金メダリストがハーフマラソンに挑戦|水泳・木村敬一が走る〜練習編〜
【 photo by Takaya Hirano】
スイマーの木村にとっては、屋外でスポーツをすること自体が新鮮。刺激の多い挑戦だ 【 photo by Takaya Hirano】
大会当日も伴走する福成さん(中央右)とガイドロープを手に走る木村(中央左)。左は、アドバイスを送るトレーナーの森川さん 【 photo by Takaya Hirano】
皇居周辺で初練習。地面の反発を実感したという 【 photo by Haruo Wanibe】
水泳との両立で悪戦苦闘
「あくまでも水泳が軸なので、走ってボロボロになってからは泳ぎたくない。だから、水泳の練習は朝に終わらせています。最初はウエイトトレーニングもやっていたのですが、そうすると昼食後の休憩が短くて気持ち悪くなってしまうので、走らない日にウエイトを行うようにしました」
9月中旬には、本職の水泳でジャパンパラ水泳競技大会に出場。男子50m自由形(S11)では大会記録をマークし、男子100m平泳ぎで優勝と力を示した。大会後には、ランニング練習のボリュームを上げていった。はじめは、5kmほどの距離で練習を繰り返した。スロープのような上り、下りのあるコース。周囲に人が多くいるコース。「水泳ではコースが区切られている。周囲に人がいる中で走るときは、少し怖いです」と話したが、伴走者から周囲の状況や自分自身の変化について情報やアドバイスをもらいながら、未知の世界を経験した。9月末までには、練習の距離を10kmに伸ばした。1km6分半のペースで走り、最後は5分45秒まで上げてみせた。頼りになるのは、伴走してくれる森川さんと福成さんだ。疲れてくると前傾姿勢になる癖を指摘され、上体を起こすことを意識するようになった。
不慣れなランニングに苦労しながらも、木村は、トップパラアスリートとして限界に挑戦する姿勢を崩さない 【 photo by Takaya Hirano】
「走りましたよ! 満身創痍。足だけじゃなくて、体全体が動かないし、腹筋の内側が痛いというか、骨が折れるんじゃないかと思いました。呼吸は問題ないけど、前に進まない感覚。苦しさの向こう側に行ったなという感じでした。でも、水泳の練習で同じ感覚になることは、よくあるんです。そのあと、だんだん、元気が出てくるんです。ランニングでも、ようやくこの領域に来たかと。この後、こうなるのは知っているぞという感じです」
10kmを越えたり、ペースを上げ過ぎたりすると、身体が悲鳴を上げる。しかし、水泳で何度も限界を超えて世界の頂点に立った男は、限界に挑むことを楽しむ、アスリートとしての真骨頂を見せていた。
スイマーとして鍛えた心肺機能には自信がある。一定のペースを保てるかどうかが重要だ 【 photo by Takaya Hirano】
発見の日々は、楽しい
大会のコースは、国立競技場から水道橋、神保町、神田を通って日本橋で折り返す、東京パラリンピックのマラソンコースを活かしたもの。目標タイムは2時間35分。初めての挑戦に臨む木村は、果たして走り切れるのか。水泳との二重生活で取り組んだ練習の成果が試される。
全盲のスイマーでありながら、ハーフマラソンに初挑戦する木村。レース当日は、1ヵ月半の練習の成果を存分に発揮してくれるに違いない 【 photo by Takaya Hirano】
text & photo by Takaya Hirano
※本記事はパラサポWEBに2022年10月に公開されたものです。
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