ベトナムスクール生が日本へやってくる! YOUは何しに川崎へ?

川崎フロンターレ
チーム・協会

【©KAWASAKI FRONTALE】

2021年12月よりベトナム社会主義共和国(以下:ベトナム)の南部に位置するビンズン省のビンズン新都市でサッカースクール事業を展開しているフロンターレ。昨年、日本とベトナムの外交関係樹立50周年記念事業として行われたベトナムスクール生による日本遠征を今年も6月28日(金)から7月3日(水)の日程で実施する。そこで今回は日本遠征に帯同する現地スタッフの吉田健太郎コーチとナム通訳兼アシスタントコーチに「なぜベトナムスクールで働くようになったの?」という素朴な質問から「どんな日本遠征にしたいか」などさまざまなお話を聞いた。

フロンターレベトナムスクールの独自性

スクール会場となっている「SORA gardens Links」。フットサルコート4面分のうち、2面が屋根に覆われている 【© KAWASAKI FRONTALE】

「Xin chào!(シンチャオ)」

朝なら「おはよう!」 昼なら「こんにちは!」 夜なら「こんばんは!」。お別れするときに「さようなら」と使えるベトナム語の挨拶である。この言葉からほとんどのコミュニケーションが生まれ、ベトナムスクールも地元の方々と距離を縮めながら多くの方々に認知されていった。

ベトナムスクールは2021年の開校から毎週約200名の5歳から15歳までのスクール生が参加し、その数字を維持して今年で4年目。ベトナムでは小学校から留年の制度があり、学業に重きを置く文化があるため、習い事が長続きするケースは珍しい。そのなかでも約200名というスクール生を維持できているのは、日本の文化やサッカーの技術を日本人コーチから学べるという独自性があるからこそだろう。

さらに特筆すべきは国内トップクラスの施設。ベトナムスクールを共同運営するベカメックス東急による複合施設「SORA gardens Links」が昨年6月に開業。施設内にはベトナム南部初の本格的な屋根付き人工芝フットサル場が整備されており、5月から10月の雨季には毎日のように夕方から雨が降るビンズンでも濡れずにサッカーができるトップクラスの環境が整っているのも魅力の1つだ。

スクールを支える2人の現地スタッフ

ベトナムスクールの様子 【©KAWASAKI FRONTALE】

そんなベトナムスクールの指導者である吉田健太郎コーチは「サッカーを楽しんでほしい」という思いを込めてスクール生と接している。彼はなぜベトナムスクールで働くようになったのだろうか──。そのまま吉田に質問をぶつけてみると「長くなりますよ。でも簡潔に話します」と笑いながら教えてくれた。

吉田は高校卒業後、新潟県にあるJAPANサッカーカレッジというサッカー専門学校に進学。3年間、サッカーコーチに特化した学部で徹底的にコーチングを学んで卒業したのち、2012年からフロンターレのスクールコーチを務めた。もちろんフロンターレスクールでの指導は楽しかった。ただ、専門学校のインターンシップでシンガポールリーグに所属しているアルビレックス新潟シンガポールへ行ったときのことを忘れられない自分がいた。

「シンガポールにインターンシップで行ったときが初めての東南アジアでの指導だったのですが、環境面を含めて東南アジアでサッカーを教えるのがすごく楽しかったんです。だから、また東南アジアでやりたいなって」

ベトナムスクールでコーチを務める吉田健太郎さん 【© KAWASAKI FRONTALE】

そう思うのならばと、すぐ行動に移した吉田は2015年からタイのバンコクで6年間サッカーコーチとして活動。対象者はタイ人や欧米人で、もちろん日本語は通じない。どんな英語やタイ語を使えば伝わるのか試行錯誤をしながら指導者としてレベルアップしていった。そんなときにフロンターレから「ベトナムでスクールを開校することになり、東南アジアでの指導経験がある人を連れていきたいんだけど、どうかな?」というオファーが届くと、吉田は新たなチャレンジに快諾した。

「またフロンターレで働けるということが嬉しかったです。いざベトナムで指導をしてみると子どもたちは心を開いてくれたら仲良くなれるけど、シャイで心を開きにくい性格でした。でも、どんな国でも同じでサッカーは一緒にボールを蹴ると楽しくなるんですよ。現地の言葉は難しくてスラスラと喋ることはできないですが、ジェスチャーで仲良くなることもできます。言葉を使わなくてもボールを蹴る楽しさを知ってもらえるように。それが僕の大事にしていることでもあります」

言葉が通じなくても一緒にサッカーボールを蹴れば心は通じ合える。海外でコーチ業をしてきたからこそ如実に感じられるものだった。そのうえで吉田を支えるベトナム人のナム通訳兼アシスタントコーチがいるからこそ、より言語の壁がない指導ができているのだろう。

通訳兼アシスタントコーチを務めるナムさん 【© KAWASAKI FRONTALE】

そのナムは堪能な日本語とオンライン取材にも関わらず感じ取れる温厚な性格で吉田も「ナムにはいつも助けられているんですよ」と信頼の言葉を口にする。ナムの過去に遡るとベトナムの大学を卒業してから福井県内の大学院へ日本語を勉強するために留学。卒業後は社会人として働くなど、8年間の日本在住経験がある。

「僕はベトナムにいたころから、日本語や日本の文化について学んで、日本で仕事をしたいと思っていました。その目標は叶って日本で仕事をできたのは、とてもいい経験になりました。それから妻と相談してベトナムに帰ってからはベカメックス東急で働くことになりました。でもベトナムスクールで働くまでサッカーに関わった仕事はしたことなかったし、指導者もしたことはなかったんです。もちろんサッカーは好きでゴールキーパーをやっていた経験はありますが」

ベトナムスクール開校にあたり、サッカーができて日本語を話せるスタッフをリサーチしているなかで、適任のナムにオファー。それ以来、吉田を含めた日本人スタッフのサポートをしている。

ナムさんが日本留学中に訪れた富山での思い出の写真 【© KAWASAKI FRONTALE】

「ナムが一番日本語を話せるし、言葉のサポートをしてもらって助かっています。現場では基本的に通訳と一緒に指導していますし、できることならいつも隣にいてほしい存在ですね。僕は基本的に英語で指導しているのですが、ナムは日本語も話せるし、的確に通訳をしてくれています。もしいなかったら…と考えると大変ですよ(笑)」(吉田)

話を聞いて分かるように吉田やナムだけではなく、日本人スタッフとベトナム人スタッフが協力し合えているからこそ、ベトナムスクールが成り立ち、フロンターレというブランドもベトナム国内で広まっているのだろう。

日本遠征を楽しめ!

昨年の麻生グラウンド訪問時の様子 【© KAWASAKI FRONTALE】

2年連続での実施が決定した日本遠征には吉田、ナムをはじめ、現地スタッフ6名とスクール生26名の合計32名が参加する。コンセプトは前回と同様に日本の文化を知ってもらうことだ。

ここで6月28日(金)から7月3日(水)まで滞在する遠征の主な内容を紹介したい。1つ目は川崎スクール、生田スクールとの合同練習。同年代のスクール生同士が国際交流できる機会になるため、お互いに刺激を受けられる時間となる。2つ目に末長事務所の近くに本社がある縁からベトナムスクールをサポートしている株式会社ミツトヨへの表敬訪問に足を運ぶ。「こういった会社が自分たちの活動を支えてもらっているんだ」と小学生年代で感じられるのは、貴重な経験である。3つ目はメインイベントと言っても過言ではない6月29日(土)にU等々力にて開催される広島戦の試合観戦。昨年もスクール生が目を輝かせていただけに、今年も興奮してくれるはずだ。

昨年のトップチーム試合観戦の様子 【© KAWASAKI FRONTALE】

「私たちのスクールのコンセプトは日本の文化、社会性、挨拶の大切さを伝えることです。その指導の一環として日本遠征を企画しています。フロンターレのスクール生との合同練習で日本は『こういうことを大事しているんだ』などを肌で感じながら学んでほしい狙いもあるし、フロンターレのトップチームのことも、もっと好きになってもらいたい。将来の目標としてフロンターレの選手になりたいという気持ちを少しでも持ってもらえれば嬉しいです」(吉田)

ナムも日本遠征への思いを続けて語ってくれた。

「僕は日本がゴミの落ちていない綺麗な街だということを知ってほしいなあ。あと電車を含めたさまざまな設備に優れている国でもあるので、いろんな勉強ができるんじゃないかなと思う。特にベトナムには電車がないし、バイク移動がほとんどだから電車に乗ったら興奮してくれるんじゃないかなと。基本的にはフロンターレのトップチームバスをお借りして移動する予定ですが、タイミングを見ながら公共交通機関を使えるようにしたいですね。個人としては指導者目線でフロンターレのコーチがどんな仕事をしているのかをしっかり学びたい気持ちもあります。とにかく日本には行くのは5年ぶりだから楽しみ。回らないお寿司屋さんに行きたいなあ」

最後は少し冗談気味にも話してくれたナム。対して吉田が「ダメですよ。回らないお寿司屋さんに行くと予算オーバーです(笑)」と言われて少しガッカリした様子のナムさんはなんだかかわいらしかった。

「気軽に交流をしていただけたら嬉しい」(吉田)

昨年はスクール生がGゾーンに 【© KAWASAKI FRONTALE】

サポーターの皆さんも広島戦当日はU等々力でベトナムスクール生を見かけることがあるだろう。もしかしたら街中でばったり会うことだってあるかもしれない。もし見かけたら声をかけたらスクール生もきっと喜んでくれるはず。

「今回初めて日本に来るスクール生も多いので、僕たちスタッフが少しでも日本の素晴らしさを伝えたい思いでいます。フロンターレサポーターはすごく温かい印象があり、どんな結果でもどんな内容だとしても最後は次に向けてのメッセージを送ってくれる存在だと認識しています。だから勝利に向かって一生懸命応援している姿を子どもたちに見てほしいです。そんなサポーターの皆さんに知っていただきたいのが、私たちのスクール生のなかにもフロンターレのことが好きな子、興味をもっている子がたくさんいるということ。だからスタジアムで見かけたら声をかけてください。英語であれば話せる子も多いので、気軽に交流をしていただけたら嬉しいです」(吉田)

ベトナムでもフロンターレのエンブレムを胸にサッカーをしている。そんな私たちの仲間が今回は日本へ、川崎へワクワクした思いでやってくる。なかにはフロンターレへの憧れを抱いている子もいる。だから声をかけて温かく迎え入れよう。冒頭でも記した挨拶を笑顔で。

「Xin chào!(シンチャオ)」と。

(取材:高澤真輝)
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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