【順天堂大学】パラアスリートにより充実したサポートを ~東京デフリンピックを支えるスポーツドクター~

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【JUNTENDO UNIVERSITY】

第1回大会から100年目を迎える2025年、ろう者のためのオリンピック「デフリンピック」は、東京を会場に日本で初めて開催されます。前回のデフリンピックブラジル大会に医師として参加し、パラスポーツのメディカルサポートや認知度向上に力を注いでいるスポーツ健康科学部の塩田有規准教授に、東京デフリンピックやインクルーシブ社会への思いを聞きました。

初めてづくしだったパラスポーツの現場

「障害者スポーツの大会」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか?
多くの方は「パラリンピック」を真っ先に想像されると思うのですが、実はパラリンピックのほかにも、障害があるアスリートが活躍するスポーツ大会はたくさんあります。その一つが、「きこえない・きこえにくい選手のためのオリンピック」であるデフリンピックです。

デフリンピックは、ろう者のための国際的なスポーツ大会として4年ごとに開催され、次の東京大会は第1回大会から100年目に当たる記念すべき大会で、日本での開催は初めてとなります。私は、2021年のブラジル大会に日本選手団のドクターとして参加し、現在は東京大会に向けて医療体制の構築などの準備に携わっています。

2021年に開催された東京パラリンピックは、多くの方がパラスポーツを知り、触れるきっかけとなったと感じます。私自身も、初めてパラスポーツと関わったのが東京パラリンピックで、開催前年に『障がい者スポーツ医』の資格を取得しており、陸上競技会場のドクターを務めました。これを機に、デフリンピックブラジル大会、アジアユースパラ競技会、知的障害者の競技会であるスペシャルオリンピックスベルリン大会の日本選手団に帯同する機会をいただきました。

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私は、整形外科やスポーツ医学を専門とし、ラグビーチームの東京サントリーサンゴリアスのチームドクターも務めていますが、東京パラリンピックまでは障害者の方と深く関わった経験がほとんどなかったため、現場では初めてのことばかりでした。初めて診る疾患もありましたし、選手と話していて、障害があることでつらい思いをしてきたのだろうと感じることもありました。何より、選手たちが自分の身体をうまく使う方法を見つけて、自分にしかできない方法で高い競技力を発揮していることに、純粋に感動を覚えました。そのような選手たちに対して、私が力になれることがあるならもっとサポートしたいと思うようになり、今はパラスポーツのメディカルサポートに積極的に関わっています。

障害があってもなくても「アスリート」

パラスポーツの現場に関わるようになって感じているのは、「障害があってもなくてもアスリートはアスリート」という一言に尽きます。もちろん、障害や疾患が原因で体調を崩す選手が出やすく、パラの現場の方が医師の仕事が多いのは確かですが、スポーツドクターとしてそれほど特別なことをしている感覚はありません。

アスリートを診察する時には、普段病院で診察する時の常識を当てはめることができないさまざまなことが起こります。たとえば、試合の迫っている選手が怪我や病気になった場合、普段であれば絶対にスポーツをさせないような状態でも、スポーツの現場では、「それでもやりたい」と選手から強く求められることが実際にあり、やらせてもいいのか、やらせてはダメなのか非常に悩むことがあります。そして、選手自身と監督やコーチからもミリ単位でのDecisionを求められます。「2〜3週間程度で復帰できますよ」などという曖昧な判断は許されません。

また治療に関しても、1%でも改善の見込みがあるのなら、それにかかるコストや時間に関係なく、治療を行うこともあります。そのような競技にかける選手の強い思いは、障害があってもなくても変わりません。教科書通りの対応ではなく、今ここで何ができるか、何が必要かを瞬時に考え、選手と密にコミュニケーションを取りながら判断し、対処するのがスポーツドクターの仕事です。臨機応変な対応が求められるのは、ラグビーのリーグワンでも、パラリンピックやデフリンピックでも変わりませんし、その点ではこれまでのスポーツドクターとしての経験がとても役に立ちました。

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また、パラスポーツの現場では「医師の仕事が多い」と言いましたが、実は、医師以外の仕事もたくさん経験することができました。帯同するスタッフが少ない遠征では、普段はトレーナーが担当する仕事をしたり、時には選手の練習場所の交渉をしたこともありました。大変なこともありますが、新しい出会いがあり、新しい経験ができることが純粋に楽しいです。研究者としても、遠征時の外傷、障害、疾病の発生状況や対応について記録を取り、今後の研究活動につなげていこうと考えています。

経験と知識をパラアスリートに還元

障害があってもなくても同じだと感じる一方で、パラアスリートが健常者のアスリートと同じようにサポートを受けているとはまだまだ言い難い、という現実もあります。医療面で言えば、健常者のアスリートが受けている治療やコンディションの作り方を「知らない」「受けたことがない」というパラアスリートが少なくありません。デフリンピックやスペシャルオリンピックスには、普段から順天堂でアスリートの治療に当たっている看護師、トレーナーとチームを組んで参加しましたが、たくさんの選手が私たちの治療に興味を持ち、喜んでくれました。私自身も、彼らに求められていることがとても嬉しかったです。

障害の有無に関係ない医療をチーム『順天堂』でサポートする 【JUNTENDO UNIVERSITY】

健常者のアスリートが受けている治療がパラスポーツに共有されにくい背景には、やはりまだまだ社会的認知度が低く、健常者のスポーツとパラスポーツの両方を経験している医療関係者が少ないという事情があると思います。私はパラスポーツに関わってまだ3年ほどですが、これまで長くパラアスリートをサポートしてきた先生方もいらっしゃいます。そうした先生方から勉強しつつ、これまで私が研究やスポーツの現場で経験してきたことや得た知識を少しでも多くパラアスリートのみなさんに還元していきたいですし、より専門的な治療やケアを受けられる環境がつくられるよう、パラスポーツに関わるスポーツドクターやトレーナーが増えることを願っています。

東京デフリンピックの「その先」に向けて

東京デフリンピックまであと2年。順天堂では現在、大会期間中の選手の受け入れ病院になることを視野に、AI手話翻訳ツールの活用や機能向上に取り組みながら、ろう者や難聴者が受診しやすい病院づくりを進めています。さらに、メディカルとしての役割はもちろん、大会の認知度向上やボランティア募集にも貢献したいと思い、学園祭でのイベントをはじめとした、様々な企画を計画中です。

今はまだ、パラリンピックは知っていてもデフリンピックは知らないという人がほとんどですが、ただ知らないだけで、知ってもらえたら関わりたいと思ってくれる人はたくさんいると思っています。私がパラスポーツに関わり始めたのは本当にたまたまで、「障害者のために何かしたい」という強い思いを持って始めたわけではありません。ただ、たとえきっかけが「たまたま」でも、ご縁があって関わり始めると、今までできなかった経験ができ、知らなかったことを知ることで、一生懸命競技に取り組む選手たちの力になりたいと感じました。こういったことが今の活動に繋がっていると思います。あまり堅苦しくならずに、まずは私たちが楽しくパラスポーツと関わっている姿を発信して、少しでも多くの方に興味を持っていただくことが大切だと思っています。

第24回夏季デフリンピック競技大会(ブラジル:カシアス・ドスル)サポートメンバー 【JUNTENDO UNIVERSITY】

また、デフリンピック以外の分野でも、スポーツ健康科学部の特別支援教育を専門とする先生方と協働して、スペシャルオリンピックスのアスリートのコーチングや、知的障害がある人とチームを組んで競技するユニファイドパートナーの育成サポートなども考えています。こうした活動が目指すのは、東京デフリンピックやパラスポーツの盛り上がりはもちろん、その先にあるインクルーシブ社会の実現という大きな目標です。

パラスポーツと関わりその楽しさを知っていただくことは、障害があってもなくても誰もが暮らしやすい社会の在り方と、それをどのようにつくっていくのかを考えるきっかけになると思います。今後も医学的なサポートはもちろん、さまざまな側面からパラスポーツと関わり、たくさんの人を巻き込みながら、すべての人が支え合って共生するインクルーシブ社会の実現に少しでも貢献していきたいと考えています。

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プロフィール

塩田 有規 SHIOTA Yuki
順天堂大学スポーツ健康科学部 准教授

2004年 長崎大学医学部卒業。医学博士(順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学)。2022年4月より現職。専門は整形外科(肩関節)、スポーツ医学。肩関節疾患の診断・治療、肉ばなれの原因解明・治療、障害者スポーツなどの研究に従事。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医。
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著者プロフィール

スポーツ健康科学部は「スポーツと健康」に関する多角的な視点、専門性並びに高い倫理観を備え、スポーツを通じて持続可能な社会の構築に貢献できる人材を養成することを目指しています。 スポーツを「する」「みる」「ささえる」「ひろげる」というさまざまなアプローチで、学生一人ひとりの能力や強み、そして、可能性を最大限に伸ばすことができるサポートを備えています。

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