グローカルなチームで光る感謝のチカラ 杉本博昭選手
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、スピアーズ)の最年長選手であるアニキこと杉本博昭選手はスピアーズと共に闘う魅力をこう伝える。
「ヒロ」「ヒロさん」と先輩後輩に関わらず慕われる彼は、チームがレギュラーシーズンを2位で終え、優勝へと向かうこのとき、自身のラグビー人生の集大成を見せようとしている。そんな彼の魅力や現在を知るべく、インタビューの機会を得ることができた。
杉本博昭 (すぎもと ひろあき)/1989年2月27日生まれ(34歳)/大阪府出身/身長181cm体重105kg/大阪工業大学高校(現:常翔学園)⇒明治大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2011年入団)/ポジションはフッカー/愛称は「ひろ」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
マイナスからのレギュラーシーズン
リハビリ中に違う箇所を怪我して思うように行かなかったんです。開幕戦に出られなくて僕の存在価値ってなんだろうって考えたりして。その後、怪我も良くなってきて、第3節の花園L戦で急遽入ってレギュラーシーズンがスタートしたのですが、これじゃダメだと。
復帰して、結果を残さなきゃなのに、更に不甲斐なさを感じて。その頃『もっと頑張らなあかんな』との思いがより芽生えました。急には良くならないのはわかっているので、一歩一歩大切にしてやろうと心がけて今に至る…そういったところです。
―難しいスタートでしたが、シーズンが進む中で見せ場が増えていきました。第5節の神戸戦では久しぶりのフランカー、第13節の神戸戦で遂にトライを決めたときにはファンは嬉しいのを通り越し笑ってしまいました。第15節東葛戦のアグレッシブなプレーやトライへと調子も上がってきました。
第13節のトライでは僕も笑っていました。僕はすごく準備するタイプですが、練習で朝早く来るのも、準備のプロセスがありグランドに出たら100%を心がけています。ラグビーで怪我は必ず起きるもので、極端に言うと明日朝死んじゃうかもしれない、後悔をしたくないから準備する…それが積み重なり第14節から最終節の東京SG戦へと調子は凄く上がっていきました。第15節も多くのボールキャリーにいきましたけど、僕の持ち味はあれだと思うんです。ボールキャリー大好きなんです。
第13節の神戸S戦でのトライ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
本来の強みを出して目標へと
はい、それが杉本博昭かなって。僕は年齢も重ねていて試合数は限られていると思っています。「もうこの試合で終わりだ。これでだめだったらダメだし、良かったらまた選んでくれる」という感覚です。以前は「プレーオフに向けて、優勝に向けて頑張ろう、試合に出続けて活躍しよう」だったのですが、「目の前のことにフォーカスして勝負しよう」に変わりました。ラグビーもプライベートも「今のこの時間を大切に大事に一所懸命やらないと先がない」という考えです。不器用なので目の前のことで勝負しないとだめだな、優勝するにもそこだなと感じています。
ーリーグワンナンバーワンHOを個人目標として掲げられてますが、大きな目標に対して、どのようなマインドセットで臨んでこられましたか?
優勝すればナンバーワンになれるっていうのがゴールだと思うんです。そのために準備のプロセスもそうですし、目の前のことにフォーカスっていうのもそう。なぜラグビーをしているのかが凄く大切だと感じます。理由は沢山あるけど、恩師や同級生への恩返し、家族のため、自分のためでもあります。凄いプレッシャーもあり、自分が自分でなくなっちゃう時もある。そんな時に振り返るのが「なぜラグビーをやっているのか」。メンタルはそれで立ち直っています。試合に出続けるとか、日本代表になりたいとか色々ありますが、ナンバーワンになればついてくるものと考えているので、大きく言わせてもらってます。
指揮官から得たもの
二つあり、一つはボールキャリーやタックルとかコリジョンのところを求められています。フランHCがスピアーズに来た時の僕のプレースタイルは今のものと少し違うんですが、「来たばかりの頃のヒロに戻ってくれ」と言われています。「プレイヤーとしてワールドクラスになるために、コリジョンのところ精度上げていこう」って。
―ステージが上がった感じですね。
二つ目は「お前のことを信頼しているよ」内容です。フランHCの組織づくりはビジネスでも共通点があると思うし、勉強になります。アップデートもされていて、新鮮で刺激的です。
―フランHCが来られてからスピアーズのチーム文化や共通価値観に変化はありましたか?
変わるというか作り上げていっているような感じです。わかりやすく言えば、家みたいに、土地作って、骨組み作って…最後には家が完成するのかなって思います。
―フランHCからは“アンダープレッシャーからウィズプレッシャーヘ”のコーチングも受けました
プレッシャーを受けるんじゃなくて、味方にするっていうのが、フランHCが言いたいことだと思います。人間ってプレッシャーがあると肩に力が入ってしまうのですが、プレッシャーが横にあるのが当たり前で、そこでどう表現するかがベスト4の壁だと思うんです。ベスト4以上に行くのならそのプレッシャーを味方にして、本番でできることをするといった内容です。
杉本選手とマルコム・マークス選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
共に前を向くリーダーシップ
僕、中学校三年生からずっとキャプテンなんです。中3-高3-大学…オール大阪や高校日本代表でキャプテンやらせてもらってきて、その時々でスタイルは変わっています。ずっと同じようなリーダーシップ論でいくと、たぶん今ここにはいなかったのかな。罵声を浴びせたこともあり、いろんな失敗を経て今があります。大学ぐらいから「人にされて嫌なことはしない、自分はこう言われたら嬉しい、こうしたら周りの雰囲気が良くなるんじゃないか」が(発想の)根底にあります。
開幕戦がなくなった時も、もしも僕が応援している選手やアーティストのライブがなくなった時、こう言われたら嬉しいかな・・と考えて行動しました。怪我などの失敗をした時に周りが助けてくれた経験を経て、一言でいえば恩返しなんですけど…。今はラグビーも生活の一部だと思い、作り上げる日々です。
スポーツ選手の価値
ラグビー人口は減ってるんですが、リーグワンのトップの選手としてできることがあるんじゃないかって感じたんです。試合に出るだけが価値じゃない、誰かがシーズン終わりにインスタライブやるとか、小さなことでも、選手がそれぞれ積み重ねて行けば広がるんじゃないか。その一つとして杉本シートをえどりくでやらせてもらいました。
―子ども食堂の体験を通じて、想いに共感され、子ども食堂に通うお子さんをホストゲームに招待する『杉本シート』を作ったと伺いました。
シーズンオフに江戸川区役所に行った時、子ども食堂の話が出ました。部門長が「子ども食堂の子どもたちがラグビーを見たい、大きいお兄ちゃんたちを見たいって言うんだけど行けない」と。もうこれは自分がやるしかないって。それでスピアーズとタッグを組んでやらせてもらいました。
―杉本シートでの子どもたちはいかがでした?
試合後に、「良かったです」って笑顔を見せてもらった時、やってよかったなって思いました。その日がいい日になってくれたら嬉しいなって。来てくれたお子さんがラグビーやってくれたら嬉しいとか、色々な思いを込めてやらせてもらいました。
進化の軌跡、そしてファンと共に最高のステージへ
野球のピッチャーの構えって大体一緒じゃないですか。オーバーでもアンダーでも左右でも投げ方は違うけどストライクゾーンは一緒だからリリースするポイントは一緒。ラインアウトも オーバースローするときはリリースが早くて下のときはリリースが遅い。どのフッカーも持ち方は違うけれど最後は一緒だなって。リフトの最後さえ合えばどんな球でもそこに行くんです。基本的なことですが研究に研究を重ねて、改めてそれが言えるかなって思います。
―実践して行く中で検証されたんですね。
僕は毎年フォームを変えるんです。五年前だったら同じチームのマルコムみたいな投げ方をしていた。肘を真っ直ぐ上げ、その前ならボールを後ろに下げたり、そうやって進化してるんです。現時点がベストフォームですが、完成形ではないです。
―シーズン終わって、レビューする感じですか?
シーズン中はあまりスタッツ取らないですけど、シーズン終わり、今回は九十何パーセントだったなってスタッツ取って研究しています。
―ヒロさんは人をよく観られていますが、ご自身は観察眼がある方だと思われますか?
僕、趣味は人間観察なんです。妻にもよく言われます。たまにそれで目の前の事が疎かになるんですが、その時は反省してます(笑)
―周囲にも心を砕かれますね。試合後の挨拶でも“応援ボードありがとう”のジェスチャーをそれぞれのサポーターに返されて、みんな喜んでいます。
それぞれストーリーがあるじゃないですか。作ってくれる時間を割いて…、そういうのを感じちゃう。一人ひとりにストーリーがあり、そういうのを聞くのも大好きなんです。
―それではプレーオフに向けての意気込み、これからのラグビー人生に対する抱負をお願いします。
今まで積み重ねてきたものを、更に積み重ねていくのが大切かな。個人としてもチームとしてもそこは大きく変わることはなく、プロセスとベーシックなところを信じて準備する、準備した状態で目の前のことにどれだけ(フォーカスして)遂行できるかというので勝敗は大きく変わると思うので、(そこを)しっかりやっていきたいなと思います。
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】
取材を終えて
「オレンジアーミーはファンだけではなく、選手、家族、会社関係、スポンサーなど関わる方全てです。」
彼のラグビー人生において、主語は自分ひとりではない。そんな杉本選手とスピアーズはこれからまさに最大の闘いを迎えようとしている。しかし、闘うのはチームだけではない。彼らに愛され、魅せられてきたすべて人たちの闘いも共にある。ゴールまでもう少し。ワクワクが止まらない。
文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オレンジリポーターdecks
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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