フランスとの激闘、そこで若きなでしこが知る役割

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【©2022 FIFA】

世界一となった2018年大会から4年、再び世界の頂点を目指し、サッカーU-20日本女子代表は、FIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ2022に臨む。なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップで優勝した2011年にはまだ、彼女たちはテレビの前で目を輝かせる少女だった。あれから11年が経ち、大人になった選手たちは、前回大会の中止、WEリーグでの1年目、追い越すべきなでしこジャパンという存在など、それぞれの思いと向き合いながらコスタリカの舞台に上がる。まっすぐな眼差しで戦う彼女たちの、大会へ向けた思いを連載で綴る。

味方に救われたフランス戦

5人目のキッカー、田畑晴菜のPKが左サイドネットに沈んだことを確認すると、居ても立ってもいられずに選手たちはチームメイトに駆け寄っていった。その中でも石川璃音、松窪真心と共に先陣を切って走り出した土方麻椰は目を腫らし、涙を溢れさせていた。

「3失点目が自分のせいだとずっと思っていて、そこから取り返さないとと思っていて。自分が本当は流れを変えるようなプレーをしなければいけなかったのにできなくて、それでも次につなげてくれたみんなに感謝の気持ちでした。嬉し涙と悔し涙の両方です」

FIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ2022、準々決勝・フランス戦の延長後半、同点で迎えた110分の場面。味方のポストプレーからミドルシュートを突き刺した相手選手に対し、最後に寄せていったのが土方だった。脚を伸ばしてシュートブロックを試みたが、無情にもボールはその下をすり抜けた。「追加点を取ってリードを広げたい」と意気込み入ったピッチで、突きつけられた現実は厳しかった。

しかし、その後にドラマは待っていた。延長後半アディショナルタイムに得たFKを大山愛笑が相手ペナルティエリア内に送ると、飛び込んだ藤野あおばがGKと交錯し転倒。オンフィールドレビューに及んだVAR(ビデオアシスタントレフェリー)の末に日本にPKが与えられ、これを藤野自身が蹴り込み土壇場で同点に追いついた。

「長かった、本当に長かった」と松窪は、PKの判定が出るまでの時間を振り返る。あの時ほどグラウンドで神様に願ったことはこれまで無いという。そんな松窪もまた、試合後は忸怩たる思いを抱えていた。「自分が周りを助けようと思ってピッチに入ったのにすぐに失点してしまって、逆にみんなに『大丈夫だよ』と声を掛けられていました」と、申し訳なさを募らせた。最終的に勝利を掴み取ったチームの中で、途中出場ながら「チームのプラスになれなかった」と責任を感じていた2人は、それゆえの安堵感から勝敗が決した瞬間、一目散に駆け出したのだろう。

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あらゆるポジションで示す特長

今大会、2人はこれまで全試合に出場を続けている。しかしその出場の仕方は様々だ。松窪は大会初戦とフランス戦で途中出場、グループステージでのガーナ戦、アメリカ戦に先発で出場している。一方土方は全試合に途中出場しているが、本職とする最前線の他にインサイドハーフやサイドのポジションも務める。登録されている21選手で6連戦を戦う中、多様な役割をこなせる両選手はチームの戦いに幅を持たせている。

「途中から出ているので、まずはみんなより走らなければと思っていますし、その中でボールを奪って攻撃の起点になることは求められていると思います。守備から攻撃への切り替えのところでボールに関わっていくこと、あとは常に味方と近い距離を保ちながらもスペースを見つけて走っていくこと、そういう状況判断をしながらプレーすることは意識しています」

そう自分の役割を表現する土方が、いずれのポジションでも遜色ないパフォーマンスを見せる裏側には、日頃プレーするクラブで培った経験にある。主将を務める日テレ・東京ヴェルディメニーナでは主に最前線を務めるが、2種登録でプレーするトップチームのベレーザでは複数のポジションを担う。そうした経験に加え、昨年末から今年2月にかけて開催された皇后杯でのブレイクが及ぼす影響もあろう。WEリーグクラブ相手に3試合で2得点と結果を残し、「プロが相手でも自分がどれだけできるかがわかった」と自信を深めた。

その自信を裏付けるように、今大会でも確かな働きを示した。グループステージ2試合目のガーナ戦、後半開始からサイドハーフのポジションで出場すると、61分に的確なポジショニングから先制点を呼び込む。FW浜野まいかが右サイドに流れたことを確認すると、その内側からペナルティエリア内にランニングしパスを受けクロスを送る。このボールが相手のハンドを誘いPKを獲得、ゴールにつながった。まさに“味方と近い距離を保ちながらスペースを見つけ走った”プレーで先制点のきっかけとなり、チームはその後追加点を加えてグループステージ突破に勢いをもたらす勝点3を得たのだった。

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守備で見せた献身

松窪のハイライトは、やはりアメリカ戦のゴールだろう。グループステージ突破が懸かった第3戦の55分、敵陣で山本柚月がボールを奪うとすぐさま前線へ飛び出しパスを受け、最後は左足でゴールにねじ込んだ。「本当に嬉しくて、少し泣きそうでした」と話すように、両腕を空に突き上げて喜ぶ目には、今にも涙が溢れそうだった。それには理由がある。

「大会前の練習試合のカナダ戦や、オランダ戦、ガーナ戦と、チャンスが多くあったのに決められていませんでした。もっと言えばこれまでのトレーニングキャンプでの練習試合でもゴールを決めたことがなくて。それがこの初ゴールが大舞台での大事な一点になって、そう思うと嬉しくて」

思い出して再び涙を浮かべる松窪は、ゴールが遠かったこともあってか、守備にプレーの重きを置いていたという。「俊敏性やスピードで守備のスイッチを入れること、わかりやすくしっかり寄せて相手を最初に困らせること」を自身が果たすべき役割として、最前線で相手を追い回す。2021シーズンになでしこリーグ2部で得点王となった結果にも「それ以上にたくさんシュートを外しているし、自分は守備が中心」と、口をついて出るのは前線からのディフェンスに関することが多い。無論、ゴールの多寡に関わらず、その献身はこれまでの試合でチームを助けてきた。

しかし、そんな松窪もくだんのフランス戦を経て別の考えが頭をよぎった。

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誰のための役割か

「延長の前半に(藤野)あおばさんからのボールを受けて打ったシュートがGKに当たって、結果的にはオフサイドだった。だけど試合から1日経って思うのは、もしあれがオフサイドじゃなくて、チームとしてそのあと負けていたら、一生後悔していただろうなと。それからそのシーンは映像で何回も見ていますし、やっぱり点を決めないと試合には勝てない。最後のPKのようにあんなに心臓に悪い緊張はもうしたくない」

守備での貢献はもちろん続けるが、それでも明確に「考えが変わった」という。繰り返し見るそのシーンがそうさせるのと同時に、そこには仲間の存在も浮かぶ。

「自分が試合に出ている時に『ベンチからの声ってすごく力になる』と感じるんですよね。試合に出ていない選手もいる中で、弱音を言ってはいられないと思いました。だから試合に出たらゴールを決めたい。ゴールを決めてチームに貢献したいという思いが今は強いです。そして自分がベンチにいる時は、みんなが頑張れるような声を掛けたい」

自分は大きい声を出すのが得意なので、とはにかみながら、しかし語る言葉はいつになく力強い。そんな松窪に呼応するように、土方もまた残る2試合に向けて気持ちを新たにする。

「個人としてはたくさん課題がありますけど、試合に出たらチームのために走って、誰よりもボールに関わって、ゴールに向かう姿勢を見せたい。どのポジションで出ても攻守でチームに貢献したいです。フランス戦は先発で出ていた(長江)伊吹さんや(石川)璃音さん、愛笑が終盤になっても声をかけてチームにパワーを与えてくれていました。ピッチにいてもベンチにいても、自分も声を出して引っ張っていけるようにしたいです」

ピッチに立つのは11人だが、果たすべき役割はチーム全員にある。試合出場が何分だろうと、ポジションがどこであろうと、その重みに変わりはない。求める頂点に全員でたどりつくために、若きなでしこたちはコスタリカでそれぞれの役割と向き合っている。

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<プロフィール>
MF 14 松窪真心(まつくぼ まなか) 2004年7月28日生まれ、JFAアカデミー福島所属
スピードと俊敏性が魅力のアタッカー。2021シーズンのなでしこリーグ2部で得点王に輝き、2023年からのWEリーグ・マイナビ仙台レディースへの加入が内定している。皇后杯での土方の活躍を見て、興奮のあまり長文のメッセージを本人に送る。

FW 17 土方麻耶(ひじかた まや) 2004年4月13日生まれ、日テレ・東京ヴェルディメニーナ所属
第43回皇后杯での日テレ・東京ヴェルディメニーナの躍進を支え、敗れた準決勝を除く全試合で得点。WEリーグクラブ相手にも2ゴールをマークするなど、その得点感覚はトップカテゴリでも通用することを証明済み。フランス戦前に「今日は決められる気がする」と松窪のゴールを予言した。
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著者プロフィール

日本サッカー協会(JFA)は、日本サッカー界を統括し代表する団体として、サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の発達と社会の発展に貢献することを目的に活動しています。 JFA公式Webサイトでは、日本代表からグラスルーツまで幅広いサッカーの現場の話題をお届けします。

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