車いすテニス女子シングルス初優勝の上地結衣、女王デフロートとの12年越しの成長物語
【photo by Hiroyuki Nakamura】
大観衆で埋まるスタッド・ローラン・ギャロスのセンターコート「コート・フィリップ・シャトリエ」で、6日に行われた車いすテニス女子シングルス決勝。第2シードの上地結衣が、第1シードのディーデ・デフロート(オランダ)を4-6、6-3、6-4で破り、この種目で日本女子初の金メダルを手にした。
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勝利した瞬間の上地 【photo by Hiroyuki Nakamura】
年下デフロートの成長を追い続けて
パリ2024パラリンピックは、上地にとって2012年のロンドン大会から続く4度目の挑戦であり、2016年のリオ大会から続くデフロートとの戦いでもあった。そしてついに、上地がシングルスでデフロートに勝利した。
年下のデフロートとの「ストーリーの始まり」(上地)は、リオ大会の準決勝だ。銅メダルだった上地も、敗れて4位にとどまったデフロートも、次に目指したのはパラリンピックの金メダルだった。
決勝にふさわしい戦いを見せた 【photo by Hiroyuki Nakamura】
デフロートは、その後も成長を続け、2018年から女子シングルスで世界ランキング1位に君臨している。
だが、東京大会で一度はデフロートに追い越されながらも、巻き返しを誓ってきた上地も負けてはいない。「彼女との試合はいつも特別。彼女がいるからこそ、自分もさらに高みを目指せる」と成長を実感してきた。
加えて、パリ大会の会場は上地がグランドスラム(四大大会)のシングルスで最も多く勝利を挙げている全仏オープンと同じスタッド・ローラン・ギャロス。特別な地とあって気持ちが乗っていたのは間違いないだろう。
上地と相性の良いスタッド・ローラン・ギャロスのクレーコート 【photo by Hiroyuki Nakamura】
この大会は、赤土のスタッド・ローラン・ギャロスとは異なるサーフェス(コートの表面)の試合ではあったが、上地は「あの試合から得られたのは、サーブのコース配分や相手に自分の立ち位置を変えているところを見せたこと。それと、以前は彼女のバックハンドを狙っていたが、この大会からフォアハンドを狙うように意識を変えたこと」と戦術面の変化を説明した。
“じゃじゃ馬”仕様で、いざパリへ
この1年間は座面の位置を前・中・後ろと試行錯誤する日々。日本を出発する間際に決めたのが、British Openで勝ったときのセッティングだった。いすの後方にセットすることで回転性が上がるが、操作は難しい。
「以前のセッティングのほうが構えて打てる安心感はあるけど、結果が出てない。逆に、結果が出ているけど、じゃじゃ馬の車いす。自分がコントロールしきれるか不安が残るセッティング。どちらを取るかを決めて、自分が選んだセッティングを信じて乗りこなすと言って日本を出発した」
試合を重ねるごとにチェアワーク(車いすの操作技術)も良くなっていった 【photo by Hiroyuki Nakamura】
最強のライバルと同じ時代に生まれた幸せ
試合が終わると、感動的な光景がセンターコートで繰り広げられた。ベースライン上で涙を流して動けずにいた上地のところへ、敗れたデフロートがネットの向こうから来て「おめでとう。良いプレーだった。強かった」と上地を祝福した。悔しい自分の感情を押し殺して最初に勝者を祝福するデフロートの行動は、対戦相手へのリスペクトであふれていた。
「最後は本当にフォルトだったかどうかがわからず、まずは審判を見た。試合が終わったとわかったときは、もう動けなかった。ネットに寄りたかったけど、動けなかった。涙で前も見えなかった。彼女がこちらに来てくれて『ありがとう』という気持ちです」
試合後、しっかりと握手をする2人 【photo by Hiroyuki Nakamura】
「シングルスでもダブルスでも何度も対戦してきて、いつも何か新しいものを人々に見せることができている。同世代に彼女がいて幸せ。そして、パラリンピックはいつも良い選手、強い選手になる良い機会を与えてくれる。次のレベルに引き上げてくれる場所です」
新女王は歓びを噛みしめながら、好敵手とのストーリーを紡ぎ続けて切り拓く次章を思い描いていた。
強豪オランダ勢を倒して表彰台の真ん中に上がった 【photo by Hiroyuki Nakamura】
text by Yumiko Yanai
photo by Hiroyuki Nakamura
※本記事はパラサポWEBに2024年9月に掲載されたものです。
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