【中学野球部地域移行シリーズ 第3弾】 高知ファイティングドッグスと土佐塾中学校野球部が新チーム結成。企業型クラブの「月謝0円」の挑戦

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 高知県で中学生を対象にした新たな形の軟式野球チームが誕生した。高知ファイティングドッグスベースボールクラブだ。

 四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスと私立土佐塾中学校野球部が手を組み、企業型のクラブチームとして活動していく。

 土佐塾中学校野球部監督で、高知ファイティングドッグスベースボールクラブでGMを務める結城慎二さんが立ち上げの理由を明かす。

「高知県では中学校の部活動が自然消滅しています。でも、予算がないので地域移行するための受け皿もない。部活動が消滅していくなかで子どもたちの受け皿をどうつくるのか。持続可能なものを考えたとき、企業型クラブという形になりました」

保護者の負担を軽減するために

 スポーツ庁と文化庁の方針により中学部活動の地域移行が全国で進められるなか、そのあり方にはいくつかのパターンが存在する。前回紹介した川口クラブのように中学校の教員や教育委員会が中心となるケースや、市区町村が任意団体を設置・運営するタイプ、あるいは総合型地域スポーツクラブのようなあり方や、企業が運営するパターンなどだ。

 企業型である高知ファイティングドッグスベースボールクラブは、プロ野球団と私立の中学校野球部が提携している点に独自性がある。構想を描いて実現へ動くにあたり、結城GMは「月謝0円でやりたい」と高知球団に要望した。

「部活動のクラブ化で課題となるのは保護者負担です。費用の負担をゼロにしたくて企業型となりました。スポンサーを募って運営していきます。移動の負担と選手たちが所属する部活動との兼ね合いを考慮し、クラブの練習頻度は月1、2回。部活とかぶらないように土曜の17時以降を活動時間とし、練習頻度を少なくすることで保護者の負担を抑えるようにしました」

ベースボールクラブ説明会の様子 【©Homebase】

各所の協力で「月謝0円」実現

 部活動の大きな利点は、お金を払わずに誰でも参加できることだ(※部費は発生する場合もある)。

 一方、高知ファイティングドッグスを運営する株式会社高知犬は営利企業であり、ボランティアでクラブを長期的に運営することは難しい。さらに、事業として小中学生を対象にしたスクールをすでに行っている。

小中学生を対象にしたスクールの様子 【©Homebase】

 それでも「月謝0円」で新たなクラブチームを土佐塾中学校野球部と一緒に立ち上げることに決めたのは、得られるものがあるからだ。ファイティングドッグスの永井理大統括本部長が説明する。

「ブランディングの意味合いもあります。これまでなかなか入り込めていなかった中学野球に関わることで、ファイティングドッグスの名前やロゴがついたユニフォームを中学生に着てもらい、球団を知ってもらう。関わりを持つことでプロスポーツチームの集客につなげたいのも一つの要因です」

 初期費用は60〜80万円で、すでにスポンサー営業でメドがついたという。2005年に球団発足し、高知県内で活動して今年20年目のファイティングドッグスの認知度や期待は大きい。

 選手たちはユニフォームのシャツが貸与され、パンツとキャップ、ソックスは無料で支給される。チーム立ち上げ時に必要なボールやヘルメットという道具は土佐塾中学がすべて負担した。

「高知県への貢献になることであれば、積極的にやろうというのがうちの学校長の方針です。学校の協力はスムーズに得られました」(結城GM)

高知県ならではの環境

 2024年3月2日に行われたセレクションには約30人が参加し、ポジションも踏まえて実力上位の15人が初期メンバーとして選ばれた。いずれも高知市や佐川町など近隣の中学生たちだ。

セレクションの様子 【©Homebase】

 選手数を15人に限るのは、結城GMの「全員が1試合に出場して戦う」という方針がある。

 チームの指導は宮田孝将監督、尾﨑由基コーチというファイティングドッグスの野球スクールでも教えている二人が担当する。結城GMが担うのはクラブ運営だ。

 結成1年目は、全日本少年軟式野球大会と文部科学大臣杯全日本少年春季軟式野球大会ENEOSトーナメントへの出場を目標に活動していく。11月に開催される全国中学校都道府県対抗野球大会の参加は検討中だ。いずれも大会2カ月前から終了時点までチームのスケジュールが組まれ、1年のうち冬のオフシーズンを除いて活動していくことになる。

 高知市内や近隣から優秀な中学生選手を集めて全国大会出場を狙うのは、高知県ならではの事情も絡んでいる。県内には中学生の硬式野球チームが南国市に一つだけ存在していたが、今年、指導者の事情で活動休止となった。

 つまり、中学生が高知県で野球をプレーするには“軟式一択”なのだ。

 もともと野球に熱心な中学校の顧問が多く、軟式野球が盛んな土地柄だ。多くの選手が地元の公立中学に進む一方、実力的に優れる選手は私立中学への進学も視野に入れる。とりわけ名を馳せるのが明徳義塾中学と高知中学だ。前者には全国から中学生がやって来る一方、「学園」として知られる後者は県内出身者で占められる。

 この“2強”に対抗するチームをつくることが、高知ファイティングドッグスの立ち上げ時の狙いだ。永井さんが説明する。

「明徳と学園の存在があるから、他の中学はなかなか全国大会を経験できません。なんとか対抗できるチームを結成することが今回目指すコンセプトの一つです」

 ただし、このコンセプトはあくまで1年目のものだ。結城GMによると、2年目以降はクラブの方針をガラリと変える可能性もある。

「今後、中学部活動の環境がどう変化していくかでファイティングドッグスベースボールクラブのあり方も変わっていきます。うちの目的は野球をやりたい中学生の受け皿になることなので、例えばファイティングドッグスベースボールクラブのなかにトップチームとセカンドチームができるかもしれない。練習頻度が増えることもあり得ます。その辺は高知県の実情に応じて変えていきます」

 今後、中学野球部の地域移行がどのように進むかは不透明だ。だからこそ、高知ファイティングドッグスベースボールクラブは柔軟にあり方を変えていこうとしている。

ドッグスを通じて先を見る

 高知ファイティングドッグスベースボールクラブならではの仕組みは他にもある。所属選手の通う中学校に野球部がなくなった場合、あるいは活動日数が少なくなった場合、土佐塾中学の練習に参加できるのだ。

始動した高知ファイティングドッグスベースボールクラブの練習初日の様子 【©Homebase】

 前述したように高知ファイティングドッグスベースボールクラブの練習頻度は月1、2回に限られる一方、土佐塾中野球部は火、木、土、日と週4回活動している(※土曜には授業があり、平日扱い)。

「もっと野球をやりたいという中学生がいた場合、土佐塾中学校野球部の練習に参加することができます。“二重の受け皿”になるわけです」(結城GM)

 高知ファイティングドッグスベースボールクラブが画期的なのは、高知ファイティングドッグスと土佐塾中学校野球部がタッグを組むから実現できる点がたくさんあることだ。

 既存の枠組みに縛られず、中学生たちに理想的な環境を整えることで、高知県の選手たちが子どもの頃から夢を持って野球を続けられる環境をつくりたい――。

 結城GMは新クラブのビジョンをそう描いている。

「高知県にはNPBの球団がないなか、ファイティングドッグスは野球人口拡大につなげるイベントや、小中学生選手へのコーチングなど、いろいろ活動されてきました。ドッグスが勝てば高知は盛り上がり、選手がドラフトでNPB球団に指名されれば県内で喜ばれる。ドッグスは県内の野球界で共存しているファミリーです。小中学生が憧れを持ち、ドッグスを通じて先を見るようなビジョンが高知県の野球界には必要です。今回、アイランドリーグのトップチームと中学生のクラブチームが一緒にドッグスのなかにいるという“一つの箱”ができることで、高知の野球界も先に進んでいけると思います」

 高知ファイティングドッグスベースボールクラブは4月13日に初戦を迎える。プロ野球団と中学野球部のタッグという画期的な形で誕生したチームは今後、どのように発展していくのか。その挑戦を楽しみに見守りたい。

(文・中島大輔)
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