2024.1.24 〜オカダ・カズチカ新日所属ラストマッチ〜Road to THE NEW BEGINNING 試合雑感

note
チーム・協会
【これはnoteに投稿されたもるがなさんによる記事です。】
◼️ 第7試合 60分1本勝負
NEVER無差別級6人タッグ選手権試合
オカダ・カズチカ&棚橋弘至&石井智宏 vs 藤田晃生&シェイン・ヘイスト&マイキー・ニコルス

新日本を12年支え続けてきたオカダ・カズチカの衝撃の退団報告。ある程度予期されていたこととはいえファンの衝撃は強く、それもあってか以降のオカダの試合はほぼ全てがカーテンコールのような印象を受けました。前の試合もそうだったのですが、入場時点でオカダの表情は感極まっており、それを後押しするかのような万雷のオカダコール……そこに在ったのはただ一つの「感謝」であり、オカダのいる風景がいかに新日にとっての日常であり、精神的支柱であったことが伝わりますね。

同時に湧き起こってくるオカダ以後の世界。いわゆる後継問題は今後に横たわるかなりの難題であり、オカダの存在はプレミアムであったと同時に、退団によって新日本プロレスのマット上では当分見れないことが確定したというのもあってか、よりその希少性や特別性に拍車がかかった感じがあります。それを思うとTMDKは今回のシチュエーション的にかなりの分の悪さを感じたというか、観客の後押しも受けて名実ともに完全に「主役」となったオカダ相手というのはかなり厳しいものがあったでしょう。

そんな中で光ったのは1.5でモクスリー とダニブラの二人を対角線に回しつつも輝きを見せた藤田晃生であり、この中で唯一の新世代枠というのもあってか、未来への片道切符のみでオカダの主人公性に渡り合える唯一の役割を担っていましたね。

しかしながらキャリアの差、さらにはJr.とヘビーという体格差もあってか、かなりの苦戦を強いられます。際立ったのはオカダのスーパーヘビー感であり、あらためてこの体格差は埋め難いものがありましたね。オカダの攻撃も苛烈の一語であり、胸を貸す気はさらさらなく、文字通り叩き潰しにきていました。

藤田晃生はヤングライオン時代に会得し、TMDK加入後により研ぎ澄まされた逆水平チョップは一つの武器であり見所の一つであったと思います。通常のエルボーは右で打ち、逆水平は左手で放つという「打撃のスイッチ」によってそれが観客の目に違和として機能し、リズムが少しズレることで試合の中でのちょっとしたアクセントに繋がる。この変拍子は素晴らしく、こういうシンプルな武器は後々にまで長く愛用できますね。新日本マットもそれなりに逆水平チョップは名手が多いですが、その中で比較しても藤田晃生のチョップは遜色なく、金属音に等しい快音と刃のようなスピーディーさが風貌のシャープさとも相まって非常に似合っていましたね。

あと、中盤で繰り出したカニ挟みからのクロス式キャメルクラッチも面白く、オカダ相手に繰り出したのはレッドインクが一瞬脳裏を過りました。新日だとヤングライオン時代の柴田勝頼が使っていた技ではあるのですが、藤田晃生と所属するTMDKのイメージにもあっており、使う技に背伸びがなく、ちゃんと「ハマっている」というのはプロレスにおいてとても大事なことだと思います。

NEVER6人タッグらしいハイテンポかつ流動的な死闘の中、最後はやはりオカダ・カズチカ強し!の印象が残りましたね。この試合、繰り出したレインメーカーをザック直伝の回転足折り固めで切り返して健闘した藤田晃生ではありましたが、もはや伝説になりつつあるドロップキック、高高度のダイビングエルボードロップ、そしてレインメーカーアピールからの正調レインメーカーで藤田晃生、轟沈。いやあ……オカダ、譲りませんでしたね。でもそれでいいと思います。

面白いなと思ったのは通常の試合とレインメーカーを放つ「手順」をオカダが変えてきたことで、ダイビングエルボーからレインメーカーアピールを挟んでのレインメーカーって、オカダの試合における「クライマックスへの移行」という時間的尺度の視覚化としての役割があり、タイトルマッチではこのパターンでのレインメーカーはほぼ決まらないのが定説ではあるのですが、その代わりにオカダの試合では確実に見れる光景というのもあってか、観客の脳裏に幾度となく刻み込まれた名シーンなんですよね。決まらないと書きはしたものの、あれはここから先はレインメーカーにこだわるという一つの王者宣言であると同時に、相手に意識的に警戒させて選択肢を限定させる効果もあり、それと同時に自らを追い込んで鼓舞するという役割もあり、レスラーにとってのフィニッシャーのアピールというのは意外と理に適う部分もあるのです。最後の最後に、定番ムーブで決めたことによって、より惜別のレインメーカーとしての印象が濃くなり、それと同時に通常の試合だとクライマックス以降の「前段階」で決めたことによる実力差も明白になる。いやはや、単なる技一つでここまで雄弁に語るオカダはやっぱり傑物ですよ。オカダの若手に対するフィニッシャーってそれぞれ意味が明確にあり、それが転じて「指導」に繋がっているのは本当に面白いなと思います。

試合後にマイクを握るオカダ。「もう、泣きたくないっすよ。散々泣いたから……」と照れながら笑みを見せつつも、瞳には光るものが。「17年間……熱い……熱い……熱い歓声……本当にありがとうございました!」最後のほうは言葉にならず、人目を憚らず号泣するオカダ。別れはまだ少し先ではありますが、こっちまで目頭が熱くなってしまいましたよ。オカダはずっと特別であり、プロレス界の寵児かつトップランナーでい続けるのは凄まじいプレッシャーだったと思います。それが故の孤独と孤高に苛まれた12年間であり、彼にとっての責務であった以上、途中で投げ出す選択肢は最初からありませんでした。「マンネリだ」「オカダはもういい」どれだけ防衛を重ねて名勝負を尽くしても、強すぎるが故の反発は大きく、ファンには絶対見せないまでも、普通の人なら何のために頑張っているのかと自問自答して心が折れそうになりますよね。そんなオカダが最後の最後で報われて、万雷のオカダコールで新日本所属ラストマッチを終える。こんなに感動的なことはないですよ。必死に頑張ってきた人がちゃんと報われたというのがただただ嬉しく、そしてファンもまた感謝を示した。この光景がたまらなく愛しく、尊いものだなと思いました。

ここから先は「外敵」として、というオカダの台詞は良かったですね。残された時間は少ないですが、離脱が決まった「今」のオカダ・カズチカは間違いなく新日本プロレス史上最強であり、また歴代のオカダ・カズチカの中で最も強いオカダ・カズチカと言っても過言ではないですよ。だってただでさえ強く特別なオカダ・カズチカというブランドに対して、観客の支持率までついているわけですから。本当の意味で最強のままで去るのか、最後の最後で誰かにバトンを渡すのか。オカダ・カズチカ物語の最後をちゃんと見届けたいなと思います。

◼️ 第8試合 60分1本勝負
海野翔太 vs 成田蓮

セミが試合内容、幕引きともに素晴らしかっただけに新世代の二人にとっては今大会のメインは重荷でしたね。しかしながらここでしっかり新世代をメインに据えるあたりに新日本プロレスの未来への投資ぶりがよく分かるというか、たとえリスクがあっても失敗しようとも受け止めるという気概を感じさせます。

ただ……個人的には結構微妙な試合でした。良くも悪くも「未来への期待感」で何とか見れたなという印象であり、試合内容としてはまだまだでしたかね。厳しいようですが、批評の手を抜かないというのはいずれ新日を背負うであろう二人に対しての敬意の表れでもあり、全力でやってるからこそ見る側の感性も全力で応えなければいけない。そういうスタンスでいつも見ているのでご容赦を。

開始早々、海野が成田に襲い掛かり、鉄柵周遊で鬱憤を晴らしましたが、見てていまいち気持ちが乗りませんでした。なんというか「意図」は伝わるものの、怒りの「表現」だなというのが先に立つというか……。誤解しないで欲しいのですが、海野は真面目かつ実直で、ファンに対する姿勢にもパフォーマンス先行のようでいてそこに嘘はありません。それは一つの美徳であるとは思うのですが、それ故に怒ることにすら「真面目」に取り組んでしまうんですよね。本来は制御の困難なものであるはずの怒りですら我を忘れず、アンガーコントロールが悪い意味で作用しており、それが逆に感情表現の嘘っぽさとして付き纏う軽薄さの印象に拍車をかけてしまう……。この辺りの感情のアヤを観客に浸透させるのが今後の海野の課題なのかもしれません。アントニオ猪木映画で「プロレスに怒りはない。怒りはエネルギーにならない」と言い切った海野が、怒りという感情を同胞の裏切りによって教えられるというシチュエーションはストーリーテリングとしてたまらなく面白いのですが、やはりまだシチュエーション先行の部分が強く、そこに乗れるか乗れないかは観客の判断に委ねられており、つい巻き込まれてしまうような生々しい感情を抱くには至らない。そこが問題点として浮き彫りになったという感じですかね。

さて、お次はHOT以降の成田なのですが、元よりストロングスタイルでの積み重ねが道半ばだったというのもあってか、昔のドラクエのダーマ神殿での転職のようなレベルリセット感が少し漂っていた気がします。あまりレベルを上げない状態でレベル1に戻ったというのは中々に厳しく、悪でありアクも強いHOTの中でやや埋没しかかってるというのは色々と厳しいですね。ストロングスタイルのときもそうなのですが、良くも悪くも形から入りやすいタイプというか……悪としての「型」に囚われすぎな気もします。個人的な望みとしてはローブ一枚の入場コスのグレードをもう少し上げてキャラクターして振り切ってみるのも悪くないのでは?と思いますかね。

お互いに厳しいことを書きましたが、それでも中盤以降のハイライトの一つである階段設置からのテーブル葬は流石に見応えがありました。パワーボムからの階段落ちまで含めて、あれでやや拙かった試合のランクが一つ上がった気はします。受け切った成田はもちろんのこと、バクステにまで入り込んだ海野の表情がとにかく素晴らしく、荒々しいMOXの遺伝子が伝わると同時に、内に眠るハードコアな荒々しさへの適性が一瞬垣間見えたのは非常に良かったですね。海野はわかりやすいアイドルレスラーではあるのですが、それは当人の指向だけでなくあくまでファンの目がそうした振る舞いを規定する部分があったんだなということが分かったというか、裏に引っ込んだ海野のその表情は、ライブが終わって素になったアイドルが階段裏で煙草を吸ってるのを目撃したような感じがあってゾクゾクしましたね。こういう「いい子ちゃん」だけじゃない海野の顔をもっと見たいというのは僕だけじゃないと思うんですよ。

対する成田もこれだけでは終わらず、今回はHOTの介入まで時間がかかりましたが、それは成田のシングル適性の見定めもあったのかな、とも。個人的に嬉しかったのは、美麗なハーフハッチや、やや垂直落下気味に落とすように決まったフロントスープレックスこと成田スペシャル4号。断頭台にストロングスタイルで会得したコブラツイストなど、得意技を忘れずにちゃんと使ってきたことですね。特に断頭台は今のヒールスタイルにも合ってるというか、もっと磨き上げてもいいかもしれません。両者の比較になって申し訳ないのですが、単純に技の格というかセンスなら海野より成田のほうが上だと思います。

海野の課題点は先ほど触れましたが、もう一つは技の神通力が乏しいことにあり、数は多くともそのどれもがまだ技としての格が低いんですよね。デスライダーへの布石となる首攻めかつ、実は今の新日のトップ選手の中でも群を抜いて垂直落下系の技が多いだけに、逆にその「軽さ」が際立って見えてしまう。エクスプロイダーにハーフネルソンスープレックスと、ゼロ年代以降のファンには通俗的で馴染みのある技を使い捨て感覚で繰り出しているというのもかえって印象が良くないのかもしれませんね。それでも最後はデスライダーでしっかりと成田を仕留めましたし、フィニッシャーのキレは抜群で、試合としてもテーブル葬やHOTの乱入込みで何とかスケールアップはできたかなと思います。

しかしながら、海野がやはりエースに選ばれる運命というのもこの試合を通して伝わってきたというか、華は間違いなくあり、ワンシーンワンシーンがとにかく印象に残るんですよね。試合のクオリティはそこまでではなくとも、振り返ったときに確実に思い浮かぶシーンがあり、そこには必ず海野がいる。これはエースとして大事なことであり、これはやはり才能と呼ばれる類のものなのですよ。厳しいことを色々と書きはしましたが、ある意味では今のキャリアと年齢ならこんなものかなという感じもあり、棚橋や中邑だって同じ年齢の頃の試合のクオリティでしたし、二人とも才能が開花して名勝負を叩き出したのは30過ぎてからでしたしね。それを思えばまあそこまで叩くほどでもないかな、とも。試合内容は経験と時間が解決するものなので、僕はあまり心配はしてないです。ただ、まだ夢中にはなってないので早く夢中にさせて欲しいですよ。

試合後の海野のマイクは流暢で、堂々たるエース宣言。叩かれることもコミコミで歩んでいく決意の表れでしょう。当面はNEVER戦線に行って下積みしそうな気はしますが、その間に新世代の誰かにIWGPかG1優勝を果たされそうで、そのときに「嫉妬」という感情が芽生えそうで、それを思うとワクワクしちゃいますね。今はまだ若さでエースという道へと突っ走れる。しかしながら、自分が本当はエースではないのでは?という難問にブチ当たったそのときに真価が問われるのだと思います。パラダイムシフトはまだ過程に過ぎず、その時が訪れるのを楽しみに待っております。







わずか2試合のレビューとなりましたが、存外長くなってしまいました……。厳しいことは書きつつも、しかし語ることが多いというのはそれだけ語る内容のある試合だったということであり、自身の抱いた不満や期待がこれから先にどういう形で変化し、成就していくかが楽しみです。だからこそ素直な感想を記しておくのが大切なことであり、見続けていくことが大事なのかもしれませんね。ではでは、今日はここまで。


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