全米オープンで高室侑舞が躍進! 四大大会初実施の車いす・ジュニア開催の意義
そしてもう一つ、この競技の未来にとって大きな意義があったのは、ジュニア車いす部門(男女シングルス、ダブルス)が初開催されたこと。グランドスラムレベルの大会で初めてであり、そこでも日本人選手の躍進があった。
ファイナルセットでリードするも……
敗れたとはいえ、終始堂々としたプレーに、観客から惜しみない拍手が送られた。だが、意外にも「こんなにたくさんのお客さんがいる中で自分のプレーを披露したことはないので、ずっと緊張していました」と試合後はリラックスした表情で話した。
「いざ試合となったときは、ネガティブにはならないように、(ボールが)入る、入らないではなく、楽しくやることを意識しました」
会場の広さ、観客の多さに圧倒されながらも、「試合の途中で応援してくださる方たちの声は聞こえた」と冷静な一面もうかがえた。
試合を見守っていた姉の高室冴綺が試合直後、落胆する妹を長い時間かけてしっかりと抱きしめ、声をかけている姿が印象的だった。
競技者として先輩である姉の目には、はたから見ていても緊張していたのがわかったという。
「準備の面で『こういうときはどうしたらいい?』という相談を受けました。それでも、妹は自分でしっかりと戦い切る準備はしていたのかなと思います」
そんな冴綺の隣で侑舞本人は笑う。
「なるようにしかならないと思っていました」
ジュニア準優勝の自信を胸に
「準優勝でしたけど、ここで、ここまで通じるということは、他の国際大会でもできると思うので、来年の全米オープン優勝を目指したい。それまでにはジュニアマスターズ、他の国際大会でも結果を残したい」と意欲をみせる。
今回、高室が大きな手ごたえを掴んだジュニアカテゴリーの新設は、どんな意義があるのだろうか。
「せっかく才能がある選手がジュニアにいても、彼らの試合は、グランドスラムレベル大会のような世界トップレベルの16人にまでにならないと見る機会がなかった。去年まではさらにトップ8人だったわけです。もし今回のような機会がなければ、今大会の男子シングルス、ダブルスで優勝した、17歳のベン・バートラム(イギリス)のようなレベルの高いプレーを多くの人が見る機会はなかったでしょう。次世代のプレーを見る機会を作ることは、車いすテニスの競技人口を増やし、競技のレベルを高めることにもつながる。全てのグランドスラム大会が車いすテニスのジュニア部門を設けるべきだと思います」
「ほんとに良い試合だった」。USTAの車いすテニス委員で、車いすテニス大会「ケイジャン・クラシック」のディレクターも務めている、ジェニファー・エドモンソンさんは、高室とレナイの決勝を振り返る。
「彼女たちはナーバスになっていたと思うけど、それを乗り越え、試合の最後に最高のプレーをした。アスリートとしてはもちろんのこと、若い彼女たちにとって収穫になったと思います。同世代にとっていいお手本になるのではないでしょうか」
エドモンソンさんは続ける。
「今回のジュニア部門初開催は、若い世代に向けて、『頑張ればグランドスラムに行ける』という可能性を示したことに大きな意義がある。車いすテニスという競技を発展させ続けるために、長い間待ち望んでいた歴史的な瞬間でした」
今回、グランドスラム準優勝という大きな結果を出した15歳は、同世代に向けるメッセージを求められると、凛とした表情でこう話した。
「途中で障がい(者)になったり、私みたいに生まれつきだとか、いろんな方がいると思います。私もそうですが、諦めない心と、一歩踏み出せる自信があると、試合のときとか、テニスを始めようと思ったときとか、そういうときに役立ちます」
世界が目にした高室のプレーは、車いすテニスの発展だけでなく、同世代の未来も明るく照らすものになったはずだ。
edited by TEAM A
text by Shintaro Tanaka
photo by AP/AFLO
※本記事はパラサポWEBに2022年9月に掲載されたものです。
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