【KMSKデインズ】ACAFP meets the World フットボール・アンバサダー 釜本邦茂氏 対談記事第二弾
【(C) KMSK Deinze】
今回はACAFPフットボール・アンバサダーである釜本邦茂氏を再び迎え、KMSKデインズやACAFPの近況について対談しました。番組から一部を記事化し、スポナビページでもお届けします(※2023年1月下旬収録)。
2022カタールワールドカップ
小野「早速ですが、直近の熱い話題といえば、ワールドカップが熱狂覚めやらぬ中で終わりましたが、いかがでしょうか?」
釜本「日本代表に関しては、ベスト16に行って、かつ最後もPK戦まで行ったというところで、よくやったと思います。グループリーグでドイツとスペインに勝ち、最後の最後まで粘り強く戦ったと思います。」
小野「私は現地観戦していたのですが、日本が負けていたところから、勝ち越したところでスタジアムの雰囲気が変わりました。ドイツ戦では混乱した雰囲気があった一方で、スペイン戦では失点した後もまだいけるんじゃないかという雰囲気がありました。プレイする選手だけでなくそういったスタジアムの雰囲気も含めて試合の勝ち負けに影響を与えていくことを実感しました。」
笹井「釜本さんから見て、日本代表選手の具体的なプレー内容はいかがでしたか?」
釜本「守備で言えば、相手を自由にさせず、非常に固く堅実に守っていました。それはやはり、キャプテンの吉田選手や、遠藤選手が引き締めていたと思います。ただ、攻撃の最後の20-30メートルに入ってからがなかなか突破できない。三笘選手は本当にスーパーサブで、出てくると攻めるリズムが変わって、得点に繋がったと思います。ベスト8に行くにはそういう前線の選手が必要で、点取屋がいないのは長年の日本の課題ですね。」
小野「一体感の話で言うとすごく印象的だったのが、スペイン戦で勝った時に、ベンチのキーパー選手たちが走ってまず守護神の権田選手に向かって行ったシーンです。現地だからこそ見られる場面だったと思いますがそれを見て、本当に良いチームなんだなと思いました。」
KMSKデインズの現状
笹井「ACAFPがオーナーを務めるベルギープロリーグ2部のデインズに関してですが、2022年10月に監督の交代、そして年末にスペインのキャンプを経て、現在(2023年1月時点)上位プレーオフ進出に向けてリーグ戦を全力で戦っています。まずは小野さんからデインズの現状を教えていただけますでしょうか。」
小野「2022年9月末に白石監督と契約解除して次のステップに向かいましたが、戦績はその当時1勝2分3連敗で、地元のプレッシャーもかなり大きかったです。私たちACAFPはデータサイエンスなどにも力を入れていきたいと考えており、選手のデータを客観的に分析した際に、昨年と比べてパフォーマンスが良くないというデータが見えていました。そんな中、現地で経営をしている飯塚がヒアリング等も進めた結果、ロッカールームの雰囲気が良くないという点をなんとかしないといけない、という結論になりました。そこで、非常に辛い決断でしたが、監督交代に踏み切ったのが9月末です。」
小野「その後、暫定監督をアシスタントコーチだったアントニオ (*1)に任せている間、私たちも緊急で10名以上の候補者リストを作り、CEO、SDと一緒に評価を進め、最終的にトップ3名と面接をしました。その結果現在のマーク・グロジャンに就任してもらい、その後は11月公式戦負けなし、ロッカールームの雰囲気もかなり良くなりました。そこで選手たちもリラックスして練習ができ、怪我人も続々帰ってきて年明けを迎えることができました。」
(*1:2023年3月より、ACAFPがオーナーを務めるスペイン4部トレモリーノスCFの監督に就任)
釜本「状況が悪い時はなかなか立て直すのは難しいのですが、その中で一番大事なのは選手とのコミュニケーション。監督がグッと構えすぎると選手もなかなか寄ってこないですから。」
小野「私は今回、あえてこういう言い方をしますが、非常に良い経験をさせていただきました。釜本さんがおっしゃっていたコミュニケーション、ヒューマンマネジメントがサッカーにおいても大事だというのは、経営と似ているなと思いました。デインズはフランス語、スペイン語グループなど話す言語によってなんとなくチームが割れてしまう傾向があったんです。心理的安全性を確保するためにもそれをなんとかしようとした結果、徐々にみんなが交わり始めました。」
釜本「各国の歴史が違う中で、アジア人がヨーロッパの文化圏に混ざっていくのはなかなか難しいところがありますよね。」
笹井「日本人としてベルギークラブのオーナーとして活動される中で、何か気をつけていることなどはありますか?」
小野「私の場合は、現地に飯塚がいて非常に助けられている、うまくできている部分が多いかと思います。2022年は危機が非常に多かったのですが、彼がとにかく大事にしていたことは、良い時も悪い時も、ファンやサポーター、スポンサーとちゃんと向き合ってコミュニケーションすること。みんなが関心のある新監督やデインズのこれからのことはもちろん、一見わかりにくいクラブの戦略やマルチクラブオーナーシップに関する話でも、聞かれれば答えます。辛い時はむしろ逃げたくなると思うのですが、そこを踏ん張って、しっかり丁寧に説明をしてきたと思っています。それが今の良いモメンタムに繋がってきていると思いますので、良い時も悪い時もコミュニケーションを丁寧にしていくことは重要だなと思います。」
釜本「大昔の話にはなってしまいますが、1960年にデットマール・クラマーという人がコーチとして日本に来ました。高校1年の時にその方に出会ってから東京オリンピックまでの間ほとんど日本におられて、僕たちと全く同じ生活をしました。ドイツ人の彼が我々の中に入ってきて、一緒に箸を持って味噌汁中心に朝食を食べる。一緒に風呂に入ってテレビを観る。素晴らしい方だなという印象が強いですが、一方で厳しい部分も覚えています。指導に関しては徹底的でしたね。」
【(C) KMSK Deinze】
笹井「私は浦和レッズの番組も担当させていただいているので、期限付き移籍でデインズに加入した宮本優太選手は、1年間見てきたのですが、本当によく走る選手なんですよ。昨シーズン監督から“ランニングマン”というあだ名もつけられたくらいです。」
小野「Sports Human CapitalというJリーグ認定のスポーツビジネススクールで出会った、浦和レッズの西野テクニカルダイレクターとのご縁が大きかったです。最終的にオランダのフェイエノールトかデインズに選手を練習参加させるという話になっていて、宮本選手含む3選手がレッズから2週間デインズで練習参加しました。その中でクロジャン監督が宮本選手を評価したこと、チームへの溶け込みが良かったこと、本人の意志もあった中で移籍となりました。」
小野「3選手が練習参加していた時に私もお話したのですが、特に宮本選手が”英語は話せないですが、普段と違う環境で発見がたくさんありますし、友達を何人か作って帰ります”と言っていたのが印象的でした。彼みたいにコミュニケーションに目が行く選手は、海外へ行くときっかけさえあれば花開く可能性が高いだろうなと感じたことを覚えています。」
笹井「浦和レッズのサポーターの方々からも頑張ってこいっていう後押しも多いです。宮本選手自身がムードメーカーというか、明るくて笑顔もチャーミングな存在なので、皆さん本当に応援しています。宮本選手は23歳ですが、釜本さんも若い頃海外に出られた経験をお持ちです。若手選手が海外に出ることの意義はどんなところにありますか?」
釜本「本人が何を感じるかが一番重要ですが、やはりフィジカルの差が非常に大きいと思います。私はドイツでプレーをしたのですが、ドイツのコーチは飛行機の長距離移動で体重が落ちてしまうことまで考慮して、移動前にベスト体重から1kg重くするよう調整させるほどこだわるんです。」
釜本「宮本選手の移籍は新聞で知って、関係者に聞いたところ良い選手だと教えてもらいました。浦和でのポジション争いもある中で、今回の移籍は良いと思います。(言葉に関しても)分からないことがあったらすぐ聞く。特に若いうちは恥ずかしいことではないですからね。結果を出して、頑張ってきて欲しいです。」
ACA Football Partnersの事業拡大
笹井「現在ACAFPは様々な事業を拡大させています。クラブをスペイン、ベルギーに持つだけでなく、ベルギー最大級のアカデミー施設を持つFuturosportとの協業など、アジアから若手選手を受け入れて試合経験を積んでもらう様々な機会をご提供されていますが、小野さんからその意図をご説明いただけますでしょうか。」
小野「監督の交代劇がある中でも、グローバルビジネスは淡々と進めましょうということで、11月にフランスとの国境近くに位置するFuturosportという施設の提供者とビジネスパートナーシップを締結しました。私たちがデインズのオーナーシップを持ってから1年になるのですが、私たちはマルチクラブオーナーシップを通して、アジアのプラットフォームになりたいとより強く思っております。若手の育成の場としての方向性をより強めたいと思っているところで、その大事なピースとしてFuturosportと提携しました。ここには12面のピッチがあって、ゆくゆくは市の協力でボーディングスクール設立などの構想も立てています。私たちとしては、シンガポールやベトナムなどアジアのサッカー連盟と協調関係を保って、アンダー世代の合宿の受け入れや、欧州での試合経験を積むためのキャンプ地として使ってもらえるよう、施設を確保しました。
笹井「選手に関してはいかがですか?」
小野「今はデインズに宮本選手が所属していますが、2023年2月からはスペイン4部トレモリーノスCFのオーナーシップも持つことになり、本格的にマルチクラブオーナーシップを開始しました。デインズの経営を1年やっていく中で、アジアのプラットフォームになる方向性と、ベルギーリーグの構造上の課題が見えてきた中で、その穴を埋めるクラブを探している過程でトレモリーノスと意気投合し、買収することになりました。ベルギーリーグはトップチームの次にU-21チームしかなく、U-23チームがない。それは恐らく、現ベルギー代表の黄金世代が表しているように、21歳では既にトップチームにいて、23歳くらいまでには海外へ移籍していくのが彼らのスタンダードになっているからだと思います。ただ、私たちがベトナムU-15選手を2ヶ月受け入れた時にも感じましたが、やはりアジア人選手がヨーロッパで慣れるには多少時間を要してしまいます。20歳でもうトップ昇格かチームを去るかとなってしまうU-21では少し時間が足りない。それがもったいないなというところでトレモリーノスを買収しました。デインズで獲得した若手選手もU-21チームでプレーした後一度スペインに行き、プレー時間を確保してからデインズに戻ったりすることを考えています。今後も更に1-2つクラブを買収したいと考えているのですが、各クラブをただ横に並べるだけではなく、アジア人選手たちの育成も念頭に置きながら、ちゃんと色々な課題を解決し合えるパズルのピースとして拡大をして行きたいと思っています。」
笹井「釜本さんは、今のお話を聞いていかがですか?そういった環境に日本の選手を送るためにはどんなことが必要なのでしょうか?」
釜本「選手を送り込んで成長するまでは、最低でも2-3ヶ月は必要だと思うので、費用面なども解決して、日本の高校生選手などをぜひ紹介したいですね。行きたい選手はたくさんいると思いますし、向こうの文化など色々なことを学んでくることは非常に大事だと思っています。なんとかしましょう。」
笹井「今後小野さんやACAFPが、日本のサッカー業界に対してどのように絡んでいくのかということを教えていただけますでしょうか。」
小野「まだはっきり見えている部分は少ないです。一個一個手探りです。ただ、今回浦和レッズの西野さんと進めてきたように、話が進み始めると次々と連携の可能性が見えてきているので、模索していきたいと思っています。 (*2) 私がプロジェクト立ち上げ前から思っているのは、選手の海外進出が増えている中で、同時に海外で活躍する指導者や経営人材も増やしていきたいということ。Jリーグや日本サッカーについては、選手に限らずもっと広い視点でパートナーシップを組み、より多くの日本からの人材がサッカーに関わってくる、という状況を作ることに貢献したいと思っています。」
(*2:2023年3月、2023明治安田生命J3リーグ所属 FC今治を運営する今治. 夢スポーツと業務提携を発表)
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