【BCC/野球指導者講習会レポート】 選手が試合で最高のパフォーマンスを発揮するために、指導者に知ってほしい「予防・コンディショニング」(後編)

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スポーツ外傷と障害

次はスポーツ外傷と障害について。両者ともに「ケガ」だが、種類が異なっている。

・外傷(完全に防ぐことは難しい)
 →一回の外力によって生じた身体の異常
 例:脱臼、骨折、捻挫、肉ばなれ、腱断裂など。野球で言えば、デッドボールによるケガが該当する。
・障害(多くを防ぐことが可能)
 →同じ部位に繰り返しストレスがかかり生じた身体の異常
 例:腰痛、肩痛、肘痛、疲労骨折、腱の炎症など

 河野氏は、「野球の動作が悪いことによって、ある箇所にストレスがかかっているということになるので、正しい野球の動作を指導する必要がある」と指摘した。

 また、ケガの発生要因としては以下が挙げられる。
・ 個体要因
 →傷害を起こした本人自身に関する要因
・環境要因
 →傷害を起こした本人の周囲に関する要因
・トレーニング要因
 →不適切なトレーニングの種類、強度、時間、頻度などにより傷害が引き起こされたもの

 個体要因の一つには、アライメントと姿勢がある。アライメントは骨の配列のことで、基本的な肢位を決めて観察するものが静的アライメント、運動時における骨の配列の変化を観察するものが動的アライメントと言われる。

 とりわけ野球では足部が床面に接しているため、下肢アライメントが身体全体に影響を及ぼす。

 河野氏はまず、「静的アライメント」について説明した。
・O脚→膝の外側が引っ張られる。膝の内側は圧縮される力が働く
・X脚→膝の内側が引っ張られる。膝の外側は圧縮される
 河野氏は「このような状態で練習すると、膝の外側、内側が痛くなってくる」と語り、トレーニングやストレッチの必要性を挙げた。
・O脚 内転筋をトレーニングする。足の外側の筋肉をストレッチ
・X脚 足の外側の筋肉をトレーニングする。内転筋をストレッチ

 こうした対策をすることで、ニュートラルな足の状態になると河野氏は説明した。

「O脚、X脚とわかっているなら、ウォーミングアップの中で(選手たちを)O脚、X脚と分けてトレーニング、ストレッチをやることによって、練習開始のときにはいい状態の足のアライメントになっている。そういった中で練習するのがケガの予防につながると思います」

 次は「動的アライメント」について。X脚が動きの中であると、以下の影響がある。
・knee-in:つま先に対し膝関節が内側に向く
・toe-out:膝関節に対しつま先が外側に向く
 一方、O脚が動きの中であると、以下の影響が現れる。
・knee-out:つま先に対し膝関節が外側に向く
・toe-in: 膝関節に対しつま先が内側に向く

 河野氏は上記のように説明した上で、留意点を説明した。
「いくら静的アライメントの中で膝が真っすぐであっても、動きの中で膝がつま先に対して内側に行く、膝がつま先に対して外側に行くとケガが起こりやすいので、動きの中でニュートラルな状態を教えてあげる必要があります」

「良い姿勢」とは?

次は、負担のかかる姿勢について。

<良い姿勢>
→力学的、生理学的、作業能率的に安定・効率がよく、美学的にも優れている状態
 姿勢は身体の中で表れるものだが、心理的安定も関係する。例えば、指導者から「何をやっているんだ!」と怒られ、肩がすくむと良い姿勢は取れない。
<不良な姿勢>
→力学的、生理学的、作業能率的に不安定で効率が悪く、美学的にも劣り、心理的に不安定な状態

 チェック方法は以下の通りだ。
(1)腕を真っすぐ上げたとき、耳より後ろに行くと問題ない=良い姿勢
(2)両肩の高さに肘を置いて肘から真っすぐに上げると、ボールを投げられる

 逆に猫背の場合、
(1)腕をまっすぐに上げても耳より後ろにはいかない
(2)両肩の高さに肘を置いて肘から真っすぐ上げても、耳より後ろにいかない

 河野氏は自らやって見せた上で、以下の解説をした。

「姿勢が悪いことで、肩も動かなくなってしまいます。姿勢が正しくなっていないと、肩を正しく使うことをできないと覚えていただきたい。猫背になっているなら『しっかり胸を張って』と昔から言われていますが、それが予防につながっていると思います」

 姿勢は、筋肉の状態にも影響を受ける。
<骨盤前傾>
 太ももの前、腰が張っていると、骨盤前傾が出たような状態になる
 →こういう選手には太ももの前、腰のストレッチが必要
<骨盤後傾>
 背筋に比べて腹筋が強すぎる、お尻や太ももの筋肉が強すぎるとこうなる
 →強すぎると考えられる部位のストレッチ&その反対側のトレーニングが必要

「正しいスポーツ動作」のポイント

次は、スポーツ動作の確認について。

 まずは、投球障害肩の予防に関して説明がされた。
(1)姿勢のチェック
(2)投球動作のチェック

 指導者は選手のスポーツ動作を観察することにより、以下の4点につなげられる。
(1)スポーツ外傷・障害の発生予防
(2)外傷・障害発生時のメカニズムの解釈
(3)治療・アスレティックリハビリテーションへの活用
(4)ウィークポイントの明確化と対策が可能

 観察するポイントとして、以下の2点が挙げられた。
(1)重力を常に考える
(2)左右・前後・対角でバランスを取ろうとする

 野球では「正しいフォーム」とよく言われるが、具体的にどういうものなのかは曖昧だ。河野氏は以下の説明を行った。
<正しいスポーツ動作>
 力学的効率がよく、試合でのパフォーマンスが高く、特定部位にメカニカルストレスがかからない合理的な動作
 →障害の起こりにくい動作(力の抜くポイントをわかっている)
<誤ったスポーツ動作>
 力学的に非効率で障害を引き起こす可能性の高い動作

 観察するポイントは、以下が挙げられた。
(1)スポーツ動作を「キネティックチェーン(運動連鎖)」として全体を見る
(2)負荷がより多くかかっていると考えられる動作を見る
 ※メディカルインフォメーションから情報を得る
 ※肉ばなれ、脱臼、中殿筋麻連など
(3)左右・前後・上下・対角線で動作を見る
(4)代償運動の有無を確認
(5)全体→局所→全体
 ※局所または全体のどちらかのみを見ていても限界がある

理想的な「運動連鎖」

次は、スポーツ動作時のアライメントについて。

 静的アライメント(スタティック・アライメント)を考慮し、動作の観察には運動時の動的アライメント(ダイナミック・アライメント)の観察が重要になる。

 特に野球では足部が床面に接しているため、下肢アライメントは身体全体に影響を及ぼすため注視する必要がある。

 投げる動作において、上半身だけでなく下半身からいかに力を伝えられるかが重要だ。河野氏は次のように話した。
「下肢からの運動連鎖がない中で腕だけを速く振るとメカニズムが狂ってしまうので、腕は結果的に速く振られると考えた方がいいと思います」

 重要なポイントは、運動連鎖だ。体幹と上肢が同時に単体として動くと、「単体運動」となるので大きな力を生み出しにくい。「身体の開きが早い」となり、野球では「良くない」とされる。野球界では、「分離」「セパレーション」「割れ」などという言葉も使われる。

 最も理想的な動作として、河野氏は「開放的パターン」を挙げた。下肢・骨盤・体幹・上肢の順に各部位が個々に動くことだ。その上で、「バッティングでも下肢から順番に力が伝わっているかと見ることが必要です」と話した。

「正しい動き」ができない要因

 次は、スポーツ動作によるケガの発生について。

 不適切なフォームは特定の部位にストレスがかかり、障害を引き起こす可能性が高くなる。そのため指導者は、正しい動きを理解・観察・指導できる能力が必要になる。

 では、正しい動きができていない要因はどこにあるのか。河野氏は以下の3点を挙げた。
(1) 正しい動きを習っていない
(2) 体力不足
(3) 痛みなどで、他の部位をかばっている

 要因によって対策も変わるので、指導者は適切に見極めることが重要だ。

トレーニングの効果を高めるための理解

最後に、トレーニングについて。まず、野球選手として重要な点が挙げられた。
(1)股関節(可動性)
(2)体幹(安定性)
(3)肩甲胸郭関節(可動性)
 →この3つができて、「協調性」につながってくる。

 選手として望ましい身体の動きが可能となった後、ウエイトトレーニングを実施するという順番がポイントだ。

 トレーニングの基本的な考え方は、個別の筋肉を鍛えるのではないということ。この場合には運動連鎖が阻害されるため、野球の動きを意識して鍛える必要がある。そうすることで、野球に必要な筋肉が鍛えられる。

 ちなみにバランスが悪い場合やリハビリでは、個々の筋肉にアプローチしていく。河野氏は上記のように説明した上で、こう続けた。
「どういうふうにケガが起こるのか。ケガにも種類があります。野球の正しい動きを理解・観察・指導できる能力を高め、ケガを予防し、コンディショニングを成功させてください」

 正しい動きか否かを見極めるのは、決して容易ではない。どうすればできるようになっていくのか、河野氏はこう話した。
「正しい動きとは何なのかというのはなかなか難しいところではありますけれど、トップアスリートの動きが参考になります。ケガがないからこそトッププレーヤーになっているということなので、その人たちがどのような動きをしているのかというのはヒントになると思います。そして常に最新の情報を指導者の方も取っていただいて、その中で何が正しくて、何が正しくないのかと見る力も必要だと思います」

 以上が、今回の講義「予防とコンディショニング」で語られた内容だ。選手が成長し、試合で持てる力を存分に発揮できるようになるためにも、指導者にはぜひ理解し実践してほしい。
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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