ヴィッセル神戸GK飯倉大樹 「俊さん（中村俊輔選手）がいたからこそ今の自分がある」「僕の中では日本の中で一番のキッカー」
中村俊輔選手とは、彼が横浜F・マリノスに復帰した2010年から2017年にジュビロ磐田に移籍するまでの7年間同じチームで共に戦った先輩後輩という間柄だ。
チームメイトだったころは、「年末になると毎年温泉に誘ってくれて。一年お疲れ様会みたいなものを（開催してくれて）箱根とか熱海に連れて行ってもらっていた」という。
ただ最初からすぐに打ち解けたわけではなく、飯倉選手が「26、27歳くらいまでは、そんなに仲良くはなかった」そうだ。
それが、中村俊輔選手が復帰して２，3年後となる2012シーズン、2013シーズン頃から急速に距離を縮めたようだ。そこには、飯倉大樹選手のサッカーへの取り組みの変化が関係していた。
「俊さん（中村俊輔）は、努力の人で、その中でチームメイトとかスタッフとかいろんな人を見ていて。若いころは、サッカー以外のことで遊んだりしていて、その時はそんなに一緒にいることはなかったですが、ある時を境に自分がもっとサッカーに集中して、もっとちゃんとやらなければいけないってなったら、そのタイミングですごい声をかけてくれるようになって。そこからはずっと一緒に練習して、練習終わって風呂行って、昼飯行って」といった関係性となったようだ。
飯倉大樹選手が、サッカーに集中するようになったころから、一緒に練習するようになるというエピソードひとつをとっても中村俊輔選手がチームメイト含め、様々なことを日頃からよく観察していることがうかがえる。
それからは「アゴ」という愛称までつけられ、「ほとんど毎日」練習後にFKやシュート練習を受けることになる。「ほぼ毎日、“アゴ”やるぞって言われて、シュート練習をしていて。たまにDFも入れて1対1とか、そんな感じでずっとやっていました」。
この中村俊輔選手との練習が、飯倉大樹選手の長いキャリアを築く一つの大きな要素になったと語る。「強いシュートだけではなくて、技術的なキックの種類とかループもそうだし、コースに対して曲げて狙ってきたり、落としてきたり、球種がすごく多くて。その中でも駆け引きもあったので、自分がこういう風に（現役選手として）長くやれているのも俊さんのシュート練習もそうだし、昼ご飯や風呂とかでずっとサッカーの話とか、今のチームがどんな状況だとかずっと話していたので。全てトータルして、今の自分があるのはそうやって俊さんが見守ってくれていたり、連れまわしてくれたことが、かなり大きいかなと思います」。
そんな関係だからこそ引退については、「本当に寂しいですよ。何より寂しい」とこぼし、「今はいろんな人から連絡が来ていると思うし、年下の僕がわざわざ、“お疲れ様でした”とかって連絡するのも（違うというか）。会ったら直接、もうちょっとやってくださいよって」伝えるという。
僕の中では日本で一番のキッカー
誰よりも多くFKを受けてきたひとりだからこそ、キックの種類も多く知っていて、更に駆け引きがあるからこそ予測することが難しく、「相手として何回かFKをやったときは裏をかかれたり、やっぱり俊さんだなって思うシーンが多くて、日本の中ではキッカーとして一番嫌」であり、「僕の中では日本の中で一番のキッカー」だと話す。
最後の対戦は、昨シーズン11月20日にニッパツ三ツ沢球技場にて開催された横浜FC vs.ヴィッセル神戸との試合。この試合では忘れられない、「神様からの贈り物」であり、「僕の中の全てです」と話す一幕があった。
ヴィッセル神戸が2-0とリードする展開で迎えた後半39分に中村俊輔選手が出場すると、アディショナルタイムに横浜FCに直接FKが与えられる。キッカーはもちろん、中村俊輔選手。蹴る前には、長く練習をともにした二人だけが分かる駆け引きがあった。
「アイコンタクトがあって、絶対狙ってくるなって思っていて。距離も少し遠かったのですが、こっち蹴りそうだなって駆け引きが二人の中であって」と懐かしそうに話した。
「試合終わった後もすぐに俊さんが来てくれて、ちょっと距離が遠かったなって、もっと距離が近かったら違う駆け引きがあったねって話をして」
こういったやり取りがなによりもうれしかったようで、「FKをキャッチできたっていうのも神様からの贈り物というか。色んな人がその動画を撮ってくれていて、僕の携帯にはそれがあるんで。今年、引退してしまうということですが、去年、相手でしたけど同じピッチで試合ができたことが、感慨深いというか、俺の中での全てです」と名残惜しくも、彼にとって大切な思い出となった。
改めて引退に関しては、「寂しいけど、新しい選手が育つという意味では、また違う形で俊さんもそうですけど、新しい選手の成長などいろんなものがプラスになってくれたらいいかなと思います」と次なる世代の新たなキッカーの台頭を願った。
新たな選手が「俊さんを超えて良い選手になってくれれば俊さんも、自分がやってきたことも間違いではないというか、もっともっといい選手が出てくることを俊さん自身も望んでいると思う」と彼の気持ちを思った。それには、サッカーが大好きな中村俊輔選手だからこその珍しいエピソードがあった。
「たまに相手チームに声を掛けていたりするじゃないですか。いまのああした方がいいよ」と試合中に相手選手にまでアドバイスを送っていたそうだ。
「本当にサッカーが大好きな人だから、これから良い選手が出てきてくれたらいいんじゃないかなって寂しい反面、そういった気持ちです」と今の心境を語った。
飯倉大樹選手にとって中村俊輔選手の存在は大きく、昨年の試合以来、会えていないとのことだが、「一緒にできたこと自体が幸せなことで、かわいがってもらえたことも幸せだなって思います」と共に練習した日々を懐かしく振り返りながら、感謝の言葉があふれた。
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