2023-24シーズン総括インタビュー/ フラン・ルディケ(前編)

チーム・協会

「優勝することは叶いませんでしたが、小さな部分で小さな勝利をたくさん得られたシーズンでした」

本年度も熱戦が繰り広げられた国内最高峰のラグビーリーグ「リーグワン」。昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイは8勝7敗1分の6位という結果に終わり、今季はプレーオフ進出を逃した。しかしながら、最終節の東京サントリーサンゴリアス戦では、新世代の選手たちが躍動して快勝。チームの明るい未来像を描くかのような闘いを展開した。苦戦を強いられながらも前を向いて走り続けた半年間。チームを率いるフラン・ルディケ ヘッドコーチに今シーズンの評価を聞いた。

笑顔でシーズンを振り返るフランHC。今季は連覇を逃したものの、「チームにとってはいいシーズンになった」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

毎試合、負けるたびに解決策を模索し、試行錯誤を繰り返してきた

――まずは今シーズンの印象からお願いします。
フラン アップダウンの激しい、まるでジェットコースターのようなシーズンでした。それはつまり、負傷者がたくさん出てしまったという状況下で、一貫性が保てなかったということです。その一方で、ポジティブな要素も多かったと思います。プレーオフには進出できませんでしたが、チームにとってはいいシーズンになったと、そう言っていいと思います。
――そのポジティブな要素について、詳しく聞かせてきださい。
フラン 私たちには「誇りの広告塔」になるために、会社のために、そして家族のために、これまで(2016年のHC就任以来)8年間かけて築き上げてきたプログラムがベースにあります。今季、私たちは連覇を達成することをミッションとして掲げてきましたが、これはスピアーズにとっては過去に経験のない、新たなチャレンジです。また、そのミッションを遂行するために必要なものも分かってはいました。
しかし、開幕節の東京サントリーサンゴリアス戦では敗北を喫し、いいスタートを切ることができませんでした。それは私たちの力が十分ではなかったからです。そこからは毎試合、負けるたびに解決策を模索し、試行錯誤を繰り返してきました。前年度までは勝利を重ねながら課題を修正し、次の試合に向けて練習していくということが多かったのですが、今シーズンはこれまでにない新しいチャレンジができたと思っています。
――フランHCには、あまり大胆なメンバー変更を行わないイメージがあります。今季は故障者が多く出た影響もあり、若い選手たちの起用が目立ちました。これはご自身にとってもチャレンジングな采配だったのでしょうか。
フラン いえ、チャレンジングだったとは思っていません。あくまで自然な流れの中で生じたものです。まず、マルコム・マークスがワールドカップ中に負傷したことで、急きょデイン・コールズが合流することになりました。そのデインが第14節のコベルコ神戸スティーラーズ戦で負傷し、交替でハヤテ(江良颯)がピッチに入りました。ハヤテはそのチャンスをしっかりとものにして、その能力をしっかりと発揮してくれました。
――未来のスピアーズの姿が垣間見られたシーズンになりました。
フラン 今シーズンはファーストキャップ(公式戦初試合)の選手が10人もいました。若手選手たちの台頭は、チームにとってエキサイティングなことです。

4月21日、札幌ドームで行われた第14節、神戸スティーラーズ戦。前半16分にデイン・コールズが負傷し、今季入団したばかりの江良颯と交替。まるで未来につながるバトンが渡されたかのようなシーンだった 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

チーフス戦は日本のラグビーの未来に向けての闘いを実践できた一戦

――その若手選手たちが台頭する一つのきっかけになったと思えるのが、2月に開催された「THE CROSS-BORDER RUGBY 2024」でのギャラガー・チーフス戦です。
フラン おっしゃる通りです。チーフス戦は、まさに私たちが「誇りの広告塔」になるべく、日本のラグビーの未来に向けての闘いを実践できた一戦でした。スーパーラグビーのチームと対戦するのはこれが初めてのことであり、しかもチーフスは前年度の準優勝チームです。あの一戦に、私たちは若手やルーキーの選手たちを多く起用した編成で臨みました。彼らはしっかりとチャレンジしてくれました。
――あの一戦を機に、岸岡智樹選手、山崎洋之選手、島田悠平選手たちが公式戦で活躍を見せるようになりました。そうしたことを期待した上での采配だったのでしょうか。
フラン いえ、決して想定していたわけではありません。状況としては、(フルバックの)G(ゲラード・ファンデンヒーファー)、リアム(ウィリアムズ)が負傷していたので、そこにシマ(島田)が入り、しっかりと活躍してくれました。また、(スタンドオフの)バーナード(フォーリー)も第3節以降欠場を続けていて、そこにキシ(岸岡)が入りました。彼の冷静な判断やスキル、ゲームコントロールなどは、試合を重ねるにつれてよくなっていきました。特に、第10節の横浜キャノンイーグルス戦での逆転勝利に大きく貢献した最後のプレーはインパクトがありました。
ヤマ(山崎)に関しても、彼は入団1年目から試合には出ていましたが、その後にコウガ(根塚洸雅)、ハルト(木田晴斗)が入団してきて、そこからはあまりチャンスが巡ってきませんでした。しかし、忍耐強くハードワークを続け、今季は巡ってきたチャンスをものにしました。ラスト3戦ではすばらしいパフォーマンスを発揮して、チームとしてもシーズンを「フィニッシュストロング」で締めくくることができました。
――「THE CROSS-BORDER RUGBY 2024」に関しては開催時期などについて疑問視する声も聞かれましたが、結果的にその機会を大いに生かしたシーズンとなりました。
フラン そのようにチーフス戦のことはポジティブに捉えています。これまでチャンスがあまり巡ってこなかった選手たちがスーパーラグビーのチームを相手に試合ができ、自信にもつながったと思います。それが、シーズンの公式戦にもいい影響を与えました。
――そのチーフス戦を経た中盤戦も、前半は大きくリードしたものの、後半に追いつかれて勝利を逃してしまう試合がいくつかありました。
フラン まず言えるのは、リーグワン全体のレベルが昨年よりも上がっていると感じています。現在、リーグワンにはワールドカップを経験している素晴らしい選手たちがたくさんいます。日本のラグビーのレベルが上がり、相手チームも着実に強くなってきました。
また、私たちはチャンピオンチームとして、常に背中を狙われていました。追われる立場になり、相手チームも全力の闘いを見せてきました。そうした状況で、若い選手たちがスキルやタスク、規律などを80分間を通して維持し続けるには経験が必要です。基礎的な部分や、小さなペナルティーが敗戦につながってしまった試合がいくつかありました。
私たちは優勝することは叶いませんでした。ただ、その小さな部分で小さな勝利をたくさん得られたシーズンだったと思います。負傷者の復帰に時間がかかったとしても、しっかりと対応ができるほど選手層も厚くなりました。選手たちのプランへの理解度や浸透度も深くなったと思います。

「THE CROSS-BORDER RUGBY 2024」でのギャラガー・チーフス戦を機にシーズン公式戦で活躍を見せるようになった山崎洋之。最終節のサンゴリアス戦ではPOMを受賞 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

文:藤本かずまさ
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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