2023-24シーズン総括インタビュー /フラン・ルディケ(後編)

チーム・協会

「最終節の『フィニッシュストロング』を、次のシーズンのスタートにしたい」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイが「スピアーズらしさ」を取り戻したシーズン後半。第14節のコベルコ神戸スティーラーズ戦、第15節の三重ホンダヒート戦、そして最終節の東京サントリーサンゴリアス戦と、スピアーズは3連勝を収め、シーズンを「フィニッシュストロング」で締めくくった。最後に見せつけた、昨季王者の意地。フランHCは力強く宣言した。「次のシーズンも、私たちは狩りにいきます」。

2016年以降、8年に渡ってチームを率いてきたフラン・ルディケ ヘッドコーチ。今シーズンはディフェンディング王者として初めて追われる立場となった。「相手チームの強度や熱量が全く違いました」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

状況を受け入れながら諦めずに闘い続けてきたことが最終節で実を結んだ

――スピアーズは創部以来、初めて「追われる立場」となりました。シーズンを闘っていく中で、これまでとの違いを感じたことはありましたか。
フラン 相手チームの強度や熱量が全く違いました。相手を勢いづかせると、かなりタフな試合を強いられました。また、試合内容を振り返ってみても、ラストプレーで勝った試合が4戦あるんです。逆に、ラストプレーで負けている試合が3戦、引き分けた試合が1戦あります。つまり、16試合の中で8試合が最後の最後まで勝敗が分からない試合でした。だからこそ、選手たちはフォーカスすべきことにフォーカスしなければいけません。プレッシャーがかかる中で、いかにしてパフォーマンスを発揮するか。こういう学びを得ることができるが、ラグビーの素晴らしいところです。
私たちはプレーオフに進出できず、優勝もできませんでした。しかし、ポジティブな要素がたくさんありました。状況をしっかり受け入れて、学ぶべきことは学ぶ。私はスピアーズというチームが好きで、オレンジアーミーも大好きです。愛すべき人たちのためにしっかりとエネルギーを出して、来季がさらにいいシーズンになるように取り組んでいくのみです。
――今シーズンはホストゲームでなかなか勝利を挙げられませんでした。
フラン ホストスタジアムの要素もあると思います。昨シーズンは「スピアーズえどりくフィールド」での試合も多かったですが、今シーズンはあまり開催されませんでした。ホストゲームでも移動があり、それは選手たちのエネルギーの部分にも影響がありました。もちろん改装工事などの諸事情があったことは理解していますが、やはり「ホストスタジアム」は大事だと思います。
満員の観客席がオレンジ色に染まった光景を目にすると、選手たちの力もみなぎるものです。オレンジアーミーの方々は、遠方の試合にも駆けつけて、声援を送ってくれました。私たちも状況を受け入れながら諦めずに闘い続けてきました。それが最終節の東京サントリーサンゴリアス戦で実を結んだと思います。

今シーズン、ホストスタジアム「スピアーズえどりくフィールド」で開催されたホストゲームは4月27日の第15節、三重ホンダヒート戦のみ。ここでは立川理道キャプテンが公式戦150キャップを達成 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

周囲の人たちに、いい影響を与えたい。これが私の人生の哲学

――最終節のサンゴリアス戦の評価を改めて聞かせてください。
フラン「フィニッシュストロング」が実践できたと思います。第14節の時点でプレーオフに進出できないことは、ほぼ確定していました。しかし、チームとしては「Don’t count the Rounds, Make the Rounds count (残りの試合数数えてただ消化するのではなく、悔いのないように最後まで闘い抜こう、今という時間を有意義なものにしよう)」、そう私は言い続けてきました。そして選手たち家族のため、会社のため、退団する仲間たちのためという気持ちを持って、闘いに向かってくれました。
第14節のコベルコ神戸スティーラーズ戦、ハル(立川理道)が公式戦150キャップを迎えた第15節の三重ホンダヒート戦、そして最終節のサンゴリアス戦。この3試合では「クボタウェイ」を見せることができたと思います。また、このタイミングで負傷した選手たちが戦線に復帰して、いいリズムを掴めた上で最後の試合に臨むことができました。あともう1試合あれば、プレーオフに進出できていたのではないかと感じています。
――未来につながったシーズンと言えるかもしれません。
フラン シーズン全体を通して選手たちはハードワークをして、ベストを尽くしてくれました。自分たちが愛するチーム文化、愛するラグビー、愛する会社のためにハードワークをしてくれたと思っています。最後はトロフィーなどは関係なしに、王者としての振る舞いや生き様を見せることができたと思います。
――この経験を経て、次のシーズンはどのように臨みたいですか?
フラン サンゴリアス戦の最後のプレーでは、(すでに勝利が確定した中で80分が過ぎ)ボールを蹴り出してゲームを切ることもできました。ただ、選手たちは最後までアタッキングマインド(攻撃的な姿勢)を持って、しっかりと「フィニッシュストロング」をしてくれました。この「フィニッシュストロング」を、次のシーズンのスタートにしたいです。次のシーズンも、私たちは狩りにいきます。ストロングシーズンが迎えられるようにやっていきたいと思っています。
――最後の質問になります。私がスピアーズの番記者になり初めてフランHCに挨拶した際、第一声が「ウェルカム!」でした。そして、第3節のヨドコウ桜スタジアムだったと思うのですが、会場内で同じエレベーターに乗り合わせたとき、エレベーターが途中の階で止まり、扉の先で会場スタッフの方が乗っていいものかどうか躊躇していたところ、そこでも「ウェルカム!」とおっしゃっていました。そのウェルカムの精神は、どのようにして養われたのですか。
フラン 人は人生で大きな影響を与えてくれる人に5人、出会うそうです。私もこれまで、たくさんの方からチャンスをいただいてきました。では、人生をエレベーターにたとえてみましょう。同じエレベーターに乗った人が、私を上に連れていってくれる人なのか。それとも下に連れていく人なのか。
私は、上に連れていってくれる人とたくさん出会うことができました。たくさんの人たちに、人生を変えてもらったのです。だから、私も周囲の人たちに、いい影響を与えたいと思っています。これは私の哲学です。私はいつでも、誰でもウェルカムです。

常に相手を笑顔で受け入れる。ここにフランHCの人生哲学がある。「私はスピアーズというチームが好きで、オレンジアーミーも大好きです」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

文:藤本かずまさ
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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