【大学ラグビー】関東対抗戦グループ入れ替え戦、伝統の日体大が1部復帰

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やったぞ! 1部復帰。 関東大学ラグビー入れ替え戦、日体大が成蹊大を撃破

 「いちぶぅ、上がったぞーっ」。12月17日夜。熊谷ラグビー場そばのホテルの大部屋。関東大学対抗戦Aグループ(1部)復帰を決めたばかりの日本体育大学ラグビー部の懇親会で、秋廣秀一監督の雄叫びが響きわたった。歓喜の爆発。感涙にむせぶ部員、OB、保護者の姿もあった。
 伝統の日体大がBグループ(2部)に転落してちょうど1年。入れ替え戦の相手は同じく成蹊大、場所も同じく熊谷ラグビー場。この日は青空がひろがり、遠くに雪をかぶった富士山のてっぺんがみえた。“赤城おろし”の強風がびゅうびゅう吹いていた。
 ただ、昨年の入れ替え戦とは立場がちがった。今年はAグループ8位の成蹊大にBグループ1位の日体大が挑む構図だった。スタンドには、日体大のOB、ラグビー部女子、ファンら数百人が押し掛けた。「ニッタイ、ニッタイ」の歓声がつづく。入れ替え戦としては異例の“大観衆”(公式発表1373人)といっていいだろう。

◆狙い通りの先制攻撃

 その声援を背に受けて、日体大は先制パンチを繰り出した。キックオフ直後、フッカー萩原一平が猛タックル。PKをタッチに蹴り出し、ラインアウトからサインプレーが決まった。この決戦のために準備してきたスペシャルプレーだ。ロックの岸佑融が好捕し、すぐに出したボールをSH小林峻也副将がタテに切り込んだ。
 相手タックラーが寄ってきた刹那、左にパスして、右ウイングの中村元紀が鋭利するどく、ピュッと宙を滑った。右中間に先制トライ。電光掲示板のタイムはわずか「1分20秒」だった。中村の述懐。
 「仲間を信じて走り切りました」
 前半10分にはラインアウトからのモールをぐりぐり押し込んで、プロップ築城峻汰がトライを重ねた。その2分後、SO小田晴陽が判断よくオープンにキックパスし、CTB齋藤弘毅が右手を突き上げながらインゴールに走り込んだ。前半序盤で17点を先取した。

 ◆秋廣監督「努力が実ってよかった」

 今季のチームスローガンが『Battle』、そして『先手必勝』がこの日の狙いのひとつだった。自分たちの強みであるテンポのはやいアタック、前に出るディフェンス。これまでの順目、順目の攻めパターンから一転、この日は機を見ての逆目のシステムも採り入れた。秋廣監督は試合後の記者会見で「この日のために1年間がありました」と言った。
 「キャプテンを中心に日々精進しながら、やってきました。非常に苦しい日々でした。でも、その努力が実ってよかったと思います」
 前半終了間際、成蹊大にトライを返され、嫌な空気が流れだした。20-5で折り返した。
後半開始直後も、準備したスペシャルサインから、SO小田―プロップ久次米洸とつなぎ、相手ディフェンスラインを開かせたところにFB大野莉駒がタテに刺ささるように走り込んだ。ゴールも決まり、27-5となった。

◆乱れた規律。日体大が反撃許す

 このまま楽勝ペースかと思われたが、成蹊大とて、このシーズン、Aグループで戦ってきただけにフィジカルの強さがある。意地もある。加えて、この日のテーマの『規律』が乱れる。反則を連発。
後半、強烈な風下サイドの日体大はスクラムで後手を踏み、3連続トライを奪われてしまった。27-20の1トライ(ゴール)差に詰め寄られた。
ラスト10分は防戦一方だった。同点トライ(ゴール)をとられたら、Aグループ昇格は水泡に帰す。耐えて、耐えて、フォワードがハードワークを続ける。厳しいタックルを繰り返す。とくにフランカー伊藤拓哉主将、大竹智也のそれは胸を打った。
キックされたボールをしつこく追って、FB大野がナイスタックルを見舞わせた。このラスト10分のチーム一丸となっての我慢にこそ、日体大の努力と成長の跡が垣間見えた。記者会見で、伊藤主将は「勝てる自信があった」と言い切った。
 「自分たちが先にリードする形を想定して、練習をやってきました。終盤は、成蹊大さんの粘り強いアタックやディフェンスに苦しむ場面があったんですけれど、それも想定して、きつい練習をやってきました」

 ◆胴上げの伊藤主将「サイコーです」

 辛抱した分、ノーサイドの瞬間、喜びが爆発した。スタンドに陣取ったノンメンバーからも雄叫びが飛ぶ。「ヤッターッ」「いちぶだぁ~」。グラウンドでは、秋廣監督、湯浅直孝ヘッドコーチ(HC)らに続き、伊藤主将も宙に舞った。幸せな風景がひろがった。
 「サイコーです」と、伊藤主将の声がはずむ。「1年間、この日の試合に勝つためにチームできつい練習をやってきました。それが実を結び、目標の1部復帰を果たせました。また、来年の学生たちが強い日体大を取り戻すべく、頑張ってくれると思います」
 プレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に輝いた大野はまだ2年生。
 「ここからスタートです。3年生以下は来年もがんばりましょう」

 ◆環境改善。“ふっきメシ”効果も

 日本体育大学は、この国のラグビー史に欠かすことのできぬクラブである。かつて、素晴らしくオープンなランニングラグビーで日本を席巻した。1969(昭和44)年のシーズンでは、どこよりも走り回って日本のチャンピオンにもなった。
 その伝統チームが昨年、入れ替え戦で成蹊大に敗れ、Bリーグ降格が決まった。屈辱だった。体制は一新され、秋廣監督、湯浅HCらのスタッフ陣となった。ラグビー部長も代わった。新チームの目標は単純明快だった。
 『1部復帰!』
 そのために環境も整備された。例えば、OBや保護者、教職員、ラグビー関係者の寄付を財源とし、シーズン中は昼食にスタミナ弁当が提供された。名付けて「ふっきメシ(一部復帰必勝メシ)」。部員の体重が昨年シーズン最後はスタート時から平均2~3キロ落ちたが、今年は逆に平均1~2キロ増えた。フィジカルもアップした。
 夏合宿直前には、強豪の日体大レスリング部との合同トレーニングに挑んだ。試合数を増やし、シーズン中にも帝京大や東海大との練習試合をお願いした。Aチームだけでなく、Bチーム、Cチームの練習試合も増やした。秋廣監督は「昨年の倍は試合を組みました。チーム全体のモチベーション、コンタクトレベルを上げるためです」と説明する。
 伊藤主将が言葉を足す。
 「Aチームだけでなく、チーム全体で同じ矢印で、1年間、取り組んできました。昨年の(入れ替え戦の)ことを忘れずに日々の練習に取り組んできました」

 ◆次の目標は大学選手権出場

 Bリーグを7戦全勝で1位となり、入れ替え戦で昨年の雪辱を果たした。
 献身的なプレーを見せたロックの岸佑融は「悔しいものがあった」と漏らした。
 「1年間、ずっと、もやもやしたものがあったんです。まだまだ力不足。でも、やっとで、やり返すことができました」
 正直、Aグループの上位校と比べると、日体大のチーム力は大きく劣る。フィジカルも、パワーも、スピードも、スキルもちがう。判断のはやさも遅い。もう一段、二段のレベルアップを図らなければ、Aグループで戦っていくのは難儀だろう。
 渡邊徹コーチは、「(勝因は)あきらめなかったことじゃないですか」と話し、さらに言葉を足した。
 「来年はFWをもっと強くします」
 湯浅HCは懇親会で3年生以下の部員たちに語り掛けた。
 「もう、この場(入れ替え戦)にはこないよう、来年は大学選手権をめざして頑張りましょう」
 言葉通り、来年の新たな目標は全国大学選手権出場である。ラグビーマガジン誌の記者から、「現在地は?」と聞かれると、秋廣監督は少し考え、こう応えた。周囲からは「日体大はBグループにいてはいけない」と言われ続けてきた。
 「チームを1部に上げることにホント、プレッシャーがありました。これで、やっとスタートラインに立ったかなという感じです」
 そう。Aグループでも、チャレンジはまだ続くのだった。
              (松瀬学)

やったぞ、1部復帰。成蹊大を下し、歓喜に沸く日体大フィフティーン(17日・熊谷ラグビー場) 【撮影:森屋朋子】

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著者プロフィール

本学は、「體育富強之基」を建学の精神とし、創設以来、一貫して、スポーツを通じ、心身の健康”を育み、あわせて世界レベルの優秀な競技者・指導 者の育成を追求し続けてきたことに鑑み、「真に豊かで持続可能な社会 の実現には、心身ともに健康で、体育スポーツの普及・発展を積極的に推進する人材の育 成が不可欠である。」と解釈し、科学的研究に裏付けされた競技力の向上を図りつつ、スポ ーツを文化として幅広く捉え、体育・スポーツを総合的・学際的に探究する大学を目指し、 各学部、各研究科がそれぞれ目的を掲げ、教育研究を行なっている。

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