バスケW杯開催を誇りと自信に変えて――沖縄が目指す明るい未来とは
【photo by Tomoaki Kudaka】
子どもたちに“世界”と触れる機会を
沖縄の歴史に残る大会の舞台となった沖縄アリーナ 【photo by Tomoaki Kudaka】
「今大会は安心安全に盛り上がって成功することはもちろんですが、開催地支援協議会としては、この大会をきっかけ・チャンスと捉えて、今後の沖縄を担っていく子どもたちに、世界に向けて視野を広げ、ビジョンを描けるようになっていただきたいという思いがあります」
W杯開催を通して子どもたち中心に行ってきた活動について目を細めながら話す、沖縄県文化観光スポーツ部スポーツ振興課の宮平洋志さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
共催国インドネシアの子どもたちとオンラインで交流する子どもたち 【写真提供:FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会】
「スポーツアイランド沖縄」を目指して
試合に招待された島の小学校の生徒からは手作りの感謝状が届いた 【photo by Tomoaki Kudaka】
「いやあ、嬉しいですよね。大きなことを言えば、スポーツの力で自分たちの未来も変えることができるということを子どもたちに感じてほしいです。でも、そうした難しいことではなく、純粋にこの大会を見た子どもたちがもう少し大きくなってこの大会を振り返ったときに、これは凄いことだったんだなと感じて、自分も何か沖縄、日本、世界のために少しでもポジティブな活動をしてみようと思うきっかけになる――このW杯での体験がそうなればと思っています」(宮平さん)
世界の大きさ・広さ、または多様さをその目で見て、肌で直接感じることで、逆に自らのルーツである沖縄の社会・文化をより一層深く理解することもできるだろう。
バスケットボールW杯を見て育った子どもたちは、未来の沖縄をどのように変えていくのだろうか。今後の沖縄を考えていく上でキーワードとなるのが、県が2022年3月に策定した「第2期沖縄県スポーツ推進計画」の中で掲げた「スポーツアイランド沖縄」というコンセプト。スポーツの力で心身の健康や様々な社会課題を解決し、県全体を活性化させていこうという取り組みだ。
W杯の成功、そしてその先の「スポーツアイランド沖縄」を目指す沖縄県文化観光スポーツ部スポーツ振興課FIBAバスケットボールワールドカップ2023開催支援室の皆さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
沖縄に拠点を置くB.LEAGUEのプロバスケットボールチーム・琉球ゴールデンキングスが昨シーズンに悲願のリーグ初優勝を果たし、来年はB.LEAGUEのオールスター戦が沖縄で開催されることが決定、また、大ヒットした映画『THE FIRST SLAM DUNK』で主人公の宮城リョータが沖縄出身であったことが明らかになるなど、ここ1年を通してバスケットボール熱がますます高まった中でのW杯開催はまさにベストなタイミングだった。と同時に、このW杯をきっかけとした“スポーツの風”が吹き始めている今、この追い風を全身に受けて、沖縄はリゾート観光だけではない新たな価値の形成へと大きな一歩を踏み出そうとしている。
W杯開催後のビジョンを語る宮平さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
W杯を沖縄のみんなで作りあげたレガシーに
W杯を契機とした地域活性化事業の集大成とも言える『KOZA FES 2023』にて、沖縄市経済文化部観光スポーツ振興課の宮里大八さん(写真右)と桃原勇介さん(左) 【photo by Tomoaki Kudaka】
W杯開催を通して、沖縄の文化、伝統芸術、食文化なども紹介される機会が創出された 【photo by Tomoaki Kudaka】
大会開催までの道のりを振り返る沖縄市経済文化部観光スポーツ振興課の宮里さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
「最初に大会1000日前イベントを開催し、その後、定期的1年前、1カ月前など様々なイベントを通して、大会本番を迎えました。はじめはなかなか熱量がどうなるかという感じだったのですが(笑)、今は街なかのシティドレッシングや今回のフェスなど多くの方々が楽しんでいただいており、沖縄アリーナの熱気が街なかにもどんどん浸透しているのかなと思っています」(宮里さん)
行政と商店街で共通のゴールを目指し取り組んできた日々を感慨深く振り返る桃原さん 【photo by Tomoaki Kudaka】
「感慨深いですね。昨年から行政と商店街で協議を重ね、ぶつかりながらも、共通のゴールを目指し、試行錯誤しながら準備をしてきました。今日(27日)が盛り上がることで来週までにはもっと話題になるでしょうし、行政と地域がタイアップして作りあげたことで行政や地域の自信になり、今後、このプライドとノウハウがつながっていけばうれしい、また外から見ても『沖縄市はすごく盛り上がっているな』と見てもらえるよう取り組んできました」(桃原さん)
W杯をきっかけにもたらされるレガシーへ期待を寄せる 【photo by Tomoaki Kudaka】
「大会によって街がこれだけ元気になるということもそうですし、やはりW杯を受け入れることができたという一つの誇り、シビックプライドが生まれるきっかけになるのが今回の大会だと思います。そして今後、他の世界的なイベントも受け入れることができるという経験値を高めるきっかけにもなったと思いますね。私自身もW杯の事業に関わった当事者として自分の経験をどんどん伝えていきたい。また、大会に参加することでこんな楽しいことがあった、色々な文化交流ができたという経験を高めることもできたと思いますので、子どもからお年寄りも含めてより多くの人たちみんなで作りあげたレガシーとして、また次のイベントにつなげていきたいです」(宮里さん)
共生社会の実現を進めるきっかけに
56カ国の人々が暮らす沖縄市も、バスケットボールW杯開催を機に多様性、共生社会に対する意識・理解が向上したのではないかと宮里さんは話す 【photo by Tomoaki Kudaka】
「今大会はバリアフリー、ユニバーサルデザイン、様々な食や文化に配慮したイベントとして行政、地域が一緒になって議論、検討してきました。いろいろな国からたくさんの方が来ることが想定されるので、例えば食文化の違いやヴィーガンに配慮したメニューを提供するフードエリアを設定するなどしてきました。これらの意識がまた今後にも届いて行けば、これからの共生社会のさらなる実現を視野に入れた動きにもつながっていくのではと思います。今大会はそのきっかけになったのではと思っています」(桃原さん)
「沖縄市の商店街では、『ウェルカムんちゅになろう! インバウンド対応 おもてなし講座』が開催されました。同講座では、『語学編』『接客編』としてインバウンドへの対応について学ぶ内容となっていました。また、障がいのある人に向けては、例えば車いすの方が街なかや商店街を通る際に段差のある場所はみんなでサポートするなど、どの店舗のスタッフも実践しています。やさしい街を目指して、地域の方々も取り組み始めていますね」(宮里さん)
宮里さんの説明によれば現在、沖縄市ではその国のルーツを持つ人も含めて56カ国ほどの人々が生活しているという。今大会を契機に、行政と街が一体となってアイデアを出し合い進めていった沖縄市の取り組みは、経済効果だけではなく、誰もが住みやすい街、共生社会の実現という観点からも地域を活性化させていくだろうし、今後、他都道府県の自治体が大きな国際イベントを実施する際のモデルケースともなるのではないだろうか。
FIBAバスケットボールワールドカップ2023沖縄グループステージのサテライト会場となった沖縄市「沖縄こどもの国」のステージでは、沖縄市ジュニアオーケストラメンバーの子どもたちが沖縄グループ出場8カ国の国歌を演奏した 【photo by Tomoaki Kudaka】
text by Atsuhiro Morinaga(Adventurous)
photo by Tomoaki Kudaka
※本記事はパラサポWEBに2023年9月に掲載されたものです。
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