【ONE TAP SPORTS活用法 第2回(前編)】「早熟と晩熟でチームを二つ編成。前橋中央硬式野球クラブの“10年先”を見据えた取り組み
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選手たちを大きく育てようというアプローチの一つが今春、春原太一代表にとってうれしい形で身を結んだ。OBで高崎健康福祉大学高崎高校(健大高崎)に進んだ3番・高山裕次郎が決勝で勝ち越しタイムリーを放つなど、群馬県勢初の全国制覇に大きく貢献したのだ。
「高山は172cmと小さいけれど、健大で3番を打つように打撃技術は高いのだと思います。大学生くらいの年齢になって体がもっとできてきたら、どんどん輝いていくでしょうね」
前橋中央ボーイズでは7年前、ちょうど高山が中学1年で入ってきた頃に始めた取り組みがある。全員が低反発の金属バットを購入し、普段の練習や練習試合で使用するようにしたのだ。
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前橋中央では以前から低反発のバットも使用していたが、7年前から全員が購入して取り組むようにした。図らずも今春から高校野球で規定が変わり、中学時代から低反発の金属バットで打撃技術を磨いた高山が甲子園で躍動したわけだ。
子どもはいつ、どのように成長するのか
春原代表は選手たちに常々そう話している。実際、高校時代は無名だったが、身体的に成長した大学生年代以降に台頭し、プロ野球で活躍している選手も少なくない。
では、指導者はどうすれば野球を長く続け、大人になったときに輝ける選手を育てられるか。
春原代表が独特のアプローチとしてたどり着いたのが、チームを二つに分けることだった。
まずは全選手が前橋中央ボーイズに入団し、卒団までに班分けが3度行われる。最初は冬の1年生大会を迎えるタイミングで、次は3年生が引退して新チームになるとき、そして最後は新3年生になる直前の2月だ。
基本的に“早熟系”の選手たちは前橋ボーイズに所属し、“晩熟系”の選手たちは前橋中央ボーイズに残る。そうして双方に合ったアプローチをしていく。
チーム分けで考慮するのは、身体的な成長と希望する進路だ。早熟系の前橋ボーイズはOBの富田恭輔監督、晩熟系の前橋中央ボーイズは春原代表が主に担当する。
「PHV(Peak Height Velocity=最大成長速度)を迎えている子を休ませたり、無理をさせないようにしたりするなど、いわゆる手のかかる子を僕が見て、そうではなく試合をどんどんやっていこうという子を富田に任せています」
PHVは最大発育(身長)速度を示す年齢で、日本人の男子は平均13歳、同じく女子は平均11歳とされる。
だが成長期にある子どもたちは、同学年でも身体の成長速度は個々で大きく異なっている。暦年齢と生物学的年齢には差があるということだ。
だからこそ、指導者や保護者はPHVを把握しておいたほうがいい。「スキャモンの発達成長曲線」が示すように、成長期の子どもはどのタイミングでどんなトレーニングをすればいいのか、適切に見極める必要があるからだ(※上記を詳しく知りたい人は 読売ジャイアンツHP「発育発達の特性/育成サイクル/思考と行動の自立」 を参照)。
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平や千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希の活躍もあり、どうすれば身長を少しでも高くできるかと考えている選手や保護者、指導者は増えているだろう。遺伝的要因が大きいが、環境的要因も関係する。後者の要素と言われるのが、睡眠、栄養、適度な運動だ。
以上を考慮し、子どもたちにより良い環境をどう整えるか。そこで春原代表は早熟と晩熟でチームを二つに分けることにした。
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身長の定期的計測と予測値がモチベーションに
毎年春に身長、体重、座高を計測。さらに毎月、身長と体重を測ってアプリに入力していく。するとPHVの時期(PHVa=Peak Height Velocity age)と成人身長が予測されるのだ。
「選手たちに目標設定を書かせているのですが、その用紙には身長の項目もあります。それを踏まえ、『現在の身長は⚫︎cm。ワンタップスポーツで予測身長が⚫︎cmと出ているので、今は自分のなかで⚫︎%くらい成熟してきた』とわかるようにして取り組んでいます」(春原代表)
現在の数値と将来の予測値を出すことでモチベーションを高め、自分の体に対して意識的になってもらおうという意図がある。春原代表が続ける。
「例えば『最近、身長が伸びてきたみたいだね』と私が言ったときに、選手から『ちょうどPHVの前あたりかなと予測が出ているんです』という会話になればいいですね。どこまで意識を持つかは個人差がありますが、毎月計測し、それをもとに目標設定を書くことで興味を持ったり、何に気をつけなければならないのかという目安にしたりするにはワンタップスポーツはすごくいいと思います」
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「身長の伸びには睡眠時間と栄養がすごく影響してくるなか、気をつけなければいけないのが“中二病”です。友だちと夜遅くまでスマホでやり取りしているなど、目標を見失ってその日暮らしになることが出てきやすい時期です。その頃の選手に対し、自分が“やり続けないといけないこと”を可視化する効果がワンタップスポーツには意外とあるような気がしています」
俗に言われる“中二病”はネットスラングで、思春期の子どもたちが“背伸び”した言動をとりたくなる傾向にあることだ。春原代表は自身の経験のなかでそう感じ、中学2年生になった選手たちが自分を見失わないように気を配っている。
各選手を前向きに導いてくれるのが、自分で立てた目標だ。春原代表は選手たちを後押しできるようにワンタップスポーツを使いつつ、同時にモチベーションを高める言葉をかけている。
「例えば大谷翔平選手の活躍がニュースになったとき、『大谷選手はすごく倹約家だけど、睡眠関連の道具にはしっかりお金をかけているんだよ』と伝えています。『大谷翔平選手も佐々木朗希選手も高校時代にたくさん寝た結果、現在のように大きくなったんだ』とか。ネタ元になるネットニュースがあれば、今はLINEで送ればみんなで簡単に共有できますからね」
成長度合いに応じてチームを二つに分け、早熟系も晩熟系も将来飛躍できるようにアプローチしていく。指導者がビジョンを持つことで、選手たちは可能性を大きく膨らませていくことができるのだ。
前橋中央が試行錯誤してたどり着いた方法には、選手育成のヒントが多く詰まっている。
(文・中島大輔)
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