【順天堂大学】世界体操を終えて見えたもの、そしてパリオリンピックへ ~日本体操界をリードする5人に聞く~ (前編)
【JUNTENDO UNIVERSITY】
世界選手権は団体で男女とも狙い通りの結果に
冨田 男子チームとしては、まず団体での優勝が第一にあり、そこでしっかり勝ちをつかんでオリンピックに臨みたいという狙いがありました。それから、橋本選手の個人総合連覇と、種目別の鉄棒で必ず金メダルを獲って終わりたい、というのも目標だったので、目指していたことは達成できたかなと思います。
橋本 「団体で金メダルを獲ること」が一番の目標でした。僕自身、今まで4年間日本代表で戦ってきて、この大会までは団体での金メダルがなく、団体金への思いが年々強くなっていました。団体で金を獲れば、その勢いで個人総合、種目別も金、と良い流れでいけると思っていたので、とにかく団体金を目標に高いモチベーションを持って大会に臨んでいました。
萱 団体での金はもちろん、僕はキャプテンでもあったので、「練習からチームがまとまるように大会前の代表合宿を大切にしよう」という意識がありました。強豪国に勝ち、団体で金を獲るためには、全員に日の丸を背負う高い意識と覚悟が必要です。限られた合宿期間の中で、全員一緒に無駄のない練習ができたこと、コミュニケーションを取ってチーム力を高めたことが、この結果に繋がったと思います。
団体総合金メダルを獲得した男子日本代表チーム 【共同通信社】
宮田 原田先生のおっしゃる通り、個人としては、個人総合で「前回の世界選手権より上位に入ること」を目標にしていました。前回は初めての世界選手権だったので、思い切って演技ができ、個人総合で8位という結果もついてきました。その結果が出た分、今回は気持ちの面で背負うものが大きく、けがの影響もあって正直うまくいかないことも多かったです。ただ、今はオリンピックの前に「うまくいかなかった経験」ができて良かった、と前向きにとらえています。
パリオリンピック出場権獲得を果たした女子日本代表チーム 【共同通信社】
予定外のメンバー変更も「やるしかないっしょ!」
冨田 団体総合で言えば、誰がどの種目を演技するかがカギになるのですが、現地での直前合宿中、残念ながら三輪哲平選手(スポーツ健康科学部2023年卒・セントラルスポーツ所属)がけがをしてしまって、予定していた通りにはいかなくなりました。大会が始まってからも、予選の後に急遽橋本選手に平行棒にも出てもらうことになったり、今回は戦略どうこうより、もうその場その場でやっていくしかなかった、というのが正直なところです。
原田 それは、女子団体も同じでした。全日本選手権の個人総合で優勝した渡部葉月選手(筑波大学)がけがをして欠場することになって、軸になる選手が一人抜けてしまった。その後の合宿でいろいろ組み立ててはいきましたけど、結局は「もうやるしかないっしょ!」という状況で……(笑)。そういう状況でしたから、チームとしては「粘り強く」をキーワードに、とにかく最後まで諦めずに試合をするしかなかった。ただ、そんな逆境の中で試合をやりきり、目標だったオリンピック出場権を獲った彼女たちを、誇りに思います。
原田睦巳教授(左)、冨田洋之准教授(右) 【JUNTENDO UNIVERSITY】
宮田 出場する種目が変更になったので、体力的にも少ししんどかったです。ただ、本来予定していた構成を確実にできる構成に変えて調整して、試合で安定した演技ができたので、そこはチームに貢献できたと思います。
萱 僕は三輪選手が出る予定だった跳馬に代わりに出ることになり、その結果5種目に出場することとなりました。以前、団体で6種目全てに出た経験があるのですが、その時より自分が強くなっている自信もありましたし、そこまで焦りは感じなかったですね。
橋本 今まで、世界選手権はあまり順風満帆な状況で試合に臨んだことがないような気がするんですよ。今回も、日本を出発する前から最悪の事態を想定して、「(団体総合は)5種目の予定だけど、何かあったら6種目出られる準備をしておこう」と覚悟はしていました。なので、急遽平行棒に出ることになっても「行けます」という返事ができたし、前向きに対応できたと思います。
萱 三輪選手は跳馬で高得点が出せる選手なので、ただ代わりとして出るだけではなく「三輪選手の分も良い跳躍をして高得点を取るぞ」という思いも乗っかっていたからか、団体決勝の跳馬のロペスは、自分史上最高の出来だったんです。2020年から取り組んできた技で、なかなか着地が収まらなかったのですが、世界選手権の団体決勝という舞台で、今まで考えられないような良い跳躍ができた。高難度の技を、決めるべき時に決められた、というのは大きな収穫になりました。
宮田笙子選手(左)、橋本大輝選手(中)、萱和磨選手(右) 【JUNTENDO UNIVERSITY】
念願の“団体金”。それでも喜びきれない
冨田 勝ちにこだわって臨んだ試合で、実際に勝てた。この経験は、大きいと思います。急なメンバー変更にもしっかり準備して対応してくれた選手たちには頼もしさを感じましたし、しっかり準備できればオリンピックでも目標を達成できる、というチームとしての手応えをつかんだ試合にもなりました。今回代表から外れた選手も、団体金という結果で「次は自分が」という気持ちを高めたはずですし、日本の体操界全体として、良い影響を与えられたのではないかと思います。
原田 団体メンバーが変わって、ベストではない状況でも、彼女たちが自分の実力を発揮してオリンピック出場権を獲るところまで持っていけた、というのは大きな収穫でした。要は「やればできることが分かった」ということですよね。ただ、選手も私も「出場権獲得」だけに集中してしまって、予選で8位になって出場権が決まった後のプランが、明確に見えていなかった。そこは次に向けての課題かなと思います。
冨田 課題で言うと、決して完璧な試合運びではなかったところはあり、ミスが出たところは修正が必要ですし、ライバルの中国に勝つことを考える上では、やはり苦手種目の吊り輪の克服は課題です。優勝したとはいえ、この成績でぬか喜びしている選手やスタッフは一人もいません。それよりも、見つかった課題をどう修正していくかという意識の方が強い。そういう意味では、これからの伸びしろに期待できると思います。
原田 女子は今、ライバル国の強化がかなり進んでいて、私たちも選手自身も、このままではオリンピックで戦えないのではないか、という危機感を持っています。ただ、やればできることは分かったので、戦い方次第ではもちろん良い結果が出せると思っていますし、決して悲観はしていません。
萱 そうですね。団体金はもちろんうれしかったのですが、決勝では前半思うように戦いを進められずに苦しんだので、どこかで100%喜びきれないというか。いくつか課題も見えたので、そこが解消されないとオリンピックでは勝てないと感じました。ただ、「オリンピックの前年に優勝した」ということは、世界にインパクトを与えましたし、ライバルの中国にもプレッシャーをかけることができた。何より、日本が「団体で勝つ勝ち方」を肌で感じることができたのは、オリンピックの前年としては本当に大きな成果だったと思います。
― 後編に続く ―
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Profile
冨田 洋之 准教授(順天堂大学男子体操競技部監督)
萱 和磨 選手(大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程3年・セントラルスポーツ所属)
橋本 大輝 選手(スポーツ健康科学部4年)
宮田 笙子 選手(スポーツ健康科学部1年)
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