【ラグビー/NTTリーグワン】この日のすべてを糧に。 横浜Eは来季、「次の景色」を目指す<東京SG vs 横浜E>
横浜キヤノンイーグルス 田村優選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】
東京SG 40–33 横浜E
果敢に勝ち越しトライを狙ったチャレンジ――。だが、ラグビーの神様は、気まぐれだった。
残り時間は2分あまり。左サイドでのアタックをしかけた横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)は、田村優が左を走る普久原琉へパスを送ったが、受け手になるはずだった普久原がまさかの転倒。田村の視界から普久原が消えると、東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)のターンオーバーが生まれ、最後は江見翔太のトライが決まった。勝ち越しのスコアを奪ったのは東京SG。さらにチェスリン・コルビのコンバージョンキックが決まると、33対40のスコアで無情にもノーサイドのホイッスルが鳴った。
33対33の状況で果敢にトライを狙った末の結末。会見に臨んだ沢木敬介監督は「負けたのは監督の責任。(田村)優を先頭に勝ち越しを狙いにいった結果」と選手たちをかばった。
埼玉パナソニックワイルドナイツを土壇場まで追い詰めたプレーオフトーナメント準決勝のダメージが残る横浜Eは、シーズンラストマッチで力の限りを尽くした。戦前、昨季の3位決定戦で記録していた2トライを上回るハットトリックを宣言していた松井千士は、“有言実行”の3トライ。また、この3位決定戦でリーグワン単独での最速50キャップに到達した小倉順平は、“独走トライ”で観衆を魅了した。
ところが、“独走トライ”の代償は大きく、直後に小倉は負傷交代。代わりにフルバックを務めたのが23歳の普久原だ。「後半から出る今までとは違って、とても緊張した」という普久原だったが、ときには局面を打開する強気のランも披露し、「持ち味を出せた」感触はあった。しかし、冒頭のワンプレーに泣いた普久原は「ああいうプレーがあると、最後に台無しになってしまう」とうなだれた。
ただ、緊急出場の形になった若武者の奮闘を、責める者は誰もいない。試合後のロッカールーム。沢木監督は選手たちにこう語りかけたという。
「君たちはベストなゲームをしてくれた。また来季、次の景色を見に行こう」
指揮官が言う“次の景色”とは、未踏の領域。リーグワンの頂点だ。
(郡司聡)
【©ジャパンラグビーリーグワン】
東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督
※総括はなく、質疑応答からスタート
――どのようなプランでゲームに臨んだのでしょうか?
「(先週の)プレーオフトーナメントセミファイナルはタフな敗戦で、しかも(3位決定戦までは)ショートウィーク。この試合に向けて、やれることはそう多くはなかったと思います。それよりも、やっぱり自分たちのプライドやクラブのスピリッツをしっかりと見せる。そういう部分にフォーカスしてこの1週間を準備してきました。
もちろん、プランもあるにはありますが、選手たちが堀越(康介)を中心として、今季やってきたことを最後に出し切ろうと。それが最後に逆転する結果につながったと思います。あの江見(翔太)の逆転トライはたぶん奇跡だと思うんですよ。その前に江見と同期の(中村)亮土がインゴールで押えてトライを狙ったシーン、あれが布石というかお膳立てになったのかなと。本当にそうやって一生懸命に必死にやるという部分が、最後の江見のトライにつながったのかなと思います」
――今日の結果を受け、来季に向けてどういった準備をしていきたいですか?
「もうちょっと経ってから考えます(笑)。ただ、今日は山本敦輝という選手がデビューしました。もちろん、今季でジャージーを脱ぐ選手もいます。彼らがこれまで東京SGのスピリッツを見せてくれて、新しい選手はそのジャージーを着て、東京SGのスピリッツが受け継がれていくのだと思います。いい部分はしっかり引き継ぎながら、今季出た課題をどう来季に克服していくのかをしっかり考えたいと思います」
東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン
※総括はなく、質疑応答からスタート
――前半は思うような展開ではなかったと思います。ハーフタイムにはどんな言葉を掛けましたか?
「僕からは、『もうあと40分しかないから、もう1回自分たちのプランに戻って、信じて最後までやり切ろう。絶対あきらめないで、1個でもいいプレーを必死に頑張ろう』と言いました」
――後半、あともう少しで横浜Eの壁を破れないシーンが続きました。何を考えながらのプレーだったでしょうか?
「我慢比べだと思っていました。でも、プレッシャーがあるのは横浜Eさんのほうなので、われわれは『スコアを取るまで我慢強くプレーし続けよう』とずっと言っていました。また、今週は『絶対にスクラムペナルティを取るぞ」『モール(からトライ)を絶対に取る』とフォワード陣でずっと言ってきたので、最終的にスクラムトライの形で取れたのはすごく良かったです。
ひさびさの勝利なので、本当に良かったと思います。もちろん、今日の試合も課題はたくさんあると思いますが、未来につながるゲームになったかなと。勝ち切れたことはすごく良かったと思います」
【©ジャパンラグビーリーグワン】
沢木敬介監督
※総括はなく、質疑応答からスタート
――試合を振り返ってください。
「最後はドリフみたいな終わり方をしたのですが…、ドリフと言っても昭和の人にしか分からないか(笑)。
負けたのは自分の責任ですし、チームを勝たせられなかったのも監督の責任です。選手たちが同点ではなく、トライを取りにいったことが大事だと思います。時間を使って延長に持ち込むのは横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)のラグビーではありません。もちろん負けたのは悔しいですが、最後までゲームキャプテンの(田村)優を先頭に勝ち越しを狙いにいった結果です。最後まで自分たちのスタイルを信じて戦い抜いてくれたことは感謝しています」
――今季はファフ・デクラーク選手やジェシー・クリエル選手ら、長期離脱者が出たり、『THE CROSS-BORDER RUGBY2024』の試合が組まれるなど、従来とは違うシーズンになったと思います。今季のチームの成長曲線はどうだったのでしょうか?
「埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)や東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)のように、常に優勝争いをしているようなチームではないので、何事にもチャレンジする文化を作らなければならないと思っています。そういう意味で言うと、けが人も出ましたが、ギリギリのところを耐えて今季もトップ4に入れたことはチームの成長の証です。(プレーオフトーナメント準決勝の)埼玉WK戦でダメージは残りましたが、そんなことは関係なく、前半から自分たちのラグビーでスコアを取りにいったパッションは見ている方々には伝わったと思います。ただ、勝ち切るためのプラスワンを見せていかなければなりません。経験値も大事ですが、若い選手もいるし、そういう選手たちがラグビーへの向き合い方を見つめ直す良い機会になったでしょう。簡単に勝てる世界ではないということです」
――田村選手をゲームキャプテンに据えた意図は何でしょうか?
「優はこう見えて、かなり練習をします。『こう見えて』と言っちゃ失礼か(笑)。休みの日もグラウンドに来てボールを蹴るし、そういうことをやっているからこそ大事な場面でパフォーマンスを発揮できます。それをチームメートも見ています。プロフェッショナルの覚悟を持った取り組みを若手たちは勉強していかないと。プロ選手が多くなっていますが、プロになったあと、成長するために何が必要か。それに気付くのが遅い選手は、ラグビー人生が終わっていくのは早いです。コーチングスタッフが何かを言うのではなく、先輩を見て学ぶべきことだと思います。そういう意味で言うと、優の練習している姿を見ているし、分かっているからこそ、少々言葉遣いの悪いことを言ってもみんながついていくでしょう。(田村に向かって)褒め過ぎ?」
「(田村がそれに応えて)初めて褒められました(笑)」
――東京SGの逆転トライにつながってしまった、終了間際のボールロストのシーンを振り返ってください。
「“たられば”を言っても仕方がないですが、あそこでトライを狙いにいったことで普久原(琉)も学ぶでしょうし、プロとして良い勉強になったでしょう。人間なのでミスはある。でも(そこから学んで)成長をしてくれないと。厳しく指導します」
横浜キヤノンイーグルス
田村優ゲームキャプテン
※総括はなく、質疑応答からスタート
――準決勝の敗戦のダメージが残っている中での試合だったと思います。
「体はキツいですし、目標に届かなかった精神的ダメージはありましたが、試合前のミーティングでは退団選手を勝って送り出すことと、それと同時に来季も試合に出られる保証はされていない中でも来季に何か良い形を残そうということを伝えました。勝ち負けがある中で価値ある負けはないと思いますが、このプレーオフトーナメント2試合は、“価値ある負け”と言ってもいいのではないかと思っています」
――選手の立場で今季の総括をお願いします。
「(沢木)敬介さんが言っていたように、学びのあるシーズンでした。いろいろなアクシデントがあった中でも、プレーオフトーナメントの舞台に来て、勝つか負けるかの試合を2試合連続で経験できたことは、間違いなくチームの財産です。負けはしましたが、チームの成長ぶりを考えると、昨季の3位よりも、うれしさはあるかもしれません。横浜Eは優勝するために必要な段階を踏んでいると思います。ただ来季はちょっとの気の緩みで入替戦まで行く可能性はありますが、またトップ4に入りたいです。その力は間違いなくつけています」
――ゲームキャプテンに指名されて、選手たちに与えられたものはありましたか?
「1週間の準備は変えていません。自分の準備をきっちりして臨み、リラックスしてプレーすることを心掛けました。いつもどおりです。ただ、少しギアは上げました」
――終了間際のボールロストのシーンを振り返ってください。
「僕の前から彼(普久原)が消えました(笑)。普段から仲良くしていますが、プレーオフトーナメントの3位決定戦に出られたのは良い経験になったのでは。来季の決勝戦で(あのプレーが)出なくて良かったです。彼は落ち込むタイプでもないですし、素晴らしい才能を持った若手の一人です。あの場面以外はパーフェクトでした。ただ、あまり持ってないかもしれないです。引きが弱いかもしれません。今後は練習して、あの場面でトライを取れるようになるでしょう。彼とはこれから遊びに行きます。そこで励まします」
――終了間際の場面はトライを取るためのプランを組んでいたのでしょうか?
「負けるはずのない試合でした。同点のまま延長戦をやる体力も残っていなかったです。リスペクトしている東京SGさんに勝つことが重要でした」
――若手選手に対する接し方は、どう意識されているのでしょうか?
「普通に仲良く友人としての時間を過ごしていますし、いろいろと質問されます。ただ、見せることはできますが、教えることはできません。試合で出すスキルも教えることができません。それは試合をとおして経験を積んでいくしかありません。まずは人間関係を作ることから始めています。アドバイスとしては、大舞台で力を発揮するための準備はいくらでもサポートします」
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