「車いすカーリングに恋しちゃった」新しい選手たちのはじめの一歩

チーム・協会

【photo by TEAM A】

2023年11月、フィンランド・ロホヤの氷上――これまで見なかった国の選手たちの姿がありました。南ヨーロッパのスペインと南米のブラジルです。氷をはくスウィーピングがなく、寒さとも戦う車いすカーリングをなぜ始めたのでしょうか。「世界車いすBカーリング選手権2023」に初出場した、超陽気な車いすカーラーたちを直撃しました!

氷の上でノリノリ

スペインといえば「情熱の国」です。大会に出場していた選手たちも、明るくてフレンドリーな性格の人ばかり。一度知り合えば、いつでも「オラ!」と声をかけてくれます。

選手たちが本格的に車いすカーリングを始めたのは、2023年3月から。わずか8ヵ月で世界大会初出場となりました。スペイン各地のメンバーによって構成されたスペイン代表。チームの歴史はまだ浅いけれど、チームワークとノリの良さはピカイチ! 【photo by TEAM A】

――どこで車いすカーリングを知ったんですか?

ベルトランド・トラモント(以下、ベルトランド): 何年か前にテレビで観たんだ。普段からスポーツをやってるんだけど、歳を重ねてもできそうな車いすカーリングに興味を持ったんだ。

アナ・ナダル(以下、アナ): 私もテレビで観て。私は車いすラグビー、アルペンスキー、馬術をやっているんだけど、ほかのスポーツにも興味があったの。体験イベントで車いすカーリングをやってみたらハマっちゃった。

もぐもぐタイムのために生ハムを持参? 車いすの仲間たちとセーリング、自転車、スキーなどいろいろなスポーツを楽しむ超行動派のベルトランド。グラフィックデザイナーの顔も持っています 【photo by TEAM A】

――初の国際大会出場、苦戦したことは何ですか?

アナ: 投球の力加減が難しい……。刻々と変わるアイスの状態も読まないといけないから、やっぱりもっと練習と経験が必要。

ベルトランド: 先の先を読んで、という戦略が未熟だった。車いすカーリングは、たくさんのことを一度にやるから難しいね。

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スペインにカーリング場はあるの?
車いすカーリングの練習ができる場所は、国内に1ヵ所(ハカ)だけ。アイスリンクは秋から春にかけて5ヵ月間ほどしかオープンしておらず、ほかの競技も使うため、予約がほとんどとれないそう。アイスコンディションもよくないため十分な練習ができず、選手たちはイギリスやイタリアに移動して練習することもあります。
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いつも笑顔のアナ。試合中もカメラに向かってポーズをとったり、笑顔でチームを盛り立てます 【photo by TEAM A】

――大会に出場したことで、何か変化はありましたか?

アナ: 世界大会に参加できたことを友だちも家族も喜んでくれているし、新しい歴史をつくることができてとっても嬉しいの。残念ながら、YouTube配信で私が投球しているところは映らなかったみたいだけど(笑)

ベルトランド: 素晴らしい経験になったよ。今年の初めに関係者の1人が「世界大会に行こう!」と言ったんだけど、「そんなの不可能だよ。車いすカーリングを1度もやったことがないんだから」と答えた。でも、私たちは世界大会に出場することができた。拮抗した試合もあって、キャリアの長い国の選手たちとプレーできたことにとても満足しているよ。

スペインの代表格はフラメンコ? 「いいえ、お祭りで踊るのは『セビジャーナス』よ」と、華麗なチェアワークを披露してくれました! 【photo by TEAM A】

チームは“家族”

同大会9位だったブラジル代表メンバーはみんな、日系企業が多いことでも知られるサンパウロの出身です。ブラジル南東部に位置するサンパウロはここ数年の最低気温は13度で、「本当に寒い日で10度くらい」のあったかさ。

普段はライバル関係にある国内の2チームから選出された代表メンバー。車いすカーリングの強化は2022年3月に本格的に始まり、コーチを含め競技経験の浅い人たちの集まりですが、車いすカーリング愛はほかのチームに負けていません! 【photo by TEAM A】

――車いすカーリングのどんなところが好きですか?

ジェロニモ・ガブリエル(以下、ジェロニモ): 戦略的なところだね。チームのみんなが力を合わせて戦うという要素も好き。

イェザ・ソウザ(以下、イェザ): 家族みたいなチームの絆かな。

ジェロニモ: イェザみたいに若いアスリートと年齢の高い選手が一緒にプレーできるし、成長を一緒に感じられるところもいいよね。

ブラジルのジェロニモは、車いすバスケットボール、水泳、アーチェリーにも取り組む四刀流アスリート。仕事は引退し、現在は選手活動に専念しています 【photo by TEAM A】

――試合中の様子を見ていると、個のキャラクターが強そうです。ジェロニモ、キャプテンとしての苦労はありますか?

ジェロニモ: 大変だね。気持ちをぶつけて、チームのバランスをとるときもある。でも忘れないようにしていることがあるんだ。それは、勝ったときも負けたときもみんな一緒、つまり「正しいときはみんな正しい、間違いはみんなの間違い」。みんなで勝敗を分かち合うことが大切だと思ってる。

――それにしても、アイスリンクに長時間いるだけで大変そうですね……。

イェザ: ほんと凍っちゃう! 車いすカーリングを始めたときは、体験したことのない寒さにびっくりして、氷の上に乗るのも少し怖かった。でも防寒着を重ね着すればへっちゃらだよ。

「この代表ユニフォームは私のものだから誰にも渡さないよ!」とイェザ。「BBQおじさんと一緒にやってます(笑)」とも。BBQおじさん? 口うるさい中年おじさんのことをこう呼ぶんだとか 【photo by TEAM A】

――競技をやっていることに対して、周りの反応はどうでしたか?

イェザ: 友だちも家族も驚いてた。「私、車いすカーリング選手なんだ」といったら、「えっ?」とか「カーリングって何?」って。でもみんなサポートしてくれて、大会のYouTube配信を観てくれたり、そのURLをSNSでシェアしてくれたり、すごく応援してくれてる。

――初めての世界大会で勝つ経験もしました。

ジェロニモ: 緊張していたけど、大舞台に立てることを素晴らしいと感じたし、最初のブラジル代表になれたことも誇りに思う。大会が始まったときはちょっと心配だったんだ。ほかのチームは素晴らしい歴史を持っていたり、パラリンピックにも出場したりしている。こんなチームと対戦して本当に大丈夫かなって。だからスペインに1勝を挙げられたことは、大きな仕事をやってのけたし、短い間ですごく成長できた。上手にはできなかったかもしれないけど、大会を通じてよく戦えたと思う。

ビビットなピンクが目を引いたデリバリースティック。ジェロニモは「実は資金不足でいいスティックが買えなくて……。それを知ったイングランドチームが貸してくれました」と、国を越えた交流を明かしてくれました 【photo by TEAM A】

――選手たちの目標は、パラリンピック出場です。バモス(行け)スペイン&ブラジル!

interview by Reiko Shikama(TEAM A)
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※本記事はパラサポWEBに2024年1月に掲載されたものです。
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