越え難き憧れの壁、登った先で若きなでしこが望む景色

チーム・協会

【©2022 FIFA】

世界一となった2018年大会から4年、再び世界の頂点を目指し、サッカーU-20日本女子代表は、FIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ2022に臨む。なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップで優勝した2011年にはまだ、彼女たちはテレビの前で目を輝かせる少女だった。あれから11年が経ち、一回り大人になった選手たちは、前回大会の中止、WEリーグでの1年目、追い越すべきなでしこジャパンという存在など、それぞれの思いと向き合いながらコスタリカの舞台に上がる。まっすぐな眼差しで戦う彼女たちの、大会へ向けた思いを連載で綴る。

伸び悩んだ数字

「ほっとしましたし、チームのみんなにありがとう、という気持ちです」

3連勝でグループステージ突破を決め、福田史織はそう胸をなでおろした。FIFA U-20女子ワールドカップコスタリカ2022を戦うU-20日本女子代表は、グループステージ最終戦でアメリカに3対1で勝利を収め、強豪ぞろいのグループを1位で勝ち上がった。大会に登録されている21選手のうち20人がこの3試合でピッチに立ち、ワールドカップという舞台を経験している。口を開けばみな揃って「チームの雰囲気がいい」と語るこのグループだが、それは単に勝利を重ねているからだけではなかろう。7月末に現地入りしてから約3週間、「試合を戦うにつれてチームとしてできることが増えてきて、信頼し合える一体感が増した」と島田芽依はチームに漂う前向きな空気を表現する。また学年にして4世代にまたがるこのチームにあって「自分たちは先輩と思われていない」と後輩を前におどける福田と島田に、慌てて「思っていますよ!」と返すのは、2人より1学年下の石川璃音だ。年齢に関係なくオープンにコミュニケーションが取れることもまた、このチームの雰囲気を温めている。

この3人は日頃、三菱重工浦和レッズレディースで共にプレーする関係だ。石川は今大会ここまで3試合連続で先発フル出場し、福田は初戦となったオランダ戦で完封勝利に貢献。島田はコンディションの理由から最初の2試合はベンチを外れたものの、アメリカ戦で途中出場すると試合のクロージングで確かな役割を果たした。所属クラブは昨季WEリーグを2位でフィニッシュし、皇后杯で優勝を果たした日本女子サッカー界で指折りの強豪だ。そんなチームで積み重ねる日々が彼女たちのパフォーマンスを支えていることは間違いないが、出場記録の数字はいささか寂しい。昨季のWEリーグ20試合のうち、島田は先発出場2試合のみ、福田は全試合でベンチ入りするも出場はなく、石川はベンチ入りも1試合のみで、出場はゼロという数字だった。

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立ちはだかる憧れの人

その背景には、越えるべき大きな壁が存在している。GKの福田の前には池田咲紀子選手、DFの石川には南萌華選手(現・ASローマ)や高橋はな選手、そしてFWの島田には昨季のWEリーグ得点王、菅澤優衣香選手という顔ぶれだ。いずれもなでしこジャパンに名を連ねる代表選手たちである。

「憧れだし、ずっと目標にしてきた選手」

福田はその憧れの人を親しみと共に “さっこさん”と呼ぶ。中学時代に浦和のアカデミーに加入した福田は、セレクションで披露したその身体能力を買われGKにコンバートされたが、実は池田選手もGKでプレーするようになったのは中学時代からだという。そこには同じ境遇を辿るからこそのリスペクトもあろう。当時のコーチからも「さっこをずっと見ていろ」と指導を受けた福田は、「キックフォームもさっこさんをお手本にして蹴ってきましたし、なでしこリーグの試合でボールガールをする時はゴールの後ろでさっこさんのコーチングを聞いていた」と、文字通り一挙一動に視線を送った。

中学時代から先輩のプレーを見て学んだのは島田も同じだ。今では同僚となる菅澤選手だが「近くで見ていて学ぶことが多い」と、共にプレーするようになってからも目標とする存在に変わりはない。高校時代をJFAアカデミー福島で過ごし、特別指定選手を経て2022年に正式に浦和の一員となった石川は「萌華さんや長船加奈さん、はなさんような日本のトップレベルの選手たちのもとで学びたいという思いで浦和に入った」と、自らその環境を選択したという。日本のトップレベルを身近に感じることは、間違いなく彼女たちにとって大きな意味を持っている。一方で、その憧れの存在とのポジション争いに勝たない限り、試合のピッチに立つ道は見えてこない。

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代表活動での刺激と自信

「目標であることに変わりはないですが、追い越していかなければいけないですし、自分たちがもっと突き上げていかないとチーム内での競争も出てこないとすごく感じました」

島田の言葉ににじむように、いつまでも憧れのままにしてはおけないことは、彼女たちも当然理解している。ベンチ入りを争う日々が続く中、石川は試合に向けての準備に力を注ぎながらも「筋トレなど、この状況だからこそできることにも取り組んだ」と明かす。サブGKとして突発的な出場も想定した準備を求められた福田は「試合経験が積めていない中で、自分が途中から出てうまくできるのかという心配はあった」と、試合出場への意欲と不安が隣り合わせの日々だった。3人ともに、それぞれの境遇の中でもがいたWEリーグ1年目だった。

しかしその合間で行われる代表活動が、自分たちの現在地を知る機会になったという。特に活動期間中に行う練習試合は「自分が試合でどれだけやれるかを確認する」場だったと島田は語る。そこで試合勘を補い、来るべきワールドカップに向けても必要となる実践経験を重ねた。また代表チームには所属クラブで着々と試合出場を重ねる選手もおり、「試合に出ている経験から教わることもあった」と福田は仲間へアドバイスも求めたという。それと同時に受ける刺激も多くあった。出場記録を見れば自分より数歩先を行くチームメイトに対して石川は、「自分も負けていられないという気持ちは常に持っていた」。日数が限られる代表活動だが、チームメイトとの切磋琢磨と試合経験を自信にし、糧として浦和へ持ち帰った。

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壁の向こう側にある景色

史上初のFIFA U-20女子ワールドカップ連覇を目指す若きなでしこたちは、いよいよノックアウトステージに臨む。

「やっとグループステージが終わったという感じ」石川は緊張が張り詰めた3試合を終え一息をつく。センターバックとして3試合を1失点に抑える奮闘ぶりだが、「そんなに自信はついていないですし、まだまだです」と話す調子は思いの外におとなしい。

「相手のFWの抜け出すタイミングや、日本人とは違うところに対応しきれずにやられているシーンがありました。ただヨーロッパの国としてオランダ、アフリカのガーナ、そしてアメリカと、色々な国と対戦できたので、準々決勝からは相手のやり方にしっかり慣れたプレーをしたいです」

初戦でオランダを零封し、チームに勢いをもたらした福田にも、試合に出たからこそ感じられることがあった。「緊張感がある中で、ボールに触れる回数が少なくても自分のリズムを作っていかなければいけない」とは、ベンチから眺めているだけでは知り得ない感覚だろう。島田もまた「短い出場時間でもチャンスを決めきる力はまだ足りない」と、自身の持つ課題をより明確にした。

コスタリカで戦う後輩たちの奮闘ぶりは、日本にいる先輩たちにもしっかり届いているようだ。

「さっこさんやはなさんから連絡が来て『史織なら大丈夫だから緊張しすぎずに楽しんで』と声をかけてもらいました」そう話す福田の表情には安堵が漂う。島田は「試合出場が何分でも1点決めるのがFWとして大事なこと」と熱い檄を受け取った。南選手からのメッセージを見るために石川のスマートフォンを囲み、先輩の優しさに頬を緩める3人の姿は、彼女たちがまだ20歳に満たない若者であることを思い出させてくれる。

彼女たちの越えるべき壁は、しかし同時に彼女たちを支える柱でもある。「本当にみんな良く連絡をくれるんです」と感謝しながら、石川は志を高く掲げる。

「このチームで優勝したいです。ただこの大会が終わりじゃない。ここで結果を残すことが帰った後のチームでのプレーにもつながりますし、その先に代表があると思っています」

今はまだ、その壁の先にある景色を見ることはできないが、それでも彼女たちは一歩ずつそれをよじ登っていかなければいけない。そこに立ちはだかるのは自らの行く手を阻むものではなく、進むべき方向を示してくれる道標なのだから。

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<プロフィール>
GK 1 福田史織(ふくだ しおり) 2002年6月13日生まれ、三菱重工浦和レッズレディース所属。
浦和のアカデミーで中学、高校と過ごし、2020年にトップチーム登録。長い手足と身体能力を活かしたセービングは、チームメイトで元なでしこジャパンの安藤梢選手に「トビウオセーブ」と名付けられる。GKコンバート前はFWを定位置にし、中学時代はGKとの二刀流でプレーした時期も。

DF 4 石川璃音(いしかわ りおん) 2003年7月4日生まれ、三菱重工浦和レッズレディース所属。
高校時代をJFAアカデミー福島で過ごし、XF CUP 2020 第2回 日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)の優勝に貢献。長身を活かしながら、気持ちのこもった守備が特長。コスタリカ出発前に激励を送られた浦和の先輩・安藤梢選手と猶本光選手を「神コンビ」と慕う。

FW 13 島田芽依(しまだ めい) 2002年5月8日生まれ、三菱重工浦和レッズレディース所属。
ジュニアユース、ユースと浦和で育ち、高校3年時の全日本U-18女子サッカー選手権大会では4試合で3得点を挙げチームの準優勝に貢献。昨季のWEリーグでは得点こそ無かったものの、第4節大宮V戦で2アシストをマークするなど、短い時間で存在感を示した。
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著者プロフィール

日本サッカー協会(JFA)は、日本サッカー界を統括し代表する団体として、サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の発達と社会の発展に貢献することを目的に活動しています。 JFA公式Webサイトでは、日本代表からグラスルーツまで幅広いサッカーの現場の話題をお届けします。

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