グランドスラム東京2022を「踏み込む、一歩」に。 日本柔道のブランディングを担う、井上康生氏の新たな挑戦

SPORTS TECH TOKYO
チーム・協会

【全日本柔道連盟】

スポーツテックをテーマとしたアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」では、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」を開催している。今年度はコラボレーションパートナーとして「全日本柔道連盟」と「日本アイスホッケー連盟」の2団体が参画。今回の記事では、柔道の魅力発信を先頭に立って推進する全日本柔道連盟ブランディング戦略推進特別委員会で委員長を務める井上康生氏をお招きし、12月3日、4日に開催されるグランドスラム東京2022に向けて推進されているブランディングやプロモーションについて話を伺った。
PROFILE
井上 康生(いのうえ こうせい)
1978年生まれ、宮崎県出身の柔道家。2000年に開催されたシドニーオリンピック柔道男子100kg級で金メダルを獲得。シドニーオリンピックのほか、全日本柔道選手権やアジア競技大会など国内外の大会で輝かしい成果を残す。現役引退後は、日本オリンピック委員会(JOC)の2008年度スポーツ指導者海外研修員として、イギリスにて英語研修と欧州の柔道指導法や柔道事情を研究。2012年から全日本男子代表監督に就任し、2021年に開催された東京オリンピックまで指揮を執った。東京オリンピック終了後の2021年11月から、全日本柔道連盟の強化副委員長に就任、加えて、新設されたブランディング戦略推進特別委員会 委員長にも就任し、現在も同職を兼務している。

柔道の魅力は、選手の強さだけではない

まず初めに、井上さんが委員長を務めるブランディング戦略推進特別委員会について教えてください。

ブランディング戦略推進特別委員会は、柔道の魅力と価値を発信することをコンセプトに活動している全日本柔道連盟の組織です。一番初めに取り組んだことは、まず約2万人の方々にご協力いただいたアンケート調査でした。アンケートの結果に目を通し、いただいた声を分析した上で、必要な施策を一つひとつ考え、実行しています。

具体的に取り組んでいる内容として、大会や試合演出の改革、老若男女問わず柔道を体験していただくための普及事業、SNSなどを活用したデジタルプロモーションなどが挙げられます。これらの活動や施策は、私たちブランディング戦略推進特別委員会だけでなく、連盟内の各委員会や現場のコーチ・選手など、柔道界が一体となって取り組んでいるものです。

【全日本柔道連盟】

様々な施策を行っていらっしゃると思いますが、象徴的な施策やプロジェクトはございますか?

繰り返しにはなりますが、一番初めに行った大規模アンケートがある意味では象徴的であると考えています。柔道界の現状を適切に把握することができましたし、今後の柔道界の柱となるご意見やデータを得ることができました。閉鎖的なイメージを抱かれがちではありますが、より多くの人に開かれた柔道界を作っていくためにも、まず皆さんからの声を聞くことができたのは大きかったです。

また、連盟として初めて取り組んだドキュメンタリー映像の制作と配信は、ファンの方々からポジティブな反応を多数いただくことができました。全柔連のYouTubeチャンネル、「全柔連TV」にて公開されていますので、ぜひ視聴いただけると嬉しいです。
そもそも、柔道界がこのような改革に踏み出した具体的なきっかけや出来事はあったのでしょうか?

柔道界だけの問題ではないですが、少子高齢化の影響やスポーツの多様化によって競技人口が徐々に減っていることが直接的な原因です。日本で楽しむことができるスポーツが増え、それぞれの競技から世界で活躍する選手が誕生することはとても喜ばしいことです。一方で、柔道単体で見ると競技人口の減少が続くことは問題です。柔道の国内の競技人口は、2006年の段階で約20万人いましたが、現在は約12万人まで落ち込んでしまいました。トップレベルを目指すカテゴリーの選手たちだけではなく、老若男女に広く親しまれるように柔道の間口を広げていかなければなりません。

これまで柔道界は選手強化を強みとしてきており、昨年の東京オリンピックでは最多の9つの金メダルを獲得しました。多くのメダルを獲得したことは誇れる結果ではありますが、一方で、柔道の魅力や価値は「強さ」だけでは十分に伝えられません。メダル獲得数や実績といった競技成績が注目されるのはありがたいことですが、それのみに留まらず、柔道が持つ幅広い価値を、より身近に感じ取ってもらう情報発信の形を模索している最中です。

グランドスラム東京で、新たな一歩を。

今回東京で開催されるグランドスラムは、柔道界にとってどのような大会なのでしょうか?

グランドスラムは国際柔道連盟(IJF)が主催する「WORLD JUDO TOUR」の大会のひとつで、2022年のグランドスラムは、日本を含む9つの国で開催されます。そして、グランドスラム東京は、日本で毎年開催される唯一の国際大会です。世界から有力選手が集まることに加えて、世界的に見ても競技レベルが最高峰である日本から各階級に4選手が出場する非常に魅力的な大会となっています。

もう一点、この大会は世界選手権やオリンピックの選手選考に大きな影響を及ぼす大会でもあります。先日ウズベキスタン・タシケントで開催された世界選手権の金メダリストが今年12月のグランドスラム東京でも優勝すると、来年の世界選手権ドーハ大会の代表権を獲得することができます。世界トップレベルの選手たちの手に汗握る真剣勝負が繰り広げられること間違いなしです。

【全日本柔道連盟】

ブランディング戦略推進特別委員会として、グランドスラム東京2022では、どのような施策を用意しているのでしょうか?

グランドスラム東京の大会の価値を上げることを一つの目標としています。はじめに、試合会場では、座席のゾーニング、音響や映像効果、場内解説サービスなどをはじめ、スポーツプレゼンテーションの部分に注力します。来場いただいた皆さんに柔道を様々な角度から楽しんでいただける施策を用意しています。

さらに「柔道×◯◯」で様々なコラボレーション事業も準備を進めています。まず1つは、スポーツ庁が推進する「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」のもと、キヤノンマーケティングジャパン株式会社とコラボレーションし、ボリュメトリックビデオ技術を活用した、360度視点で柔道を楽しめる映像コンテンツや体験ブースを用意します。

360度視点で柔道を楽しめる映像を撮影する様子 【全日本柔道連盟】

2つ目は、2023年1月からテレビ東京で放送予定の柔道漫画「もういっぽん!」とのコラボレーションです。グランドスラム東京もテレビ東京で放送いただくこともあり、テレビ東京と日々連携しながら企画を進めています。キャプテン翼の影響で日本のみならず全世界のサッカー人口・サッカーファンが増加していることが最たる例ではありますが、漫画やアニメの力は非常に強い。「もういっぽん!」とのコラボレーションは、柔道に関心の薄い方々にもその魅力を届けるきっかけになりうると思います。
これまでは柔道連盟の取り組みは「柔道をする」ことに強く比重を置いていましたが、「柔道をみる」「柔道をささえる」という側面に関しては、取り組めることがもっとあったのではないかと感じています。グランドスラム東京大会では、柔道の楽しさを感じていただけるように丁寧にかつスピード感を持って準備を進めているところです。

そして、グランドスラム東京という大会が目指したい姿を明確にし、それをあらゆる方々と共有するために、大会を中心とするプロモーションのキャッチコピーを「踏み込む、一歩。次のニッポン柔道。」と定めました。グランドスラム東京大会を通じて、柔道が持つ多様な魅力や価値が広がる、その第一歩になるような大会になればと強く願っています。

【全日本柔道連盟】

最後に、映像越しではなく、会場で柔道を見る魅力や楽しさについて教えてください。

テレビや端末を通して柔道の試合を見ることで得られる視聴体験もありますが、柔道の迫力や猛々しさ、華麗さや俊敏さ、柔軟な動きは会場で観戦するからこそ体感できる魅力です。選手たちの緊張感や畳の上での動きの激しさ、技の美しさを是非会場で感じて見てほしいですね。

張りつめる緊張感の中、試合の攻防や勝敗に会場が一体となって一喜一憂したり、その時間と感情を共有できることもリアル観戦の大きな魅力だと考えています。柔道を観にきていただいたにも関わらず、スピーディーな試合展開についていけない、何の反則なのか理解ができないといったお声を来場者の皆さんからいただくこともありました。そのような声を受け、このグランドスラム東京大会ではお手持ちのスマートフォンから、リアルタイムで解説を聞くことができるシステムを導入しています。また、分かりづらい反則の種類を柔道未経験者でも分かるように説明する取り組みも進めていきます。

さらに、画面越しでは伝わりにくい「礼に始まり礼に終わる」心、相手を重んじる心や、柔道が大切にしてきた伝統、空気なども感じ取っていただけると嬉しいです。一人でも多くの方に会場にお越しいただき、柔道界の新たな一歩を見届けていただけたら嬉しいです。
グランドスラム東京大会2022について
【大会概要】
開催日:2022年12月3日(土)・4日(日)
会場:東京体育館(東京都渋谷区千駄ヶ谷1-17)
主催:国際柔道連盟
主管:公益財団法人全日本柔道連盟
日程:3日(土)男子:73kg、81kg、90kg 女子:57kg、63kg、70kg
4日(日)男子:60kg、66kg、100kg、100kg超 女子:48kg、52kg、78kg、78kg超

【チケット情報】
プレイガイド各社で先行販売は11月7日(月)23:59まで、一般発売は11月12日(土)10:00から
※大会概要・チケット購入方法等に関する詳細は、全日本柔道連盟公式サイトからご確認ください。
https://www.judo.or.jp/tournament/11311/

【全日本柔道連盟】

INNOVATION LEAGUE 2022がスタート!

3年目の開催となる「INNOVATION LEAGUE 2022」が8月4日にローンチ。今年度はコラボレーションパートナーとして「全日本柔道連盟」と「日本アイスホッケー連盟」の2団体が参画。アクセラレーションは10月26日にキックオフし、2023年3月中旬頃のデモデイに向けてプログラムを開始予定。コンテストへの応募は2022年12月5日まで。募集要項など詳細は公式ウェブサイトをご確認ください。

執筆協力:清野修平
新卒でJリーグクラブに入社し、広報担当として広報業務のほか、SNSやサイト運営など一部デジタルマーケティング分野を担当。現在はD2Cブランドでマーケティングディレクターを担いながら、個人でもマーケティング支援を手掛けている。株式会社セイカダイにてデジタル・コンテンツ領域を担当。
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著者プロフィール

スポーツテックをテーマにした世界規模のアクセラレーション・プログラム。2019年に実施した第1回には世界33カ国からスタートアップ約300社が応募。スタートアップ以外にも国内企業、スポーツチーム・競技団体、スポーツビジネス関連組織、メディアなど約200の個人・団体が参画している。事業開発のためのオープンイノベーション・プラットフォームでもある。現在、スポーツ庁と共同で「INNOVATION LEAGUE」も開催している。

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