したところ、民宿だったいまの物件に決定。2020年初夏のことで、その2か月後にはさっそく「エリートアカデミー」の試験的実施として、男女の若手6人を招集して最初の寮生活がスタートしました。
ドイツの名門アカデミーから得たアイデア
Skiinternat Furtwangenはノルディック複合、ジャンプ、クロスカントリー、バイアスロンの選手育成機関で、ドイツのスキー連盟やオリンピックスポーツ連盟、地元自治体、そして一般企業などのサポートにより運営。「学業と競技に最高の環境」を掲げ、14歳から19歳くらいまでの約30人が寮生活を送っています。
1984年創立で、複合ではトリノ五輪個人金メダルのゲオルク・ヘティッヒ、平昌五輪で個人銀と団体金を獲得し昨季引退したファビアン・リースレ、ジャンプでは2000年前後にドイツでジャンプブームを巻き起こした2季連続ワールドカップ総合優勝のマーティン・シュミット、史上初のジャンプ週間完全優勝を成し遂げたスヴェン・ハンナヴァルトと、数多くの世界トップ選手を輩出した名門アカデミーです。
強豪国のシステムからもアイデアを得て構想から2年、実現に至ったものの当時はコロナ禍の真っただ中。寮の規則の他に感染予防対策も策定しなければならず、その点は苦労したと話します。
ただ、コロナ禍という特殊な環境は必ずしもマイナスだったわけではなく、「大学がオンライン授業、オンデマンド授業になり、長く白馬にいる選手もいた。本来なら首都圏の学生は週末だけ白馬に来る。最初に描いたような、伸び盛りの選手たちがいい環境で長く練習すればどうなるかという結果が出たと思う」と、選手が長く滞在できたからこそ得られたものがあったと明かしました。
共同生活を通し日々チームビルディング
「各自バラバラで作ると効率が悪いが、ある時『今日は俺が作るよ』となった。すると『次は私たちが作るよ』となり、選手、スタッフが一緒になって他の人のために作るようになった。料理が得意でない人は片付けをして。(寮に滞在する)選手、スタッフが入れ替わっても、システムのようにいつの間にか機能するようになった。食事を作り、食べて、片付けるという一連の作業が、日々チームビルディングをしているようだった」
円滑な寮運営の秘訣の一つに、即席で協力体制を築けるということがありそうです。
チーム一丸体制で忘れてはならないのがコーチ陣の頑張り。コーチが必ず帯同することがルールとなっており、交代で寮に寝泊まりしながら選手の指導をしています。
「いい環境でいい指導を長くやればいい結果が出るだろうというのが寮設置の背景だったので、自分たちスタッフも長くいる必要があった」と話す河野本部長、自身も2020年から3度の夏は「ほぼほぼ(寮に)いた」と振り返ります。
今年の夏も久保貴寛ヘッドコーチ、北村隆コーチ、鷲沢徹コーチらが寮に長期滞在中。家族と離れての寮生活となると、勝手におせっかいな心配もしてしまいそうですが、北村コーチは「少しくらい離れている方が上手くいくんですよ(笑)」。この頼もしい言葉に「なかっぱら寮」は支えられているのです。
本格的なシーズンが始まる11月まで、明日のキング・オブ・スキーを目指し若い選手たちが白馬で練習、そして学業との両立に励んでいます。
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