金メダリストがハーフマラソンに挑戦する理由|水泳・木村敬一が走る〜はじめの一歩編〜
【photo by Haruo Wanibe】
参加するのは、10月16日に行われる「東京レガシーハーフマラソン2022」。国立競技場から水道橋、神保町、神田を通って日本橋で折り返す、東京パラリンピックのマラソンコースを活かして行われる。
水泳選手がなぜ走るのか
水泳でパラリンピックに4大会出場し、東京大会で悲願の金メダルを獲得した木村敬一 【photo by Takaya Hirano】
木村は語る。
「パラリンピックの自国開催は『最大の切り札』だったと思います。そのカードを切った後、スポーツを通して、障がいのある人たちに関心を持ってもらうためには、何かしら行動を起こし続けないといけません。その点で、レガシーとして大会を残してもらえるのは、ありがたいです。アスリートにできることは、体を動かして挑戦していくこと。障がいがあっても、やったことがないことに挑んでいく様を見てもらうことで、私を含めた様々な障がいのある人に注目してもらうことができて、より良い共生社会の実現につながったら、頑張る甲斐があるなと思います」
8月末、「アシックスラン東京丸の内」で足形を計測し、ランニングシューズをゲット! 【photo by Haruo Wanibe】
伴走者との顔合わせ。「走るのは小学生以来。不安しかないですが、サポートよろしくお願いします」(木村) 【photo by Haruo Wanibe】
初の練習では皇居周辺を計1km強走った 【photo by Haruo Wanibe】
屋外はややこしい
8月末から走るトレーニングを始め、少しずつ分かって来たこともある。水泳との共通点を見つけて納得することも多い。
「走っても、泳いでも、後半に疲れると、フォームが崩れがち。走れば、あごが上がって前に出す足に重心が移りにくくなるし、泳げば、腰が反って足が沈んでいく。人間の体は陸でも水でも、しんどいときは同じことをするんだと思いました。レースまで約1ヵ月半。距離を踏んでから、動きの質を上げていくという調整法も同じだし、レース当日の時間に合わせて生活を調整するのも同じです」
8月末、木村は初めての練習に挑んだ 【photo by Haruo Wanibe】
「水泳では、スピードを上げるときに、ひとかきで大きく進みます。ランニングでも同じ感覚で走ってしまいがちなのですが、一歩を大きくすると、前に進むのではなく、上に跳ねて無駄に力を使って、疲労が溜まるのが早くなるようです。歩幅を変えずにテンポを上げようと言われています」
木村はアスリートだが、走ることについては自身が言うように素人。未知の世界へ、一歩ずつ努力を積み重ねた先にレースがある。困難に挑むことに楽しみを探し、その困難を乗り越えることで人間の持つ可能性を知らしめることは、木村のアスリートとしての軌跡と重なるものだ。悲願だった金メダルを獲得して、水泳での努力は世界が認めるものになったが、その努力の素晴らしさを別の形で示す機会になる。
障がいのあるランナーと伴走者をつなぐ伴走ロープ。「きずな」とも呼ばれる 【photo by Haruo Wanibe】
「考えてみれば、その日だけ走るわけではなくて、準備をしていかないといけないですよね。マラソンへの挑戦は、レースに向けてステップを踏んで努力を重ねていくことを意味しているわけだから、それぞれに、見ているだけでは分からない努力がきっとあったんだなと思うようになりました」
ランニングを始めてからは、毎日違うことが起きて楽しいと話す「挑戦者・木村」の姿こそ、このチャレンジが持つ価値となる。どんな過程を経て、レースに挑むのか楽しみだ。
レース当日伴走を務める福成忠さん(左)、コーチ兼練習パートナーの森川優さん(右) 【photo by Haruo Wanibe】
text by Takaya Hirano
photo by Haruo Wanibe
※本記事はパラサポWEBに2022年10月掲載されたものです。
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